第3章【13】二度目の不思議な貸本屋と、新しい出会い


二階付近を探索し始めて、十分程度経過した。

児童文学書のコーナーをはじめ、二階にある部屋をくまなく探してみたが、

クロウカードらしき姿は見当たらなかった。



「おかしいな…さっきは気配がしたのに」

「こりゃ、特殊カードの可能性がありそうやな」



細かなところを観察しつつ、ヴィンセントが推測を口にする。

特殊カードは一切の攻撃が通用しない。


以前、【迷(メイズ)】のカードを捕まえる際に、向日葵はその事を痛感した。

潜んでいるのが特殊カードであれば、事前に情報は把握しておきたい。



「こういう時の…隠れる事が好きな特殊カードって心当たりある?」

「そうやなぁ~」



向日葵の質問に対し、ヴィンセントは腕を組んで思案する。



「あっ…!」

「んん~…?」



ほんの一瞬だけ…クロウカードの気配が漂った。

向日葵は周囲を見渡しながら、通路を歩いていく。



「上にいるみたい」



三階に続く階段を見上げながら、向日葵はそう呟く。

一段ずつ上がっていくにつれて、クロウカードの気配も強まっていく。



「そういや、三階は宿泊スペースやったな」



最初に店を訪れた時にもらった店内のミニマップを見て、ヴィンセントは思い出したように言う。

あの時、店主が『三階には上がらないでください』と言っていたような…



「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』や。行くで!」

「うん!」



ヴィンセントに促され、向日葵は恐る恐る進んでいく。

階段を昇り、三階へ辿り着くや…向日葵は奇妙な感覚に襲われた。



(なんだろう…この階、なんか変…)



つい先程まで、感知していたクロウカードの気配が分からなくなった。



「な、なんや…コレ! あっちゃこっちゃにめっさ強い術がかかっとる…」



ヴィンセントが驚愕の表情となり、その原因を言った。

そう…三階には通路を含めて全体的に魔法が施されていた。

しかも、系統の違う魔法を巧みに使用しており、それを暴走させないように上手く融合させた

…高度な術に仕上げている。


だが、その所為でクロウカードの気配が分かりづらくなっているのだ。



「この魔法を作った人って、誰なんだろう?」

「おそらくやが…店の誰かやろう」



確かに、思い浮かぶ人物は店の関係者。

従業員、もしくは…店主である進藤 ハルのどちらか。



「この階にいるのは間違いないけれど…」

「しゃあない。地道に探すしかないな」



気が進まないが、部屋をひとつずつ調べていくしか方法がない。

手始めに近くの部屋の扉を開けようと、向日葵はドアノブに手をかけようとした。



「やめた方がいいよ」



見知らぬ第三者からの呼び止める声に、向日葵はビクッと肩を震わせた。

振り返ると、やや離れたところにある部屋の前に一人の男性が立っていた。

前髪が少し飛び跳ねている…黒髪の魔術師のような服装の青年だ。



「あっ、えっと…」


「ああ、突然声をかけてごめん。

失礼だけど、君は宿泊予定の顧客じゃないようだね?」


「は、はい」



何故だろう…下手に誤魔化したらいけない気がした。

向日葵が素直に答えると、その青年は真顔でさらに言葉を続ける。



「此処は下の階とは違って、目に見えない仕掛けが設置されているんだ。

宿泊客以外の人が足を踏み入れるのはあまりお勧めできない」


「そ、そうなんですか?」


「五年前に、邪な考えを持った人物が忍び込んで…

その人物は欲を出した結果、とんでもない目に合った」



青年がご丁寧にも紹介してくれた事例に、向日葵はぞっとした。



「好奇心が旺盛な…特に、探求心の強い子どもがこっそりやってくる事もある。

さっきも君と同じくらいの少女が来たよ」


「えっ…!」



一足先に、小鈴も三階を調査しようとしたようだ。

しかし、深入りせずにすぐに降りて行った…と青年が教えてくれた。



「あ、ありがとうございました。

私、用事を思い出したので…失礼いたします」


「どういたしまして」



…これはまずい。

向日葵は冷や汗を流しながら、二階へ戻ろうと踵を返す。



「此処に来たいなら、きちんと手続きをすれば問題ないよ。

…小さいパートナーも同様にね」



去り際に、青年は親切にもアドバイスをしてくれた。

向日葵はこくこくと頷きつつ、ヴィンセントと共に素早く階段を下りて行った。





【二度目の不思議な貸本屋と、新しい出会い】





少女と小さなパートナーの姿が見えなくなった後、青年…ゼレフはふぅ、と小さく息を漏らす。



「今日は賑やかな日だ。『君』も…目を付けられて大変だね」



ゼレフの背後に、パタパタと羽根をはばたかせる南京錠が浮いている。

羽根付きの南京錠は、彼の周りを旋回するとそのまま奥へと消えていった。



「あの子は、誰を選ぶのかな…」



自分の忠告を聞き入れたあの少女…向日葵の目的が、南京錠(クロウカード)である事を

ゼレフは既に知っている。


近い内に、向日葵か先に訪れた少女のどちらかが捕まえにくる…と店主が予想しており、

その事を聞いていたからだ。



(それにしても、そっくりだった)



かつて、違う場所に店があった時期に面識があった常連客の姿が頭をよぎる。

向日葵は、【彼女】と伴侶の要素をいい形で受け継いだようだ。



(また会えると…嬉しいな)



懐かしい気持ちと淡い期待を抱きつつ、ゼレフは自身が使っている部屋の中へ戻った。





【つづく】

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