第3章【6】策を練る団長と、行方知れずの団員


「…夢か」



目覚めると、そこは見慣れたアジトの一室の天井だった。

クロロはベッドから起き上がると、くしゃっと髪を掻きながら溜息を吐き出す。


結局、あの世界でリーシェを探したものの、見つける事はできなかった。

ほんの一瞬だけ見せた、あの気配は…彼女の気紛れなのだろうか。



「団長、起きてる?」



扉越しにマチの声が聞こえてきた。

入室の許可をすると、マチが大きなレジ袋を持って近づいてきた。



「これ、食事。まだとってないだろ?」



そう言うと、マチはレジ袋からパンや缶詰、ミネラルウォーターなどを取り出していく。

そういえば、深夜に戻ってきてからすぐにベッドに直行したため、何も食べていなかった。



「ああ、ありがとう」



クロロは礼を言うと、封を切ってパンを一口齧った。



「おっ、新味だな…これ」

「パクノダのお勧め。最近、パンに凝ってるらしいよ」



マチがそう言いながら、はいこれと缶コーヒーを渡す。



「リーシェは、あの世界にいるの?」



コーヒーを飲むクロロに、マチが真面目な表情で訊いてきた。



「いる…と信じたいな」



あの世界にリーシェがいる可能性は…クロロの見立てでは五分五分だ。

エクレシアの中でも、リーシェは出没する世界が多いゆえに見つけ出すのが難しい。

医療関係者やクライアントは、リーシェのいくつか所持しているメールのアカウントを

利用して彼女に依頼をしている。


そのアカウントさえも定期的に変更しているらしく、【ハンターサイト】でも

入手難易度は『困難』レベルにされている程だ。


直接連絡を取れる人物はごく一部と限られており、そのアカウントを渡された者は

彼女から信頼されている証拠と言われている。



「あの賭けの時、シズクのサポート役になれていたら…

ちょっとは状況は変わっていたかな」



近くの椅子に腰かけたマチがその話題を口にすると、クロロは食べる手を止めた。



「あれは仕方なかった。念を解く以上の…複雑な要因が絡んでいたんだ」



かつて、リーシェと勝負をしていた時…異世界を舞台に、

シズクが代表者として動かなくてはならない状況であった。


当初は、リーシェにかけられた念を解除して誰か一人でもすぐに

シズクの世話係(サポート役)として向かわせる予定だった。


しかし、事はそう簡単に上手くいかなかった。

あの当時の旅団の団員のほとんどは、念以前に厄介な『モノ』の所為で行動に支障が出ていたのだ。



「本音を言えば、シズクが選ばれた時点でリーシェの意図に気付いていれば…と少々後悔している。

だが、どうこう言っても彼女が勝って、俺らが負けた事実は覆せない。

このまま停滞してしまうよりも…次の行動に移していくべきだ」


「…うん、そうだね」



クロロの意見に、マチは賛同する。

賭けには惜しくも負けてしまったが、団員は誰一人欠ける事無く生存している。

※自主的に脱退した奇術師のあの男は除く。


そして、対戦者であるリーシェも生きている。


…過去を振り返るばかりでは前に進めない。

生きていれば、挽回する機会はいくらでもあるのだから。



「リーシェを捕獲するためには…『エクレシアと関わった者』を使うしかない」

「魔法のカードの所有者の…あの女の子の事?」


「シャルが調べた限りでは…あそこでエクレシアと深く関わっていて、

なおかつ積極的に交流しているのは木之本 向日葵と彼女の仲間達だけだ」



向日葵達だけに限らず、エクレシア九名はそれぞれ異世界毎に交流を深めている特定の人物がいる。

勿論、その対象者もマークしている。


しかし隙がなかったり、戦闘になったら明らかにこちらに分が悪くなる程の

レベルの者達に守護されていたりと…

安易に接触する事ができない人が大半であるため、やりづらいのが現状だ。


その中で、向日葵達は狙いやすい珍しい位置にいる。

他の世界の対象者と比べれば、難易度は遥かに易しい方だ。



「それに、【クロウカード】も手に入れたいしな。

コレクションとしてもだが…今後の仕事の力になるかもしれない」


「そういえば…フィンクスが苛立っていたよ。

そのカードの関係者の捕獲を部外者に邪魔されたって」



半日前、パクノダが尾行していた【クロウカード】を作った魔術師の血を受け継ぐ少女を、

フィンクスが拘束しようとした。


その際に、謎の男女が突如現れてその少女を連れて行ったとの事。

パクノダから既に報告を受けていたクロロは、眉を顰めて思案する。



「パクノダは、女の方の発言から大規模な組織がいるんじゃないかと言っていた。

強引な手段で横取りしたがる連中がいるくらい、【クロウカード】は強力なアイテムなのだろう」



どんな組織なのかは不明だが、同じ獲物を掠め取られるのは面白くない。



「その標的の子は、あの一件があって自宅にこもっているみたいだけど…

また誰かに見張りをさせる?」


「そうだな…パクノダとフィンクスは顔がバレているから、別の団員に担当を変えよう」



あとは…と顎に手を添えて、クロロは言葉を続ける。



「木之本 向日葵に…もう一度接触してみようか」

「大胆にいくね」


「今回は話をしに行くだけだ。

エクレシア側が警戒を強める前に、ある程度懐柔できれば上出来だな」



仮に、李 小鈴の一件が何かしらの形で伝達されていたとしてもさして問題はない。

抵抗するようなら、こちらもしかるべき対処をする…それだけだ。



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