第3章【8】急展開な誘いと、予想外のエンカウント


「いらっしゃい」



翌日、向日葵とヴィンセントは予定通りに小鈴の住むマンションを訪れた。

私服姿の小鈴が出迎えてくれ、そのまま自室へ通された。



「ここが李さんの部屋なんだね…」



壁の色に合わせて、机や箪笥などの日用品や小物類をシックなテイストでまとめており、

落ち着きのある空間にしている。

大人の雰囲気がある小鈴に似合う素敵な部屋だ。



「意外と普通やなぁー」


「その含みのある言い方は何だ…どんな想像をしていたんだ」


「魔法グッズとか、実用的な剣やアイテムを置いとったり、床は魔法陣が描かれとったり…って、

テンプレなもんの目白押しやと思ってたんや」


「実家の宝物庫ではあるまいし…

それに、私は自室に余分な物は置かない主義だ」



ヴィンセントが視線をあちこちに向けていった感想に、小鈴は呆れた顔でツッコむ。



「うわぁ…本がいっぱいあるね」

「個人的に興味のある物だけは揃えている」



本棚には、びっしりと分厚い頁の書物が揃っている。

主に歴史や魔法に関する物が多い。



「この本、ちょっと見ていいかな?」

「構わない」



小鈴の許可を得て、真ん中にあった魔法関連の書籍を手に取った。

ぺらりと頁を捲るが…専門的な用語が飛び交っており、向日葵の目は点になる。



「それは私がよく読んでいる物だ。

専門書に近いから、基礎を理解していないと分からんぞ」


「ほ、ほぇ~…」



向日葵は、冷や汗を流してそっ…とその本を元の場所へ戻した。

適当な場所に座ってくれ、と小鈴から言われたので、向日葵はカーペットの上に正座した。



「来て早々すまないが…【幻影旅団】の事を教えてほしい」

「はい! そのために用意してきました」



小鈴の頼みに、向日葵は「待っていました!」と顔を輝かせた。

持ってきた手提げ袋から原作の漫画とファンブック、

そして、午前中に作成した簡単な相関図を取り出す。



「まずは、簡単な登場人物の説明からいくね」



こうして、向日葵による【幻影旅団】に関する講座が始まった。

小鈴は熱心に、ノートにさらさらと団員の情報をペンで記していく。



「向日葵が、小娘に知識を教える光景なんてレアやなぁ…

まぁ、程々に息抜きもせんとあかんでぇー」



ヴィンセントは用意してくれたお菓子を食べながら、二人の様子を見物している。

もぐもぐとマフィンを咀嚼しながら「頑張れよー」とコメントするヴィンセントに、

小鈴は「呑気な奴め…」と呟く。



「ヴィンちゃん、お菓子全部食べちゃダメだよ」

「はーい」

「やれやれ…」



合間に、ヴィンセントのアドバイス通りに紅茶とクッキーを味わい、一時間ほど講座は続いた。



「…以上です。何か質問はありますか?」



出来る限り、分かりやすくまとめたのだが…

小鈴が理解していないと意味がない。

恐る恐る確認すると、小鈴はふむ…と唇を手で覆いながら思案する。



「内容はほとんど分かった…ただ、二点聞きたい事がある」



どうやら、こちらの説明は小鈴に上手く伝わっていたようだ。

向日葵はその事にほっとしつつ、小鈴の言葉に耳を傾ける。



「一つ目は、エクレシアについてだ。

木之本…お前は、現段階で何名のエクレシアと接触している?」


「えっと…この間、三人と会ったから…七人になるかな」



そう答えると、小鈴は目を大きく見開いた。



「…間違いないんだな」

「うん、まだ会っていない人もいるけれど…」



正直に言うと、小鈴は眉間に手を押し当てる。



「どうしたの?」

「お前が…ここまで遭遇率の高い者だとは思わなかった」

「うーん、確かにそうだね」



このところ、エクレシアやら異世界の住民とエンカウントする事が多い。

怖い体験をした事はあれど、それ以上に漫画やアニメに出ている登場人物と

リアルに話をしたという事実に高揚感を覚える。



「…楽観過ぎる思考だ」

「そ、そうかな…?」


「だが、そういう前向きな姿勢だからこそ、活路を見出せる

…強みであるともいえるな」



小鈴に言われた事に、向日葵はえっ…と目を瞬きさせる。

もしかして…褒められたのだろうか?



「お、小娘にしてはええ事言うやないか!」

「客観的な意見を言っただけだ」



ヴィンセントも機嫌良く反応している。

鬱陶しそうに言葉を返す小鈴に、向日葵はふと疑問に感じた事を尋ねた。



「李さん…エクレシアの事を知っているの?」


「あぁ、実家にある書物の中で、時折その種族名を見かけていたからな。

かつて、クロウ・リードが生きていた時代に…

彼は複数のエクレシアと面識があったらしい」



彼の子孫である小鈴が語った事実に、向日葵は驚きを顔に表す。

…初耳だ。

自ずとヴィンセントに視線を向けると、彼はコクリと頷く。



「ワイやケルベロスが生まれる前の話や。

小娘、エクレシアの事が書かれていた書物は…クロウの日記とかやろ」


「ああ、その通りだ」


「クロウはえらい昔に、色んな異世界を旅した経験があった。

ぎょうさんある世界のいくつかでエクレシアと出会ったようやで」



クロウ・リードは、若い頃から世界を渡り歩く術を身に着けていた。

彼はたくさんの世界を渡り歩き、多くの人々との出会いや別れを経験した。

その中に…エクレシアも含まれていたのだ。



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