エンカウント・ドリーマー
「はじめまして、木之本向日葵です」
部活仲間に事情(道に迷っていた子を助けた縁で云々…と誤魔化した)を説明して、
向日葵は誘いを丁重に断った。
場所を人目のつかない…公園に移して、改めてコゼットに挨拶をした。
「いいえ、こちらこそ急に訪ねてしまってごめんなさいね。
どうしても御礼が言いたくて…」
「お礼…ですか?」
「ええ。ふーちゃん…迷子のこの子を助けてくれてありがとう」
コゼットはそう言いながら、抱きかかえているソラの頭を優しく撫でる。
嫌な顔をせずに、気持ちよさそうに目を細めているソラ。
ソラが、コゼットに懐いている事が十分伝わってくる。
「ふーちゃん、大分、能力を制御できるようになってから…安心してたの。
でも、まだまだ注意してないといけないわね。すぐにどこかへお散歩しにいきそう」
「そんなに“お散歩”してるんですか?」
「ええ。両手の指で数えきれないくらいにね」
コゼットが苦笑して答えた事に、向日葵はほえー…と軽く驚く。
「あの、コゼットさん…って呼んでいいですか?」
「どうぞ」
「コゼットさんは、エクレシアなんですか?」
思い切って尋ねてみると、コゼットは「そうよ」と肯定する。
「エクレシアの人達の事、ヴィンちゃんとアクセルさんから伺いました。
旅をする種族だって…」
「そうね。大体合ってるわ」
「他の方々も旅をしているんですか?」
「半数は。特定の世界に定住している人もいるけど…かくいう私がその一人よ」
コゼットは微苦笑しながら語った。
現在、ソラを除く8名のエクレシアの内、旅をする頻度が高いのは3名。
あと3名は定住場所を見つけて、任務次第であちこちへ派遣に出るスタイルをとっている。
残りの2名は、諸事情で一定の世界に長期に渡って住んでいるとの事。
後者の2名の中の1人であるコゼットは、異世界でカフェ・レストランを経営している。
「エクレシアの生活スタイルって…色々あるんですね」
「ええ、特定の行事や会合の時以外はあまり会わない人もいるけれど…」
コゼットとの話は思いの外弾んだ。
エクレシアの事は勿論、異世界を旅する事の意味や、経営する御店の事、仲間にはどんな人がいるのか…。
彼女が語る話は、向日葵の好奇心を大きく揺さぶった。
昔、母が生きていた頃に語ってくれた創作の夢物語を聞いた時の
ドキドキ、ワクワクした気持ちが再来した。
「あら、いけない…もうこんな時間ね」
コゼットは、持っていた懐中時計に見てそう言った。
彼女の言葉に、向日葵も空を見上げると夕陽が沈みかけていた。
「ふーちゃん、帰りましょう」
「あーい」
コゼットは座っていたベンチから腰をあげると、砂場でヴィンセントと遊んでいたソラを呼ぶ。
ソラは二パッと笑顔で返事をすると、トコトコとコゼットの下へ歩いていく。
「そうそう…ふーちゃんがお世話になった御礼を渡さないと」
コゼットは、携帯を取り出すと画面を開く。
すると、画面から紙袋が二つが出現し、向日葵とヴィンセントは目を丸くした。
「手作りだけど、どうぞ召し上がって。
こちらは日持ちするから、テニス部の方達に渡してください」
「え、うわっ…ありがとうございます!」
まさか、手土産まで持参しているとは…。
紙袋を手渡され、向日葵は喜びの気持ちを言葉にした。
向日葵の素直な態度に、コゼットも満足そうに笑みを浮かべると、ソラを抱きかかえた。
「また機会があれば、ふーちゃんと遊んでくれるかしら?」
「はい、ふーちゃん…またね」
「気いつけーや~」
別れの挨拶をする向日葵と手を振るヴィンセントに、ソラも「ばいばーい」と
紅葉のような小さな手を上げる。
「あ…そうだわ」
コゼットが何か思い出したのか、向日葵に再び視線を向けた。
「リエ…母から伝言を言付かっていたの。向日葵ちゃんに」
コゼットは先程とは違い、真面目な顔で伝えた。
【御礼と伝言】
「まさか、リエさんがコゼットさんのお母さんだったなんて…」
コゼットとソラと別れて、向日葵は驚きを隠せずにいた。
「エクレシアは外見と実際の年齢が同じとは限らんからなぁ。
あのコゼットの姉ちゃんも若く見えてけっこー年上かもしれんでぇ」
「そ、そうなの…?」
ヴィンセントの言葉に、向日葵は冷や汗を流してリエとコゼットの顔と想像した年齢を浮かべてみるが…
いまいちピンとこない。
「でも…」
同時に、向日葵はある事が気にかかっている。
それは―――
《もしも、初対面の人が魅力的な話をしてきても、お断りの返事をして》
「リエさんの伝言ってどういう意味なんだろう?」
「さぁな…ま、素性の妖しいヘンなヒトには気い付けてや~って事やろ」
そういえば、顧問の畑山が最近、不審者が出没していると言っていた。
その事も関係しているのかな…と向日葵はうーんと唸りながら帰路につく。
同時刻、向日葵と同じ立海大附属中学校の男子学生が人気の少ない道を歩いていた。
「そこの君」
「…え?」
突然、声をかけられて振り返ると、後方に黒い外套を羽織った人物がいた。
仮面をつけていて、民族風な衣装を身に着けている男性。
外国人のコスプレ大会でもあるのか…と訝しげに見つめる男子学生。
すると、その男性は口角を吊り上げて懐からあるアクセサリーを取り出した。
「この装飾品を見てくれるかな?」
【つづく】
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