第3章【12】幻影旅団の観察と、謎の仮面の男からの警告


「美味しいですわ、桜ちゃん」

「よかった!」



家に戻り、桜は知世といっしょに食事の準備をした。

今日の夕食はサラダとロールパン、ビーフシチューだ。

ビーフシチューを一口食べた知世が味を絶賛してくれたため、桜は嬉しそうだ。



「とてもまろやかですけれど、隠し味に何を使いましたの?」

「少しお味噌を入れてるの」

「まぁ…そうでしたのね」


「ええ匂いやな! ワイも食べたーいv」



和気藹々と会話に花を咲かせている二人の元に、桜の所持するクロウカードの守護者

…ケルベロスがやってきた。



「はい、ケロちゃんの分」

「ほな、いただきまーす!」



はぐはぐと美味しそうに食べ進めていくケルベロスに、桜と知世は微笑ましそうに見つめる。

その時…電話の音が鳴り響き、桜は椅子から立ち上がると急いで受話器を取った。



「もしもし…あっ、お姉ちゃん?」

『桜、そっちはどう?』


「うん、問題ないよ。今、知世ちゃんとケロちゃんとご飯を食べているところ」

『なら、冷蔵庫の中にあるお父さんが作ったフルーツゼリーも食後に食べてね』



私とヴィンちゃんは、午前中に一個もらったからいいよ…と姉から言われ、

桜は「うん!」と大きく頷く。



「お姉ちゃんの方は大丈夫?」

『うん、楽しんでいるよ』



姉…向日葵の言葉を聞いて、桜は内心ほっとした。

向日葵は『友達の家に宿泊する』と言っていたが…桜は気付いていた。

向日葵が、クロウカードを巡ってライバル関係である李 小鈴の住むマンションに向かった事を…。


桜は小鈴とは直接面識はないが、彼女の弟…小狼の事はよく知っている。

クロウカードの事もあり、当初はあまり仲良くなかったが、

最近はそこそこ話せるようになった仲だ(ライバル関係に変わりないが)。

小狼から聞いた話では、小鈴は学校で起きたある騒動以降、向日葵と距離が近くなった。


あと、向日葵は黙っているようだが、ここ最近はエクレシアや異世界絡みの事件が起きているようだ。

同時に…向日葵や立海のテニス部のメンバーがその都度、騒動に巻き込まれているらしい。

守護者であるケルベロスがこっそり教えてくれたのだ。


実際に、桜はテレビのアニメのキャラクターが通り過ぎるのを見てしまった。

あの時の衝撃は…今でも忘れられない。



(お姉ちゃん…無理してないかな)



桜は気付いていた。

向日葵が自分に不安をかけたり、危険が及ばないように異世界絡みの案件を黙っている事を…。


「話してほしい」という本音はあるものの、姉にも考えがあるのだと

ケルベロスから言われて…待つ事にした。



(きっと、お姉ちゃんは話してくれる。それまで…待とう)


『桜、聞いてる?』



受話器越しの姉の声が耳に届き、桜はハッとした。



「ごめん…なんだっけ?」


『もう一回言うね。今日はお父さんは帰ってこなくて、お兄ちゃんはアルバイトで遅くなるでしょ?

桜は大丈夫だって、私は信じているよ。

でも、もしも…夜遅くに知らない人から電話がかかってきたり、チャイムが鳴っても出たらダメだよ』



姉からの注意に、桜は「分かった」とすぐに返事をした。



『それじゃあ、明日には帰るから』

「うん、お姉ちゃんも気を付けてね」



会話を終えると、桜は受話器を戻した。



「すみません、桜ちゃん。そろそろ帰らないといけなくなりました」



電話が終わるのを待っていた知世が、家の迎えが来る事を伝えた。

携帯のメールに連絡がきたようで、十分後に着くようだ。



「お姉様はお元気でしたか?」

「うん、大丈夫だって」


(…? なんやろ…)



桜と知世のやり取りを見ていたケルベロスは、何やら気配を感じ取った。

開いている窓から周囲を見渡すが…誰もいない。



「誰かに見られとった気がしたんやけど…」



ケルベロスは眉を顰めて、注意深く周辺を観察する。



『桜の事、しっかり頼むで。蜘蛛がうろちょろしとるかもしれん…気ぃ付けろ』



ヴィンセントから事前に【幻影旅団】の事を聞いていたため、ケルベロスはいつになく緊張している。



(ただでさえ、カードで忙しいのに…盗賊団の相手なんてえらい難題すぎるで)



よもや、向日葵からこの間借りた漫画の登場人物(厄介な敵陣営)が

この世界に降り立っているなんて思わないだろう。


だが、先日の一件(ドラえもんが木之本家に訪れた事)があり、

敵陣営が襲来するかもしれない事態が現実味を帯びている。



(13機関の護衛がどっかにおるみたいやけど…用心するに越した事ないからな)


「ケロちゃん、お迎えが来たから知世ちゃんを玄関まで見送ってくるから。

勝手に、ゼリーを一人で食べたらダメだからね」



桜の声で、ケルベロスの意識は現に戻った。

思考している間に、知世の迎えが来たようだ。

「はーい」と軽く返すと、ケルベロスは再び気配があるか否かを探っていく。



(…ないな、さっきのは気の所為やったか)



周囲に目立った気配がない事を確認できたので、ケルベロスはほっと一安心した。



「お待たせ、ケロちゃん。ゼリー、食べよう」

「おぅ!」



安心したら、小腹が空いてきた。

…待ちに待ったデザートタイムを満喫しよう。

ケルベロスは機嫌よく台所へ向かった。



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