第3章【9】シズクの語りと、発覚した運命の変動
「なるほど、普賢さんが言ってた『魔法使いの女の子』は貴女なんだね」
湖からあがったシズクは、向日葵と小鈴から事の詳細を訊いた。
「普賢さんが…私の事を、ですか?」
シズクの言葉に、向日葵は意外な表情で目を瞬きさせる。
向日葵と小鈴は地面に座って、シズクの話を聞いている。
地面には、柔らかい苔がカーペット代わりになっているので痛くない。
「うん、メールでよく話題にしているよ」
シズクはそう言いながら、近くに置いてあったバスタオルで身体を拭く。
(…シズクさんと普通に会話できている)
向日葵はシズクと遭遇した当初、狼狽してしまった。
まさか、普賢の固有結界内に【幻影旅団】の一員がいるなんて思いもしなかったからだ。
小鈴に至っては札を出して身構えており、危うく戦闘が始まるのでは…という空気であった。
『貴方達、普賢さんの知り合い?』
そんな状況を変えたのが―――シズクであった。
【どうして、普賢がこの結界内に少女二人が入るのを許可したのか?】
彼女は素朴な疑問を解消したくて、向日葵達に質問してきたのだ。
…素直に答えよう。
シズクの態度を目にして、向日葵は下手に誤魔化さずに今までの経緯を伝えた方がいいと思った。
…自分達がシズクの所属する【幻影旅団】に目をつけられている事も含めて。
事実、その選択は正しかった。
シズクは事情を知っても、向日葵達に危害を加えなかった。
「私、今は休業中なんです」
「えっ、盗賊の仕事を…ですか?」
「うん。だから、貴方達の事は襲わない」
向日葵は頭の中が混乱している。
シズクの言う事が正しければ…彼女は【幻影旅団】から距離を置いている、という事になる。
「本当なのか?」
『疑わしい』…その心情を小鈴は隠す事無く顔に露わにする。
「信じてるか信じないかは、貴方達の好きにしていいよ。
私はどっちでも構わないので」
そんな彼女の態度に眉を顰める事無く、シズクはさらりと自分の意見を告げた。
あまりにもあっさりとした対応に、小鈴はなんとも言えない顔を浮かべてしまう。
「あの…シズクさん」
「なに?」
「どうして、本業を…【幻影旅団】の仕事を休んでいるんですか?」
原作では、シズクは団長であるクロロからの要請にはきちんと応えて仕事を全うしていた。
足を洗うとまではいかなくても、本業から離れる事を決めるのは
何かしらの大きなきっかけがあったはずだ。
その問いかけに、シズクはタオルで髪を拭いていた手を止めた。
「言わないと…ダメ?」
「あっ、いえいえいえ…!? 答えたくないのであれば、それで全然大丈夫ですので!!」
この質問はシズクにとって地雷だった…と感じたのか、向日葵は慌てて両手をぶんぶん降りだして、
無理に答えなくていいと釈明する。
しかし、シズクはそれに気分を害した様子はなさそうで…
眉を寄せて考え始める。
「うーん、色々とあるんだけど…」
(あれっ、もしかして…話してくれるの?)
予想外だが、本人が理由を語ってくれるのだから…と向日葵は耳を澄ませる。
「一番の原因は、普賢さん」
「………えっ?」
「普賢さんの所為で…私、蜘蛛から引き離されちゃった感があるかな。
うん、唆されたかもしれない」
シズクの口から語られた事実に、向日葵は硬直してしまう。
「その口調だと、普賢殿が悪人のように聴こえるが…?」
「まさにその通りだよ。標的であったあの人と関わっていた私が証言します」
シズクがハッキリと断言した事に、小鈴は冷や汗を流しながら向日葵に視線を向ける。
(おい、どういう事なんだ…)
(ど、どうと言われても…私にもさっぱり…)
詳細を説明しろ、と小声で要求する小鈴。
向日葵も訳が分からず、目がグルグルと回りそうになる。
「…もしかして、まだ説明不足?」
「あの、普賢さんとシズクさんとの関係がまだ…」
普賢とシズクの間に何があったのか…前後関係の話がないため、分かりづらい。
正直に言うと、シズクが口元に手を添えてうーん…と唸る。
「それだと…もっと話した方がいい?」
「はい…そうしてくださると嬉しいです」
「できれば、具体的に教えてくれると助かる」
向日葵と小鈴の申し出に、シズクは「まぁ、いいか」と開き直ったように言った。
「長くなるけど…時間はあるからいいよね?」
(シズクさんが…笑ってる…!)
原作では、喜怒哀楽があまり見られなかったシズクが花が綻ぶかのように微笑んだ。
向日葵は内心驚くとともに、ある事に気付いた。
シズクの心境に変化をもたらしたのが、彼女が【悪い人】だと評する普賢真人なのではないか…と。
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