【前日譚②】きっかけはこねこにん 2


「あ、アレ…」



切原が指さす方向…学校のテニス部コートがある付近だ。

空や地上から黒い濃霧がどんどんと押し寄せていっている。

向日葵はぞくっと悪寒が全身を走った。

集まっていく霧がやがて形を成していき、学校の校舎すらも超える化け物を生み出したからだ。



「おいおいおいおいおい……」

「ふぅ、おっきーの!」



アクセルがその化け物を目にするや面倒くさそうな顔となり、ソラは目をパチクリさせて

「おぉ~」と感嘆の声を出して見入ってしまう。



「なっ…なんなんだよ、アレ…ッ!」

「……ッ……!」



あのありのぬいぐるみみたいなハートレスとは比べ物にならない。

以前、幸村が所持していた漫画『進撃の巨人』に登場する巨人レベルではないか…

そう感じてしまう程の大きさだ。



「兄貴、あれもハートレスッ!?」

「ああ、ハートレスの中でも上位のもの…【ダークサイド】だ」



切原の問いに、アクセルは再びチャクラムを両手に構え直す。



「気をつけろ、あいつが姿を見せたって事は…

その周辺にもさっきのタイプのハートレス…シャドウが出現しやすくなるんだ」



アクセルはそう警告すると、ダークサイドがいる方向へ急いで走っていく。



「ふー、ワンダニャン。そこの姉ちゃん兄ちゃんといっしょにいるんだ。

俺はあいつを狩る!」


「あい!」「にゃふっ!」



アクセルの言葉を理解していたのか、ソラとワンダニャンは元気よく返事する。



「ふーとワンダニャンを頼むぞ!」



向日葵と切原にもそう指示を出すと、アクセルは狭間の闇を出して入り、姿を消した。



「アクセルさん…!」

「ちょっ…兄貴、てうわっ!」



アクセルの懸念通り、ダークサイドが放つ闇につられて、シュパシュパッと新たなシャドウが発生した。



「わんだにゃーん!」



ソラがワンダニャンに命令して、対処していくが…このままだと埒が明かない。



―――パン、パンッ



すると、向日葵が自らを叱咤するように頬を両手で叩いた。



「向日葵…?」

「…ソラちゃんとアクセルさんが頑張っているのに…私もしっかりしないと…!」



戸惑っていた向日葵の瞳に強さが宿る。



「赤也君、ソラちゃんをお願い!」



向日葵がソラを抱き上げて、切原に預けるとグラウンドを占拠しつつあるシャドウをキッと見据える。



「―――《封印解除―レリーズ―》!」



持っていた弓を杖へと変えて、クロウカードを一枚取り出す。



「―――【雷】!」


  ビシャアァアァ―――ッ!



発動させたカードは『雷』…グラウンド全体に巨大な雷撃を落とした。

その攻撃により、増えつつあったシャドウ達は一気に消滅した。



「よーし、この調子で…」

「…! 赤也君!」



向日葵の声に、応援していた切原が後ろを振り向くと、シャドウが彼の頭上近くまで迫っていた。



  バシュッ!



だが、切原の顔に接触する前に霧と化してしまった。



「余所見はいかん、一瞬のスキが命取りになるナリ」

「雅治先輩!」「先輩!」



仁王が護身用の剣で切り捨てたからだった。



「向日葵」



仁王はツカツカと杖を持つ向日葵に近づいていき、そのまま抱擁した。



「よぅ頑張った…もう大丈夫じゃ」

「雅治先輩…」



到着するや、恋人の無事に安心してギュッと抱きしめる仁王。

向日葵は頬を赤らめて、大人しくなってしまう。



「先輩…今、二人の世界に入らないでくださいよ!

てか、俺やヴィンセントの心配は!?」


「まあ…仁王兄ちゃんやし、仕方ないなー」



助け出されたけど、スルーされて文句を言う切原。

ヴィンセントはもう見慣れているのか、差して問題にはしていないようだ。



「あ~!」



切原に抱きかかえられているソラが嬉しそうにジタバタしだす。

それに気づいた切原が、よっとと腕を解放して地面に下ろすと、

ソラはトコトコと歩き出した…ある人物の元へ。



「りった―――ん!」



ぽふっと足元にしがみつくソラに、その女性は目線を合わせるように屈んでヨシヨシと優しく頭を撫でる。

見慣れない人物が現れた事に、向日葵と切原、ヴィンセントの視線は彼女へ自ずと向けられる。



「あっ……」



彼女を目にしたその刹那、時が止まったかのような感覚になった。



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