第3章【11】難解な現状と、兎の閃き
「…という感じです」
リーシェはとっておきの作戦を思いついた。
ヴィンセントとシズクの言葉がヒントとなり、思考する事十数分…
普賢の意見も聞いていき、一連の流れを完成させた。
そして、向日葵達にもその内容を聞かせたところだ。
「うまくいくのだろうか…」
小鈴が不安そうに呟くと、向日葵は「そうだね…」と言いつつこう続けた。
「でも、今のところ最善の方法だと思う」
「…そうだな。文句は言っていられないからな」
「しゃあないな、ワイのスペシャルなスキルを披露してやるさかい!」
「ヴィンちゃん、張り切るのはいいけれど、私達…出番はあまりないと思うよ」
キラーンと目を光らせて、カメラ目線で決めポーズするヴィンセントに、向日葵が苦笑する。
「君はいいの?」
彼等のやり取りを眺めているシズクに、普賢が話しかけた。
「なにがですか?」
「リーシェさんの作戦…もしも失敗したら、蜘蛛は君の事も裏切り者として狙うかもしれない」
引き返すなら今だよ、とさりげなく逃げ道を準備している事をほのめかした。
すると、シズクは普賢の唇を人差し指で縦に当てた。
「ご心配なく、私は自分の意志で参加するの」
「大丈夫?」
心配そうに尋ねる普賢の耳元に、シズクは唇を近づけて囁く。
「もしもの時は…責任を取ってください」
「それは…僕限定で?」
「嫌でも…私は貴方を奪いに行きます」
普賢が微かに目を見開いて、「えっ?」と意表を突かれた顔をした。
対して、シズクはふふっと口元に綺麗な弧を描いている。
…あの二人はどんな会話をしているのだろう?
そわそわとしながら、二人の仲が進展しているのか…向日葵は気になって仕方がない。
「…普賢さんの今後も左右されるから、是が非でも成功させないといけないなぁー」
リーシェも二人の様子に勘付いているようだ
その口調から、彼女は応援する気満々だ。
なんだか、自分の味方が増えたようで…向日葵は俄然やる気が出てきた。
「私も頑張らないと…!」
【難解な現状と、兎の閃き】
向日葵が作戦会議をしていた頃、妹の桜は親友の知世と一緒に家へ帰宅している最中だった。
「今日、お姉ちゃんは友達の家にお泊まりするから、私が夕食を作る当番なんだ」
「まぁ、メニューは何にしますの?」
「ビーフシチュー! この間、お兄ちゃんから隠し味を教わったの」
知世の家に遊びに行った帰りに、桜はスーパーで材料を購入した。
多めに作って、明日戻ってくる姉にも食べてもらおう。
桜がルンルン気分で歩を進めていると、知世が「あら?」と立ち止まった。
「あちらで…子ども達が集まっていますね」
「なんだろう?」
見慣れたペンギン公園に、幼い子ども達がワイワイと騒いでいる。
彼等の中心には…とても大きな身体の男性がいた。
「ほ、ほえ~…おっきい人!」
「ワイルドな方ですわねぇ…」
ライオンを連想させる風貌の大男が、子ども達に力瘤を見せている。
「すごーい!」
「もりもりだぁー」
「おうよ、まだまだこんなもんじゃねえぞ」
今度は、子ども達を自らの腕に掴ませたままグルグルとメリーゴーランドをするサービスをしている。
「テレビで見た事ないけど…有名人?」
「海外の格闘家じゃないかしら」
「ハリウッドで活躍してそうな感じよね」
あまり無理言ったらだめよーと注意する保護者もいるが、
子ども達が楽しんでいる光景を見守っている人ばかりだ。
大男のパフォーマンスはなかなか好評のようである。
「うわぁ~、すごいね」
「子ども達も喜んでいますね」
桜達も遠目からその様子を眺めながら、大男の力に驚いている。
すると、携帯の着信音が鳴っている事に気付いた大男が子ども達を
ゆっくりと下ろして携帯を取り出した。
「団長…ああ、あらかた掃除しておいた」
連絡の相手は上司だろうか…?
『掃除』という単語が聞こえてきたので、清掃関連の仕事に携わっているのかもしれない。
「おっ、ちょうど来たか」
「ウボォー、お待たせ」
大男が話している最中に、向かい側の入り口から一人の人物がやってきた。
爽やかそうな顔立ちの整っている青年で、大男の知り合いみたいだ。
「おやおや…大人気だね」
「おかげでいい運動になったぜ」
パフォーマンスが終わったので、子ども達は保護者と帰る事になった。
「「「おじちゃん、ありがとー!」」」
「おー、気を付けろよー」
子ども達は御礼を言って手を振りながら帰り、大男も小さく手を振って見送った。
「桜ちゃん、私達もそろそろ行かないと…」
「あっ、そうだね!」
つい見入ってしまっていた。
時刻は、午後五時三十分になろうとしている。
早く帰って料理をしておかないと、アルバイトから帰宅した兄から文句を言われてしまう。
桜と知世は急いで家へ向かった。
「あの子、確か…」
大男の仲間である青年…シャルナークが携帯を取り出した。
保存していた画像を取り出すと、「やっぱり」と呟いた。
「この子どもは?」
「団長が現在進行形で狙っている少女の妹だよ」
「へぇ~…で、どうするんだ?」
ウボォーギンからの問いかけに、シャルナークは顎に手を押し当てる。
「標的の事もあるし…尾行しようか」
「了解!」
異世界の盗賊団にこっそりと後をつけられているなんて…
勿論、桜達は全然気付いていなかった。
【つづく】
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