第1章【4】エンカウント・エネミー


『世界の扉を潜り抜ける人間は、戦いの術を身に着けている者が多い。

もしも、お前達が戦えると判断すれば、是が非でも攻撃を仕掛ける危険も拭えん』



暁の言った言葉により、向日葵と仁王の緊張感は高まる。

二人と二匹が歩いている通学路は人の行き来は少なくない方だが、今は彼等しかいない。



「向日葵…」



仁王が向日葵の手をぎゅっと握りしめる。



「絶対に離れたらあかんぜよ」

「…はい!」



頼れる人…大好きな人が傍にいるだけで、不安な心は一気に吹き飛んでしまう。

この人といれば、何も怖くない。

仁王の言葉に勇気をもらったその直後…



 ピィピィ…



耳に鳥が鳴く声が聞こえた。

向日葵はハッと後方を振り返ると…黒い鳥が顔の横を羽ばたいて通過していく。

仁王もそれに気づき、自ずと後ろへ視線を移すと、黒い外套を被った人物がいた。


先程まで気配すらしなかったのに…。

外に出ている暁の目が鋭くなっている。

仁王は察した…この人物はヤバい系統なのだと。



「やぁ、帰っている途中で申し訳ない」



その人物は、外套のフードをあげて顔を露わにした。

黄緑色の長い髪、顎髭を生やし、顔を仮面で隠している。

羽織っている外套を除くと服装もアラビア系の民族風な衣装を着ている。



「君達…この装飾品を見てもらえるかな?」

「…ッ!」「……」



噂の不審者は…この人物だとすぐに気付く二人。

幸村が言っていた情報と合致する。

心臓がバクバクと速度を上げて警鐘を鳴らす。

いざ、その人物と遭遇してしまうと、足が竦んでしまう。



「すんません。俺ら急いどるんで」



すると、仁王が向日葵の腕を掴むと早歩きでその場を立ち去ろうとする。



「まあまあ待ちたまえ」

「!?」「…なんで…」



男性は何時の間にか、向日葵達の前方へ移動していた。



「時間は取らせないさ…これを見てくれるだけでいいのだから」



そう言って、男性は二人の視界に入るようペンダントのチェーンを吊り下げるように持つ。

八角形の星図形(八芒星)で真ん中に赤いルビーのような宝石が埋め込まれている、

変わったデザインのもの。


幸村の話で出てきたような年代物で高価な物だな…と向日葵が思ったその時だった。



  ポゥ…パァアアア…



ペンダントの宝石に淡い光が灯り、輝きだしたのだ。

その現象に、男性は大きく目を見張るのも束の間、口端を吊り上げて高笑いしだした。



「ふっ…ハハハハッ!」

「何が可笑しいんじゃ」

「ついに…ついに見つけた…ッ! エクレシアの手掛かりを!!」


「…エクレシアって…ッ」



その男性の仮面の下は…歓喜に満ちた表情を浮かべている。

その事は、向日葵にとって形容しがたい恐怖を感じさせた。





【エンカウント・エネミー】





怯える向日葵と目付きを鋭くする仁王に対し、男性は改めてこう言った。



「詳しい話を聞かせてもらいたい」

「…な、何を…ですか?」


「とぼけないでくれ。君達がエクレシアと関係があるのは明白だ…

私の機嫌がいい内に話してくれないかな?」



この人はエクレシアを狙っている…!

相手の目的を暗に察した向日葵は顔色がさぁ…と青くなっていく。

その時、仁王が向日葵を庇うよう前に出た。



「あんたに話す事なんてなんもない。

コレ以上近づてみんしゃい…大声あげるぞ」



強気な口調で言うものの、仁王の額からは汗が滲み出ている。

剣術を習いだして日は浅いが、対峙する人物がどれほどの力量なのか…

それを俄かに感じ取れるようにはなってきている。


眼前の不審者はおそらく強い。

向日葵の持つクロウカードを用いても、こちらに勝算があるか…未知数だ。



「…やれやれ、こういう手間はかけたくないんだが…」



男性は手元から杖を出現させた。

仮面のような飾りがついた鎌のような…禍々しい形状だ。



(…ダメ、逃げなきゃ…)



向日葵の頭に、その言葉が呪文のように反芻するものの、身体が固まって動けない。

男性が杖を振ろうとしたその時―――



―――シュンッ シャッ



男性の左右横を鋭い何か通過し、空気を切る音が響く。



「…なっ!?」



外套が切り裂かれた事で、男性は驚きの声を漏らす。



「いい年齢の男がカツアゲかしらぁ? 下手したら速攻獄中行きよ」



上から目線な挑発するような言動。

それを発した人物は、向日葵と仁王の前に出現した狭間の闇から登場した。



「貴女は…!」「おまんは…」



黒いコートを纏う、前が二つの触角のような髪型をした金髪の美しい容姿の女性。

…13機関のメンバーの一人、ラクシーヌだった。






【つづく】

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