第2章【6】対『固有結界守護者』戦


「ふぎぎぎっ…」

『ぐぬぬぬっ…』



ヴィンセントと守護者は、前方へ手を押し出す形で、互いの手を握り締めて拮抗している。

どちらも気を抜けば、相手からの攻撃を食らってしまう。



(…大分、こいつにダメージを与えられたはずや…

けど、まだや…もうちょい時間をかけんと…)



ズルズルと足が後退していく。

純粋な力は相手の方が上なのか、ヴィンセントは歯軋りしながら必死に

踏ん張るものの、状況は好転しない。


このままではやばい…と内心、焦りが生じていたその時だった。



『のぶっ!』



突如、守護者の頭上に巨大な青い者が落下してきた。



「ヴィンセントさん、大丈夫!?」



その正体は…ドラえもん。

守護者の頭上で、【ビッグライト】の光を受けて巨大化して、守護者の動きを封じたのだ。



「ナイス・タイミングや!」

「お待たせ…て、うわっ!」



背中に馬乗りしていたドラえもん。

だが、守護者は振り払うように立ち上がった事で後ろへずり落ちてしまう。



『ふぅ…ふぅ…』



やはり、この固有結界を守護する役割を担っているのかしぶとい。

しかし、ヴィンセントとの取っ組み合いで体力を著しく消費したようで息切れしている。



(そろそろ頃合いやな…)

(うん、後は…)



ヴィンセントとドラえもんはアイコンタクトをすると、守護者へ突進していく。



「いくでぇええ!」

「いくよぉおお!」



彼等は丸っこい手(拳)を、同時に守護者の腹部へ打ち付けた。



「「ダブルパーンチ!!」」


『ぬぶぅうううう!!???』



二体のコラボ攻撃はクリーンヒットして、守護者はなんとも間抜けな叫び声をあげながら、

弧を描くように吹っ飛んだ。


数回、水面をバウンドして地に伏した守護者。

だが、攻撃の効果が絶大だったのか、頭から雛と土星が一周する幻覚を見ており、

起き上がる様子はない。



「よっしゃー!」

「やったー!」



ヴィンセントとドラえもんはハイタッチする。

はしゃぐ二体を眺めていた仁王と暁はそれぞれたじろいだり、何とも言えない顔だ。



「…や、やりおった…」

『あたかも、歴戦を潜り抜けてきた戦士のように意気投合した複合技だったな』



初めての共闘のはずなのに、予想以上に息ピッタリなコンビネーション。

つい昨日あったばかりなのに…。

可愛い顔したマスコットキャラのプロ顔負けの戦いぶりに、度胆を抜かれてしまった。



『…はっ!?』



勝利の余韻に浸っているヴィンセント達。

その間に、離れた場所で気絶していた守護者は目を覚ました。

ダメージの影響でふらつきながらも、ゆっくりと身体を起こす。

勝ったと思って、完全に油断しているヴィンセント達に反撃を仕掛けようとした…



「―――《封印解除―レリーズ―》!」



だが、一人の少女…向日葵の手によってそれは阻止されてしまう。



「―――【樹(ウッド)】!」



守護者が倒れている場所…三つの陸地が三角に、彼の者を囲む形でそこにあった。

この空間の陸地は全体的に緑で覆われている…すなわち、植物が豊富である。

先程、吹き飛ばされた際にドラえもんはその地形を覚えていた。

四次元ポケットに残っていた秘密道具の中に、【ビッグライト】があったのを見た向日葵は

…その作戦を思いついたのだ。



『ぬぉおおお!?』



―――“巨大な守護者の行動を封じる手段”を。



「向日葵ちゃん、上手くいったね!」

「うん、みんなのおかげだよ!」



クロウカードの一つ、【樹】の能力は植物を生成し、操作する事。

陸地に生える植物も利用して、頑丈な蔓草を生成する…

そして、それらは守護者の体を拘束していく。



…仁王と暁が目的地まで巧みに誘導する。

…ヴィンセントとドラえもんがギリギリまで相手の体力を削る。



上記の二つの条件を加える事で、守護者の動きを封じる事に成功したのだ。




五分後、身体を蔓草でぐるぐる巻きにされた守護者は…

頭からぐしゃぐしゃと線を潰したような、不機嫌な漫符を出していた。

おにょれーと口を尖らせて文句を言う姿は、どこか憎めない。



「ごめんね。普賢さんを無事見つけたら解いてあげるから」

「暫く我慢してて」



向日葵とドラえもんは、守護者に謝ると普賢を見つけ次第、開放する事を約束した。



『………………むぅ』



彼等の言葉に、守護者は暫し考えるように沈黙していたが…コクリと頷いた。



「ありがとう」

「よかった…」

「ほな、一気にいくでぇー!」



安堵する向日葵とドラえもん。

問題も解決した事で、ヴィンセントはノリノリで目的地へ進もうと張り切っている。



「向日葵、案内頼むぜよ」

「はい!」



目指す場所は、南方向にある果樹園。

…そこに普賢がいるはず。





【対『固有結界守護者』戦】





タケコプターで移動する事、七分弱。

“例の地点”が見えてきた。



「あそこです!」



向日葵が指し示す斜め下には、桃をたわわに実らせたたくさんの果樹が広がっていた。



「!? いた…!」



そして、その中央付近の桃の木に…普賢の姿を発見した。



「普賢さーん!」



ドラえもんがすぐに下へ降りていく。

後に続く形で、向日葵、仁王、ヴィンセント、暁もそこへ着地した。

一本の桃の木に背中を預けて座った状態で、普賢は瞼を閉じていた。



「普賢さん、普賢さん!」



ドラえもんは、彼の身体を揺らす。



「この中性的な感じの兄ちゃんが『普賢』なんやな…」

「うん、そうだよ」



現実世界で改めてみても、普賢は女性と見間違う容姿である。

穏やかな顔で眠りについているその姿は、まさに童話の世界のヒロインのようだ。

しかし、ドラえもんが必死で声をかけても…普賢は目覚める様子がない。



『…おかしい』

「何がじゃ?」


『先程から…妙な感覚が纏わりつくのだ。

この感覚、どこかで感じた事があるのだが…』



不安を含んだ暁の言葉に、仁王はサッと周囲に視線を巡らせる。



「どうしよう…まさか、もう【眠りの時期】に入っちゃったんじゃ…」



おろおろするドラえもんを見兼ねたのか、向日葵も普賢に近づいて声をかける。



「普賢さん…普賢さん!」



普賢の手に自ずと触れたその瞬間…

ぶわっと彼の手から向日葵の手へと、濁流のような強い魔力が一気に流れこんできた。



「…ッ!?」



悲鳴をあげる事すらできないまま、向日葵はガクリと膝をついてしまう。



《…気を付けて》



視界が暗転する直前、向日葵の耳元にまた、『誰か』が囁いた。



(だ…れ…?)



知らないはずなのに、どこかで聞いた事のあるような…

とても、懐かしい【声】だった。





【つづく】

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