第3章【13】二度目の不思議な貸本屋と、新しい出会い
「すみません、大変お待たせいたしました」
やってきたのは若い女性の従業員だった。
18~20歳くらいで、長い黒髪と藤色の瞳が特徴的な、明るい空気を纏った朗らかな感じの人だ。
紺色のロング丈のワンピースに、フリル付きの白いエプロンを身に着けている。
弓道部に所属している友達から借りた漫画に登場した、主人公のメイドみたいな服装だ…と向日葵は思った。
「当店のご利用は初めてでしょうか?」
「僕は初めてで、こちらの二人は来店した事があります」
「左様ですか、当店に再度お越しくださり、ありがとうございます」
女性は優しそうな笑みを浮かべ、向日葵達にお辞儀する。
すると、女性は普賢が抱きかかえているウィズに目が留まり、まぁ…と目を瞬きさせた。
「ウィズちゃん。そちらの方とすっかり仲良くなったのね」
「可愛いウサギですね」
「ええ、ウィズちゃんはマスターの家族で、私達と同じこの御店を支える仲間ですもの」
女性はふわりと笑って言った。
(なんか…リエさんみたいな人)
普賢と話をしている従業員を見ながら、向日葵はそう思った。
「初めて見る人だ」
小鈴がぼそりと呟いた。
何回か通っているが、小鈴は今までその女性を見かけた事がなかったようだ。
そんな彼女の疑問に、女性はすぐに答えてくれた。
「私は数日前からこちらで働いている身なので、お客様とは初めてお会いしますね」
「なるほど…新人の方でしたか」
「はい。まだまだ至らない点がありますが、よろしくお願いいたします」
「お名前を聞いてもいいですか?」
「山吹 縁(ゆかり)と申します」
女性…縁が自己紹介すると、普賢は早速ある事を尋ねた。
「山吹さん、お店の中を見学してもいいですか?」
「はい。ご案内いたしましょうか?」
「いえ、ゆっくりと回りたいので大丈夫です」
普賢がそう答えると、縁はにこやかに「かしこまりました」と頭を下げた。
「それじゃあ、二階へ行こうか」
普賢は迷う事無く階段を昇っていく。
彼の後を追いかけるように、向日葵達も二階へ向かう。
「あっ、いたいた」
二階に着くや、普賢はすぐに目的の人物を見つけた。
向日葵と小鈴もその方へ目を向けると…
階段の近くにある肘掛のある長椅子に、一人の青年が横になっていた。
「あの利用客…」
「知っているの?」
「直接話した事はない。ただ…あの男、いつもあの椅子を独占している」
眉を寄せて語る小鈴に、向日葵はへぇ…と改めてその青年へ視線を戻す。
黒髪の黒い瞳、白と黒生地がメインの変わった異国の服装。
当の本人は他人の視線なんて気にする様子もなく、現在進行形で熟睡しているが…
雰囲気がどこか普賢と似ている。
「望ちゃん、望ちゃん」
すぴーと寝息を立てる青年の前まで近づくと、普賢は手で彼を揺さぶりながら声をかけ始めた。
「望ちゃん、起きて」
「うーむ…なんじゃ、儂はまだ寝足りな…」
青年が眠たそうに半分目を開けた。
その目に普賢が映り込むや、「げっ!」と顔を歪めて飛び起きた。
「普賢、なんでおぬしが此処におる…」
「久しぶり、望ちゃん。前回会ったのは故郷の世界の時間換算だと…三ヵ月前くらいかな」
ニコニコと笑いを絶やさない普賢に対し、青年…望ちゃんは顔を引きつらせている。
「向日葵ちゃん、小鈴さん、この人は『太公望』
さっき言った僕の幼馴染で仙人仲間だよ」
普賢の紹介に、望ちゃん…もとい太公望は面倒くさそうに後頭部を掻きながら会釈した。
「まさか…スープ―や楊戩からの依頼か?」
「ううん。彼等は相変わらず君を探しているけれど、今回は関係ないよ」
個人的なお願いがあるんだ、と普賢は穏やかな表情で言葉を続けようとする。
すると、太公望が彼の顔の前に手を翳して待ったをかける。
「嫌な予感がビシビシするが、この場所で話すべきではない。
部屋を変える必要がある」
「ありがとう。それと…彼女達も一緒でいいよね?」
後方にいる向日葵達も同席させたいと伝えると、太公望は微妙な表情を浮かべる。
「別に構わんが…そこのお嬢さん方、逃げるなら今の内じゃ。
こやつが持ち掛けてくる相談事は大抵裏があるからのう」
「うわぁ~…失礼な言い方。
そんな風に思われていたなんて、僕は悲しいよ」
普賢はショックを受けたように、シクシクと目元を両手で覆って泣く仕草をする。
しかし、太公望は呆れた顔でずばっとこう切り返した。
「泣き真似しても無駄じゃ。まったく…100歳手前の男の癖に白々しい」
「ふふ、バレちゃったか」
普賢はクスクスと笑いながら、目元を隠していた二つの手を離した。
(仲いい…のかな? 普賢さんと太公望さん)
(本音で話し合っている辺り、悪くないとは思うが…)
彼等のやり取りを見ていた向日葵と小鈴は、小声で感想を言い合う。
面倒事を嫌がっている割に、幼馴染の話を聞こうとしている辺り、
太公望は普賢といい人間関係を築いているように感じた。
「とっとと用件を済ませるぞ…と言いたいところだが、まずは空腹を満たさねばな」
エネルギーを摂取せんともたん…と太公望は立ち上がる。
「ほれ、こっちだ。ついてこんかい」
太公望に言われるまま、三人(と隠れている一匹)は一階の食事処へ案内された。
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