第3章【12】幻影旅団の観察と、謎の仮面の男からの警告
「闇の翼…」
「どうやら、本格的に人じゃねえようだな」
シャルナークは驚きを顔に露わにする。
人間離れした力を目の当たりにしたため、ウボォーギンは仮面の男の正体に逆に納得したようだ。
凝視する二人を気にする事無く、仮面の男は懐から懐中時計を取り出した。
「八時五十五分…そろそろお開きにしないといけない時間だ」
「おい、逃げる気か!」
「俺は、あなた方と戦う気は今の所ありませんので…」
でも…と仮面の男は、穏やかだけれども低い声でこう告げた。
「【クロウカード】に関わる者達に危害を加えるならば、容赦するつもりはない」
…なんという殺気だ。
シャルナークは、地べたに座り込みそうになるのを堪える。
ウボォーギンの額から一筋の汗が流れていく…上空にいる人物の力量を察したのだろう。
無闇に特攻せずに、相手の動向を見極めようと注視している。
「では、お二人とも…ごきげんよう」
優雅な仕草で挨拶をすると、仮面の男はぱちんと指を鳴らした。
すると、シャルナークとウボォーギンの立っている真下に幾何学模様の魔法陣が出現した。
「これは…!」
「おい、待てや…ッ」
二人の視界が捉えていた仮面の男が消えた。
「シャル、ウボォー…」
「えっ、団長?」
次の瞬間、彼等の目の前には…クロロが立っていた。
突如出現したクロロに対してシャルナークが戸惑う中、ウボォーギンは周囲を見渡す。
「あの野郎、ふざけた真似してくれたな」
ウボォーギンは腕を組んで、大いに眉を寄せる。
正確には、クロロが呼び寄せられたのではない。
此処は、数時間前までいたペンギン公園。
つまり、彼等は別の場所へ強制転移させられたのだ。
「何があったか、教えてくれ」
仲間二人が何らかの術でやってきた…その事をクロロはすぐに察した。
事情説明を求められると、シャルナークは複雑そうな顔で経緯を語り始めた。
【幻影旅団の観察と、謎の仮面の男からの警告】
「お待たせいたしました」
仮面の男が三階建てのビルの屋上へ降り立つや、入り口の扉を開けて一人の人物がやってくる。
「ああ、迎えに来てくれてありがとう」
男が感謝の言葉を口にすると、赤と黒を基調としたローブを纏った女性は隠れていない口元を緩める。
「そちらの方は?」
「異常はございません。あの者達はカードの関係者しか興味をお持ちでないようです」
「そうか…でも、油断は禁物だ。人の欲は際限がないからね」
仮面の男はそう言いながら、視線を木之本家へ移す。
「【クロウカード】を道具扱いする者に、彼等を使役する事は勿論、試練を受ける資格はない。
【クロウカード】を心のある存在として受け入れ、彼等を仲間として大切に思える人物が…
正当な継承者になれる」
男は仮面を取ってそう断言する。
彼の漆黒色の目に、アルバイトが終わってちょうど帰ってきたばかりの桃矢の姿が映った。
桃矢が家に入ったのを確認すると、男は安心した表情を浮かべる。
「桃矢君が帰宅した。こちらの方はもう大丈夫だ」
男は、桃矢と直接的な面識は一度だけある。
かつて、店の常連客であった【あの人】が赤ん坊の彼を抱いて伴侶と共に訪問した時だ。
あれから十七年…彼も大きくなって、頼もしい青年になった。
「マスター、あちらから連絡が入りました」
昔の事を思い出していると、眷族である女性が声をかけてきた。
「何かあったのかな?」
「常連客の方が、マスターに相談したい事があるとの事です」
「いかがいたしますか?」と女性が尋ねると、男はふむ…と顎に手を添えて思案する。
「分かった、すぐに戻ろう。
すまないけれど…調査の方を継続してくれるかい?」
「かしこまりました」
主である男からの命令に、女性は薄ら笑みを浮かべて恭しく跪く。
目的地に向かうために夜空へ飛び立った部下を見送ると、
男はビルから跳躍して木之本家の手前に降り立つ。
「念のために…」
コンクリートの道に、男はなぞるように右手を動かしていく。
すると、そこから光を帯びた難しそうな文字が描かれていく。
狭間の空間に潜む下級ノーバディにも気付かれる事無く、男はその魔法を施し終えた。
「さて、と…帰りますか」
男は再び闇色の翼を背中から出した。
今宵は、綺麗な三日月が浮かんでいる。
月を背景に飛んでいく男の姿を…幸いというべきか目撃した人はいない。
心地よい夜風に当たりつつ、男は飛行速度を上げて…
常連客が首を長くして待っているだろう…自らの店へ急いだ。
【つづく】
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