第3章【11】難解な現状と、兎の閃き


「単刀直入に言うと、【やばい】の一言です」



腕を組んだウサギ仮面…もといリーシェははぁああ~と盛大に溜息を吐いた。



「よりにもよって、蜘蛛は協定の一部を悪用してきた。

この事実は実に恐ろしく至って不愉快な事だ」



向日葵はびくっと肩を震わせた。

リーシェから漂う魔力…しかも不機嫌と言う感情をプラスさせているため…が

とてつもなく強力で、周囲を圧迫させている。


小鈴も重苦しいそれを感じ取っているのか、緊張した面持ちである。



「おっと、ごめんね。私とした事が…」



向日葵達の様子に気付き、リーシェはすぐに殺気を解いた。

周囲の空気が普通に戻った事で、はぁ~と向日葵とヴィンセントは息を吐き、安堵した。



「ひとつ…質問をしてもよろしいですか?」

「はい、どうぞ」



小鈴がすっ…と挙手した。

リーシェがさらりと許可すると、小鈴は徐に口を開いた。



「そこにいる封印の守護者から話を聞きました。

蜘蛛との協定に【エクレシア側が蜘蛛に対して理不尽な行動や攻撃をした場合は

その原因となった者は保護から外す】といった項目があるみたいですが…

何故、貴女は…エクレシア側が不利益となる内容を加えたのですか?」



小鈴の指摘に、向日葵もハッとした。

確かにそうだ…

リーシェは賭けに勝ったのだから、エクレシア側に有利な内容にしても問題なかったのではないか?


自ずとリーシェ本人へ目を向けてしまった。



「まずは小鈴さん、貴女の疑問にお答えしましょう」



リーシェはふぅ…と息を吐くと、言葉を続ける。



「その項目を付け加えたのは、この先に起きる懸念対策のためです」



未来に起きるかもしれない心配事とは一体…向日葵は小首を傾げる。



「蜘蛛がエクレシアとその関係者を狩らないようにするのを前提に、

こちら側も余程の理由がない限り、蜘蛛を討伐しない。

そうしたのは、彼等が流星街出身者だから」


「出身地が関わっている…?」

「あっ…!」



ヴィンセントが難しそうに首を傾げていると、向日葵はある事に気付いた。



「報復をさせないため…ですか」

「その通り」

「どういう事だ?」



小鈴が訝し気に尋ねると、向日葵は複雑そうな表情で説明を始める。



「今日の講座でもちょっとだけ取り上げたけど…

蜘蛛の人達の故郷は特殊な場所なの」



その昔、外の世界で流星街の住民が不当に逮捕され、裁判で碌に弁護される事なく

刑に処されるという理不尽な出来事があった。

それから、亡くなった住民の無念を晴らすべく、他の住民達が関わった関係者と接触して

自爆テロという過激な手段で報復していったのだ。



「自爆テロ…だと」

「そういや、マフィアが懸賞金取り下げたっちゅう経緯のとこでその事描かれとったなぁ…」



小鈴は信じられないと目を大きく見開く。

ヴィンセントは、原作の描写を思い出したのか微妙な表情を浮かべる。



「それだけ住民達の結束は強いの。

それは…出身者である幻影旅団も同じ」



向日葵の言葉に反応するように、リーシェは大きく頷いた。



【我々は何ものも拒まない だから我々から何も奪うな】

あそこで生まれたり、捨てられた子ども達はその思想を前提に育てられ、

当たり前の価値観として受け入れている」



かくいう私もその一人…とリーシェが告げると、さらに言葉を続ける。



「蜘蛛は己の脚である団員を傷つけたり、殺した人物には容赦しない。

例え、それが異世界の住民であろうと、他種族であろうと、神族であろうと…。

その事を、私を含めたエクレシアのほとんどは十分に理解している」



常識的に考えて、【幻影旅団】は本来なら討伐される対象である。

彼等は、それだけの許されざる行動をしてきており、その事実は覆しようがない。

しかし、誰か一人でも倒してしまえば、【幻影旅団】は血眼になってでも報復をしに来るだろう。



「私以外の仲間が弱いわけではない。

でも、中には戦いを得意としない人や小さい子どももいる」



その言葉を聞くや、向日葵の脳裏にソラの姿が浮かび上がる。

彼女の隣で浮かんでいたヴィンセントは、ちらりと普賢に視線を向けた。



「これから時間をかけて、エクレシアの数は緩やかに増えていくでしょう。

けれど、人数が増える事は必ずしもプラスに働くとは限らない。

少なからず、思想面で反発するケースも出てくる」



現在認定されているエクレシア達(ソラを除く)は、【幻影旅団】の危険性を

熟知しているので下手に【討伐】という選択はしない。


しかし、後に生まれるだろう同種族がリーシェ達のような対応をするとは限らない。

特に正義感が強かったり、闘争本能に忠実なタイプの者は…【幻影旅団】に牙を剥くだろう。



「だから、あの文言を入れました。

だが、協定を結んで一年もたたない内に、蜘蛛はグレーゾーンを狙って早速やらかしました。

……………………よし、闇夜に乗じてあいつらを狩りにいこう」


「ええっ――――!?」

「待て、何故そうなる!?」

「『討伐せん』ってさっき言うたやないかーい!!」




リーシェの爆弾発言に、向日葵は驚愕して、小鈴とヴィンセントは盛大にツッコむ。

漫画なら背景にガビーン!と効果音がつきそうな勢いだ。



「リーシェさん、冗談はそのくらいにしてあげなよ」

「………………ああ、そうですね」



普賢が苦笑してそう言うと、リーシェは暫しの間をおいてさらりと同意した。



(じょ、冗談だよね? そうだよね…?)



仮面をつけているリーシェの表情は見えない。

彼女の言葉は嘘か、本気か…?

どちらかは判断できないが、そこはかとなく漂う不気味さに、

向日葵の額から冷や汗が流れ落ちた。



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