第2章【2】レベルアップは出会いをもたらす


「…えっ、あれ…!?」



和やかな雰囲気に包まれている中、向日葵の身体に突如異変が起きた。

指先から徐々に透明になっていく。



「ああ、時間がきたようだね」

「普賢さん、これって…」


「現実世界の君の目覚めが近いんだよ。

この空間にいられる条件は、肉体が眠りに落ちている限られた時だけなんだ」



だから大丈夫…と普賢は、向日葵を安心させるよう穏やかに言う。



「あの…またココに来てもいいですか!」



薄らと透けていきながら、向日葵は声をあげてこの領域に次も訪問していいか尋ねると…



「もちろん。君がそれを望むなら、いつでも待ってるよ」



普賢は陽だまりの様な微笑みを浮かべて、了承した。

御礼を言おうとしたその刹那、向日葵の意識は遠のいていった。



  PiPiPiPiPiPiPi!



目覚まし時計のアラームが鳴り響く。

布団から顔を出して、時計を手に取り、アラームを消すと向日葵は起き上がった。



「…夢だったんだよね」



ぼぉーと余韻に浸るように呟いた。

眠気を振り払うよう、顔を左右に振っていると…布団の中にある手に何かが触れた気がした。

それを掴んで布団から取り出すと、向日葵は微かに目を見開いた。

何故なら―――



「……けど、夢じゃなかったんだ」



出てきたモノがあの時…普賢に返しそびれたハンカチだったから。





【レベルアップは出会いをもたらす】





「無事に現実空間に戻られたみたいだね」



普賢は微笑しながら、空に浮かんでいる水の膜を眺めている。

その球体には、つい先程貸したハンカチを目にして驚く向日葵の姿が映っている。

満足そうに頷くと、普賢は視線を奥の方へ移す。



「結局、今回も…姿を現さなかった。警戒心が強いのかな…」



少し残念そうな顔で、普賢は本音を口にする。

あの時、この空間にいたのは向日葵“だけ”ではなかった。

ずっと、気配は感じているのになかなか姿を見せようとしない『人物』が潜んでいたのだ。



「でも、僕は諦めないよ。

一体、どんな人が僕の領域に足を踏み入れたのか…

確かめないと落ち着かないからね」



普賢は口元に綺麗な弧を描く。

もとから長期戦を覚悟の上で、一時的に肉体を眠らせたのだから。


夢の領域に足を踏み入れた人物は、果たして益となるか害となるか…?

どちらにせよ、そんな貴重な能力をもつ人と話をしてみたい。


…好奇心とほんの少しの冒険心を満たしたい。


普賢ならではのささやかな欲求が、彼の者との出会いを求めているのだ。



「さてと…気分転換に練習しようっと」



普賢は椅子に座って二胡を弾き出す。

彼の奏でるのびやかな優しい調べは、静かなその空間に響き渡っていった。





【つづく】

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