第2章【3】青猫との遭遇


小鈴という協力者を得た三名(と二匹)は、他生徒から情報収集をしていき、

あちこちへ足を進めていった。



「目撃情報だと、この辺らしいけど…」



三番目に訪れた場所は、隣町にある川辺の道のり。

今の時間帯は、人通りがあまりないようで、時折、自転車に乗った中高年の女性や

ランニング中の男性が通り過ぎる程度だ。



「…この付近ってあんまり来た事ないな」

「おかんの用事で、時々通るくらいナリ」

「…初めてきた」



切原、仁王、小鈴がそれぞれ周りの風景を見ながら言う。

ヴィンセントは宙に浮いた状態で、暁は仁王の身体から出てきてそれらしく

人物がいないか探してくれている。



「いやぁ…こんだけ人気ないならけっこー目立つはずやけど、まぁーたくその気配すらないな」



ヴィンセントはキョロキョロと上空を一周すると、向日葵のもとへ戻ってきて肩を竦める。



「…もう少し探してみて、いないなら明日にした方がよさそうだね…」



向日葵は眉を八の字にしてそう言った。

黄昏色に染まりつつある空…このまま探索を続行したら、日が暮れてしまう。



『小鈴、《明鏡止水》を持っているか?』



暁がふと思い出したように、小鈴に尋ねた。



「そうだ…! あのアイテムを使えば…」

「クロウカードが活動しているか分かる!」



向日葵と切原が期待に満ちた眼差しを、小鈴に向ける。



「少し待て…鞄から取り出す」



小鈴が鞄を開いて《明鏡止水》を探す中、暁は仁王にある質問をしだした。



『雅治、聞きたい事がある』

「ん?」


『ドラえもんとは、どういう姿をしているのだ?

話を聞く限りでは丸くて青い色をしているのは分かるが…』



暁は、ドラえもんの事を知らないようだ。



「そうやのう、ドラえもんは…」



仁王はその場に落ちていた小枝を拾って、ガリガリと地面に絵を描いていく。



「○かいて、ヒゲかいて、ちょちょいのちょーい~♪」

「先輩、上手ですね…」

「おおっ…すっげー似てるッス」



仁王は、手慣れた感じでドラえもんのイラストを仕上げた。

その完成度に、向日葵と切原は感嘆の声を上げる。



『ふむ…これがドラえもんか』

「おん。耳はないけど、一応猫じゃき」


『猫…なのか? タヌキではなくて…?』


「暁、それ実際に本人に遭遇したら絶対に言うなよ。

ドラえもんにとって『青ダヌキ』はNGワードなんだぜ」


『その理由は?』



質問する暁に、仁王と切原は丁寧に教えていく。



「李さん、《明鏡止水》の方は…」

「…いや、この周辺に魔力は見当たらない」



被りを振る小鈴に、「そう…」と向日葵も少し残念そうに呟く。

…今日はこの辺でお開きにしよう。

向日葵が、全員に帰宅を促そうとしたその時だった。



「ちょ…ちょちょちょ…!」

「ヴィンちゃん?」



再度、宙に浮いて辺りを観察していたヴィンセントが普段ではありえない程、動揺しだした。



「なんじゃ?」

「トイレにでも行きたくなったとか?」

「ち、ちがうわ! あ、あれあれあれ…!」



ヴィンセントが指さす方向…向かい側の通り道に、全員は視線を集中させた。

その瞬間、皆の目は大きく見開いた。

何故なら、その通り道を…探していた《彼の者》が歩いている最中だったから。



「い、いたぁああああ!」


「アホか、声が大きいナリ!」



思わず叫んでしまった切原の頭を、仁王が叩く。

向日葵は、川をまたいだ向こう側にいるその者をマジマジと凝視してしまう。



「…ど、ドラえもんだ…!」



視界に映るのは、まさにドラえもんその人だった。



「小娘…ほんまに《明鏡止水》は反応しとらんのか!?」

「ああ、あそこにいる者からは魔力は感じられない…」


『ふむ、そうなると…あれは【クロウカード】ではないという事か』



ヴィンセント、小鈴、暁の会話が聞こえるや、向日葵はさらに衝撃を受けた。

【クロウカード】ではない…それじゃあ、あのドラえもんは一体…何者なのか?



「まさか…ホンモノ…?」





【青猫との遭遇】





『いたぁああああ!』



ドラえもんは向かい側から響いてきた叫びに、ビクッとして自ずと視線をそちらへ向けてしまった。

川の向かい側にある道から、こちらをガン見している中学生か高校生?らしき男女四名。

あと、おさげをした女の子の傍に、小さなぬいぐるみが浮いていて、さらに炎を纏った狼がいる。



「えっ…もしかして、僕…?」



キョロキョロと左右を見渡すが、自分以外に人はいない。



(??……気の所為じゃ、ないみたい…)



注目されている事に、ドラえもんは戸惑いを覚えてしまう。

でも、一体なんで…と不思議に思いながら、歩を進めようとしたその時…



『あああああ~!? ちょっと待ってくれー!』

「はい?」



一人の男子学生(さっき叫んだ子)がまたしても声をあげながら、勢いよく駆け出した。

少し遅れて銀髪の男の子も走り出し、おさげと長い黒髪の女の子達も後に続く。

橋を渡り、猛スピードでこちらへと接近していく男子二人。



「待ってぇええええ!」

「…!? ってうわぁあああ!!??」



決死の形相で近づいて来た学生に、ドラえもんは吃驚した。

すると、先頭にいた学生が勢い余ってつまずいてしまい、前のめり倒れ込んでしまった

…ドラえもんを押し倒す形で。



「赤也君、大丈夫!?」



後からやってきた少女…向日葵が盛大にこけてしまった切原に声をかけた。



「…あたた…うん、俺は平気だけど…」



切原は頭を軽く抑えながらすぐに起き上がれた…怪我もなさそうだ。

しかし…



「もっしもーし…? いかん、完全にのびとる」



肝心のドラえもんは倒れ込んだ衝撃で気絶してしまったようだ。

頭からひよこがピヨピヨと浮かんでいるのが見える。



「…うわっ、ご、ごめん! もしもーし!」



この十分後、ドラえもんは目覚めるが…

男女二名とぬいぐるみがパニックになってあたふたしている姿と…

彼等を落ち着かせようとする男子学生と炎の狼のやり取りと…

呆れたように傍観する女子のカオスな光景を目の当たりする事になってしまう。





【つづく】

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