第3章【11】難解な現状と、兎の閃き


「あの…蜘蛛の人達に、直接事情を話したらどうでしょうか?」



実際、シズクは病気の治療のためにリーシェの勧めで普賢のもとにいたのだから。

シズク本人もいるので、普賢の時のように【幻影旅団】は手を出してこないはずだ。



「うーん…」



すると、リーシェは難しそうに唸り、普賢も瞼を閉じて首を緩慢に振る。

二人の気が進まない様子に、向日葵は「えっ?えっ?」と困惑する。



「ごめんね、向日葵ちゃん。できれば、その方法を取りたいんだけど…」

「できかねますね」


「どんな問題があるんですか…?」

「相手が悪すぎる…という事でしょうか」



小鈴の言葉に、向日葵は「どういう事?」と目を瞬きさせる。



「木之本…もしも、今回の普賢殿の件を伝える対象者がお前の親しい人物だった場合、

お前はどうする?」


「素直に説明して、普賢さんをフォローするよ」


「なら…その対象者が話を聞かなかったり、明確な悪意を持って解釈する人物だったら?」



向日葵はハッとした。



「そうか…だから、話せないんだ」


「さっき、普賢殿がシズク殿を引き留めた時に思ったんだ。

蜘蛛がそう易々とこちら側の意見を聞き入れるのか…とな」



小鈴が確認するように普賢へ視線を向けると、彼は小さく頷いた。



「そーいう事。あちらは第三者が間に入って話したとしても、

エクレシア側の言い分を受け入れるとは限らない。

むしろ、あいつらの事だから…

シズクさんの件を利用して、こちら側に不利益な要求をしてくる可能性もある」



【幻影旅団】と協定を交わした時から、彼等が別の形でリベンジしてくる…とリーシェは睨んでいた。

行動が早かった事と、何より普賢に目をつけて危害を加えた事が予想外だった。



(面倒くさい…ついでにムカつく)



リーシェは、故郷のアジトにいるだろう幼馴染に腹を立てていた。

さらに、上機嫌に笑いかけてくるクロロを容易くイメージできてしまい、青筋が増えていく。



「さ、さっきよりも寒くなってきた…」


「今、ウサギ仮面に声かけん方がええで。

むちゃくちゃ怖いわ…」



リーシェの不機嫌オーラが増してきた事を感じ取り、向日葵とヴィンセントは

彼女の視界に入らないように距離を置いた。



「それに詳細を伝える事になると…

シズクちゃんとの【形式契約】の件も話さないといけなくなる」


「バレるとまずいんですか?」


「『まずい』の一言です」



向日葵の質問に答えたのはリーシェだった。



「間違いなく、クロロとシャルあたりが【形式契約】の取り決めに口を出してくる」

「でも、シズクさんともう二人で決めたんじゃ…」


「取り決めに関しては、何か不都合が生じたり、新しい内容を追加したい場合は変更はできるんだ。

もちろん、契約者との間でだけど…

契約者が許可した第三者であれば、交渉する事は可能になってしまう」



普賢が困った顔でそう解説してくれた。

なんてこった…事態が暗礁に乗り上げてしまった。



(何か…いいアイディアがないかな?)



普賢が【幻影旅団】の標的対象から外れて、なおかつシズクとの【形式契約】に文句を言われない方法。

あと…向日葵や小鈴、親しい人達が【幻影旅団】から狙われない方法。

幼い頃、再放送していたアニメの主人公のお坊さんのようにいい解決策は浮かばないだろうか…。



「うーん、うーん~…」

「向日葵ちゃん、気持ちは嬉しいけれど…そんなに悩まなくてもいいよ」



悩む向日葵に、普賢が気にしないでいいと優しく言うが、向日葵はまだ思考の波の中にいる。



「うーん…こうポク、ポク、チーンって音が聞こえないかなぁ…」

「ポクポク…チーン? 何言ってるんだ、お前は…」



木魚の音が鳴って、いいアイディアが降臨しないかな…と向日葵は無意識に呟いてしまった。

意味不明な言葉に、小鈴は冷や汗を流して「訳が分からない」という心情を顔に露わにする。



「おっ、ええ事思いついたで!」

「えっ、なになに?」


「いっその事、シズクの姉ちゃんがどっかに入院してて、

療養のために敢えて連絡とらんかった的な話にするのはどうや?

そしたら、蜘蛛の連中も納得するんやないか?」


「それは無理です」



ヴィンセントが考えた案を、今まで沈黙していたシズクが却下した。



「えぇー、なんでやねん!」

「パクノダがいるから、すぐに嘘はバレちゃうよ」



難しそうに眉を顰めたシズクがそう指摘して、ヴィンセントは思い出した。

【幻影旅団】には、対象者に触れて真実を読み取る能力者がいる事を…。



「あ~…そうやった」

「近づかないようにすると、他の人に怪しまれるし…」



またしても振り出しに戻ってしまった。

難しい問題は、なかなかいい解決策は思い浮かばないものだ。



「…いいな、それ」



その時…再び、思考の波に入りそうになっていた向日葵の耳にリーシェの声が伝わってきた。



「リーシェさん?」

「あとは…○○□????××◇◆」



聞いた事のない異国語で、リーシェはぺらぺらと何かを喋っていく。



「確かに試してみたいけれど…上手くいくかな?」

「「伝わっている!?」」

「分かるんかい、今の言葉!?」



普賢は、リーシェの話す言語を理解しているようだ。

それにしても…一体、どんな方法を思いついたのだろうか?



3/4ページ
スキ