第3章【8】急展開な誘いと、予想外のエンカウント


「盛り上がっているところすまないが、話を戻していいか?」

「あっ、ごめんなさい」



話が脱線してしまった。

向日葵が小さく謝ると、小鈴は再び口を開いた。



「二つ目だが…【幻影旅団】の最大の目的であるエクレシアは誰なのか?

13機関の者から訊いているか?」



その質問に、向日葵とヴィンセントは「ああっ!?」と声をあげてしまう。

小鈴は予想していたのか、深い溜息をついた。



「その様子だと、聞きそびれたのだな」

「はい……すみません」

「旅団の事で頭いっぱいになってもうたんや…ホンマ堪忍な~」



冷や汗を流しながら、向日葵は土下座する。

ヴィンセントも苦笑いしつつ謝罪した。



「13機関の者は、そのエクレシアについて何か特徴は言わなかったのか?」

「うーん…旅団の古参の人達と幼馴染だって事ぐらいしか」



話し合いの時の事を振り返っていた最中、向日葵はあっ…とある事を思い出す。



「李さん、実は…この後でエクレシアの一人と会う約束をしているの」

「…! それは本当か?」


「うん。その人なら分かるかもしれない。

だから、訊いてみる! 分かったらメールするね」



「任せて!」と張り切る向日葵に、小鈴は顎に手を添えて数分程思案する。



「…木之本」

「なに?」

「もし、迷惑でなければ…私も同行していいか?」



小鈴からの思いもよらない申し出に、向日葵はえっ…と目を瞬きさせ、

ヴィンセントは「はぁ?」と耳を疑う。



「小娘、どういう風の吹き回しや?」


「エクレシアがどういう人物なのか…

個人的に興味があるからだ。それに…」



向日葵とヴィンセントを交互に見つめながら、小鈴は微妙な顔でこう続けた。



「お前達だけを行かせるが…不安で仕方ない」

「…あの、もしかして心配しているの?」


「あのような危険人物が集まる集団だ。

護衛がいるとはいえ、何らかの能力で接触してこようとするに違いない。

仮に遭遇した場合、木之本…お前は逃げられる自信はあるのか?」


「うっ…ないです」



小鈴の問いかけに、向日葵は痛い所を突かれてしまった。

しかし、事実その通りなので素直に答える。



「なら、私も連れていけ。いざという時のために…味方は必要だろう」

「一昨日、痛い目にあったんちゃうんか?」


「あの時は…圧倒的な差に後れを取ってしまった。だが、今は違う。

あの者達の情報を知り、対処法を思いついたからな」



小鈴は自信のある笑みでそう断言した。

…なんて、なんて頼もしいんだ!

彼女の姿が煌いて見え、向日葵はおぉ…と感嘆の声を漏らす。



「対立関係とはいえ、顔見知りが害されるのは目覚めが悪くなるだろう。

今回も仕方ないが、協力しよ…」


「ありがとう! 李さん!」


「…ってこら! 話の途中でいきなり抱き付くな!」



ヴィンセントは、二人のやり取りに生温かい眼差しを向けながら思った。



(小娘も…案外お人好しなところあるんやなぁ~)



*** ***** ***



「おかえりなさい、マチ」

「…ただいま」



アジトに戻ってきたマチに、読書中のパクノダが声をかけた。



「お疲れのようね」

「…うん、大分回ったからね」



手で右肩を軽く擦りながら、マチはハァ~と深く溜息を吐いて近くの木箱に腰を下ろした。



「シズクの事、どうだった?」

「うん…また新しい事が分かったよ」



そう言うマチは難しい表情を浮かべている。

指で眉間の皺をなぞる彼女に、パクノダは微苦笑する。



「少し休んだら?」

「そうしようかな。シャルからも言われたし…」



シャルナークは、現在進行形で別の場所で調べものをしている。

ハンターライセンスを所持している彼は、ハンターサイトで二日前から情報収集をしている。


マチもその手伝いをしていたのだが…

ちょうど五時間前に新情報を入手したのだ。

団長には既にメールで報告済だ。



「何か飲む?」

「ありがとう、さっぱりしたやつで」



パクノダが気を利かせて、冷蔵庫のある部屋へ飲み物を取りに行った。

ちょうど入れ違いに、フェイタンがやってきた。



「帰てきたか」

「フェイタンもお疲れ様。そっちの方はどうだった?」


「護衛の数多すぎね…特に軟体生物。ムカつくね」

「そりゃ大変だったね。ところで…団長は?」



ブツブツと文句を零すフェイタンに、マチは尋ねる。



「あちの世界に留まてるよ。標的へ近づく方法を考え中」



軟体生物共が邪魔するけどね、とフェイタンは目を鋭くして言う。

…あちら側の護衛はかなりの強敵のようだ。



「あ、そうそう…団長が言てた。あちに一人呼び寄せるて」

「誰にするの?」

「あの軟体生物共を蹴散らす奴なんて…決まてるだろ」



フェイタンの言葉を聞き、マチの頭の中で二名の古参の姿が浮かび上がる。



「あぁ、あの人か」

「そうそう、あいつね」


「…何と言うか、別の意味で大丈夫?

派手に暴れて目立ったらまずいだろ」



マチが微妙な顔でそう言うと、フェイタンはケラケラ笑う。



「その辺は団長が調整するよ。

このところ、あいつも『出番なくて退屈だ』て言てた…だから丁度いい。

あの護衛の生物共が、いい遊び相手になてくれるはずね」



同時に、あの忌々しい13機関の上層部の者達も呼び寄せられるかもしれない。

そうなれば…一気に狩りつくしてやる。

団長の意図を読み取っているフェイタンは、衣服に隠れている口の端を吊り上げた。



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