第3章【12】幻影旅団の観察と、謎の仮面の男からの警告
「桜、どないしたんや?」
ケルベロスは慌てていた。
お風呂に入ろうとしていた桜が弾かれたように、玄関の扉を開けて辺りを見回している。
【幻影旅団】がどこかに潜んでいるかもしれないのに、できたら外に出ないでほしい。
「…魔力を感じたの」
「!? クロウカードか…」
「分かんない。でも…近くにいると思う」
桜は目を瞑って、魔力がどこから発生しているのかを探そうとしている。
…ケルベロスは絶賛困惑中だ。
なんで、こういう時に限ってカードが出現するんや~!と。
普段の彼なら積極的に桜のフォローをするのだが、なにせ状況がよろしくない。
極悪な盗賊団の一員がいるかもしれない物騒な夜の世界に…
桜を出歩かせる訳にはいかない。
桜の意見を通してしまったら…色んな意味でやばい。
「桜、あの…」
「ケロちゃんは魔力を感じた?」
「いや、何も感知できんかった」
「そうなんだ…」
残念そうに顔を少し俯ける桜。
…クロウカードの気配が感知できなかったのは事実だ。
特殊カードの可能性も拭えないが、今回は深追いするのはやめておこう。
「桜、今日はゆっくり休もう」
「えっ…?」
「ほら、電話で向日葵も言うとったやろ? 出歩かん方がええって」
ケルベロスの言葉に、桜は電話で姉から言われた事を思い出す。
「うん、そうだけど…」
「ワイも気になる。でも、無理せん方がええ」
ケルベロスがいつになく自分の事を心配している事に、桜は小首を傾げる。
「それじゃあ…明日にするね」
「おぅ、そうしよな!」
「また中に入った…あの使い魔とどんな話をしていたのかな?」
彼等の様子を観察しながら、シャルナークは眉を寄せて思案する。
「つーか、姉妹揃って色違いの使い魔がいるのか」
「ウボォーはもう一匹を見たんだっけ?」
「さっきな。姉の方のは黒色だった」
へえ~とシャルナークが相槌を打っていると、携帯の着信音が鳴り響いた。
「団長からだ…もしもし?」
『シャル。今どこにいる?』
「木之本家から北の方角にある古いビルだけど…」
『ちょうど、こちらに降り立ったところだ。合流しないか?』
「分かった。団長はどこに…」
シャルナークが話していたその時、ウボォーギンが立ち上がった。
「ウボォー?」
「…気を付けろ。【何か】くる」
ウボォーギンの警告に、シャルナークは「OK」と戦闘態勢を取る。
感知できるのはほんの僅かなオーラ。
それがあたかも足音のように、一歩ずつ近づいてきている。
(気配はおそらく一人だけ…けれど、油断ならない)
(こりゃすげーな…かなりの手練れだ)
盗賊家業に身を置くゆえに、二人は迫りくる者の強さを感じとった。
一体、どこから…どんな形で現れるのか。
ヴンッ…
低い電子音のようなものが耳に届いた。
弾かれたように、ウボォーギンがその方向へ目を向けた。
電柱の上に一人の人物が立っていた。
深い海を連想させる濃青色のローブを纏っている。
フェイタンが現在進行形でプレイしている最新作のテレビゲームの魔導師に似ている
…とシャルナークは思った。
顔の上半分は仮面を身につけており、どんな顔立ちなのかまでは分からない。
謎めいた雰囲気を漂わせるその人物は…木之本家を見つめている。
すると、その人物はウボォーギンとシャルナークに気付いたのか、視線を彼等へ移して
…緩く口元に弧を描いた。
「これはこれは…こんばんは」
「なっ!?」
「いつの間に…」
つい先程まで離れた電柱にいたはずのその人物は、二人の後方に立っていた。
…声音から若い男性のようだ。
(この仮面野郎…隙がねえ)
ウボォーギンは何時になく警戒感を強める。
姿を現していない時から只者ではないと思っていたが、いざ眼前に登場するや
その強さが尋常でないと再認識した。
「おい、シャル」
「なに?」
「敵わねえと思ったら、先に団長の元へ行け」
「頷きたくないけれど…了解。ウボォーも無茶しないでくれよ」
戦う意思を確認し合うと、二人は改めて相手を見据える。
「やれやれ、物騒な…俺は無闇に争いをしたくない性分なのに」
仮面の男が肩を竦めて言った事に、シャルナークは訝し気に眉を顰める。
「それじゃあ、俺達に接触してきた理由は何?」
「どんな事情があるにせよ、可憐な少女の家を覗き見する行為はいけない事ですよ」
仮面の男は人差し指を真っ直ぐ立てて、そう指摘した。
あたかも、悪さをした学生を嗜める教師のような態度だ。
「ふーん、生憎だが…俺達はそういうのに感銘を受けてしまうほど繊細な性質じゃないんでね」
盗賊に説法しても意味がない。
そう言い返したウボォーギンの行動は早かった。
仮面の男に近づくや腹部に拳をお見舞いしようとした、が…
「あまい」
「ぬっ…!?」
仮面の男が易々と拳を右手で受け止めた事に、ウボォーギンは驚愕した。
(こいつ、どんだけ握力があるんだ…)
ローブで覆い隠しているものの、細身の体系である男の握力は…予想外に半端ない。
このままでは潰しにくる…そう察知したウボォーギンはすぅと息を吸い込み、勢いよく声を発した。
その直前、男はウボォーギンの拳を解放してすぐさま上空へ飛んだ。
「!!? あれは…ッ!」
仮面の男は宙に浮かんだまま、二人を見下ろしている。
ローブのフードが取れて、黒みがかった銀色の長い髪が露わになっていた。
吹き付ける風により、髪はなびいて揺れる。
そして、その背中には…夜の闇に浸透する黒い翼を出していた。
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