第3章【9】シズクの語りと、発覚した運命の変動


「最初はね…いつも通り殺ればいいだけだと思っていました」



シズクは当時の事を振り返る。

クロロの命令で、エクレシアを狩る事になった。



“本命である幼馴染と血縁関係にある二名を除いた六名は肉体を壊して、結晶華にしていい”



各メンバーに担当が振り分けられる中、シズクの狩る標的は【普賢真人】となった。

異世界を渡るためのアイテムを使用して、普賢がいる場所へ忍び込んだ。



「あの人…普賢さんは、私が殺しに来たと言ったら、驚いていたけれど…怖がらなかった」



最初は彼の仲間が集まってきたため、狩り損ねてしまった。

それから、何度かリベンジしに行った。



「だんだん襲撃に慣れてきたみたいで、三度目辺りからだったな…

普賢さんは私が来る度に、お茶菓子をもてなすようになりました」



気付けば、普賢の厚意に甘えていた。

おもてなしを受けるうちに、普賢の人となりやエクレシアの事が少しずつ分かってきた。



「大昔はどうだったのかは分からないけれど、今のエクレシアは温厚な気質の人が多いみたいです」



普賢もそのタイプで…闘うのではなく、できる限り話し合いで物事を解決していくスタイルをとっている。

その事を聞いた当初は、なんて甘い人なんだと思った。



「後から、甘いどころか手を出したら火傷どころじゃ済まない性格なんだって、

理解したんだけどね」


「??…どういう意味だ?」


「あっ…う、うん。そうだね…」



シズクの含みのある言い方に、小鈴ははてな…と首を捻っている。

普賢と交流して、彼が単なる優しい人ではないと勘付いている向日葵は、

ぎこちない笑みを浮かべながら視線を斜め下に逸らす。



「それでも、会う回数が増えていくにつれて、普賢さんの事を意識するようになりました。

あの人と会うと、陽の光に当たった時みたいに…温かい気持ちに包まれる」



シズクが瞼を閉じて胸元に両手を添えながら言った事に、向日葵はハッとした。



「そしたら、『もしも普賢さんが結晶華となったらどうなるんだろう?』…って

不安がよぎるようになったの。

ある任務中にその状態になったエクレシアを見たけれど、すごく綺麗だった」



でも…とシズクは目をゆっくりと開けていき、言葉を続ける。



「私は結晶華ではなくて、生身の…生きている普賢さんの方がいいと思った。

団長が幼馴染である【あの人】を独占したいように、

私も…普賢さんが欲しくてたまらなくなっていた」



あぁ…と向日葵はやるせない気持ちになる。

シズクの中に芽生えた感情がどんなものなのか…分かってしまったからだ。



「シズクさんは、普賢さんの事を…」

「うん、好きだよ」



口元を緩めて、シズクはありのままにそう告げた。



「でも、この気持ちを認めるって事は…団長の命令に逆らう事になってしまう」



シズクにとって【幻影旅団】は居場所だ。

組織を裏切る気はないが、普賢を結晶華にしたくない。

感情を表に出さなかったが…シズクは非常に悩んでいたようだ。

そんな時、彼女に運が回ってきた。



「【あの人】の提案で、蜘蛛は大きな賭け勝負をする事になった。

【あの人】は対戦相手に古参のメンバーじゃなくて…私を選んだ。

それから色々あって、暫くの間…異世界に住む事になったんだ」



そこで、シズクは紆余曲折を経て探偵事務所で働く事となった。

現地の住民や他の異世界からやってきた人達とパーティーを組んで、

さまざまな奇妙な事件を解決に導いていった。


多忙な日々を送る中、たまたま用事があってその世界に来ていた普賢と遭遇した。

その際に、シズクの頭に閃きが走った。

…普賢を結晶華にしない唯一の方法を。



「それって…どんな解決策を思いついたんですか?」

「―――【形式契約】です」

「なんだって…!?」



返ってきた回答に、小鈴が驚愕した顔で大声を上げた。

向日葵はビクッと肩を震わせ、思わず彼女の方へ視線を向けた。



「李さん、【形式契約】って…」



『契約』というからには、何か特殊な儀式の事を指しているのだろう。

小鈴はブツブツと何か小声で呟いてたが、向日葵が声をかけると我に返ったようで

ごほんっと咳をした。



「【形式契約】とは…《神族》と契約をするための方法の一種だ」

「…そんなにすごいものなの?」


「ああ、今では魔術師の間でもその契約をする者はほとんどいないとされている希少な手段でもある」



なお、【形式契約】の手順は以下の通りとなる。


①まず、対象者は《神族》に『契約を交わしたい』と申し出る。


②了承を得られたら、《神族》は対象者に対して己と契約を交わすに

ふさわしい存在であるかを確かめるために試練を与える。


③対象者がその試練をクリアする。


④《神族》から合格判定をもらったら、対象者は契約ができる権利をもらう。


⑤《神族》と話し合いをして細かな取り決めをする。


⑥契約の儀式を行い、対象者は晴れて【契約者】となる。



小鈴の解説に、向日葵はそうなんだ…と頷きながら、所持していた手帳にそれを書いていく。



「ところで【試練】って、どんな事をするの?」


「私が持っている文献によると、エクレシアによって試練の内容は変わるそうだ。

実際に受けた当事者にも、話を聞かせてもらいたいのだが…」



小鈴がちらりとシズクに視線を送る。

彼女の要望に対して、シズクは「いいよ」と快く承諾した。



3/5ページ
スキ