第3章【4】尾行者の正体と、ライバル少女のピンチ
手を繋がれた状態で、小鈴は走っていた。
当初は混乱していたため、ローブの女性の言う通りに従っていたが、
だんだんと心が落ち着いてきた。
「なぜ…私を助けたんだ」
移動の最中、どうしても訊かずにはいられなかった。
下手をすれば、殺される可能性すらあったのに…
女性と仲間と思わしき人物は、見ず知らずの自分の窮地を救ってくれた。
その事実に、感謝よりも疑念の方が上回ってしまう。
「その答えは、安全な場所へ辿り着くまでお待ちいただけますか?」
女性は、回答するのは後に回してほしいと言った。
「どこに行く気だ?」
「貴女の住んでいるマンションですよ。李 小鈴さん」
「名前まで…知ってるのか」
目を見開く小鈴に、女性の口元が綺麗な弧を描く。
「初対面ではありませんから」
「その口ぶりだと…どこかで会ったんだな」
「ええ……でも、お話している余裕はないですね」
女性が移動速度を緩くしていき、歩を止めてしまった。
何事かと小鈴は前方を見るとギョッとした。
「お疲れ様、いい運動はできたかしら」
パクノダが腕を組んで待ち構えていたのだ。
この場所は、あの河原からかなり距離があるのにどういったルートを使って先回りしたのだろうか…。
「さっき、相方が強引な行動に出た事は謝るわ。
でも、そのお嬢さんにはどうしても聞きたい事があるのよ」
「…どういう用件だ」
小鈴は意を決して質問した。
パクノダ達が、自分と接触して…何の利を求めているのかを探るためだ。
「貴女、クロウ・リードの末裔なのでしょう?」
「…だったら、なんだ」
「団長が知りたがっているのよ。【クロウカード】の事を…」
なるほど、彼等の目的はハッキリした。
小鈴は厳しい表情で告げた。
「生憎、一族の内情を赤の他人…しかも、誘拐犯に教えるほど、私はお人好しではない」
「ハァ…フィンクスの所為で、こっちの心証が完全にマイナスになったじゃない」
しょうがないわね、とパクノダは小鈴へ近づこうとするが…
「お話のところすみません」
ローブの女性が口を開いた。
一歩前に出て、小鈴を背で庇うようにパクノダと対峙する。
「失礼だけど、どいてくださる?」
「それはできかねます。
私も主の命でこちらの方を護衛しなくてはいけませんので」
そう答えるや、ローブの女性は懐からテニスボールくらいの大きさの丸い球を取り出す。
小鈴とパクノダの視線がその球に集中した…その次の瞬間、女性はそれを地面に投げつけた。
―――ピカッ!
強烈な白い光が放たれ、周囲を覆い尽くす。
眩しい光から目を守るために、パクノダは反射的に手で目元を遮った。
ようやく光が収束した頃には…小鈴と女性はいなくなっていた。
「…厄介ね、あの女」
…獲物を逃してしまった。
だが、それよりも別の組織が暗躍している可能性が出てきた事の方が問題である。
同じ標的を狙う者達が増えてしまうのは、こちらとしても不都合だ。
頭の中で情報を整理していると、携帯の着信音が響いてくる。
取り出して画面を開くと…『クロロ=ルシルフル』の文字が出ていた。
「もしもし、団長」
まさに絶妙のタイミングだ。
パクノダは今までの経緯を報告する事にした。
【尾行者の正体と、ライバル少女のピンチ】
夕陽が沈みつつある時刻、ペンギン公園に一人の人物がいた。
ペンギン大王の滑り台から近いベンチに腰を下ろしているその人物は…普賢真人だ。
「曇り空でなくてよかった…今日は星が見れそう」
本日は夜へ移り変わる時間帯に、この公園で待ち合わせをしている。
久々に会う【その人】とは前々から約束していた。
「結果は…どうだったのかな」
此処とは異なる世界で、【その人】はある事に挑戦すると言っていた。
どんな結果だったのか…は、普賢に直接会って伝える事になっている。
(午後六時半まであと三分。迷っていなければいいけれど…あっ!)
普賢が時間を確認した直後、公園の入り口付近に誰かが立っていた。
辺りが夜の闇に包まれている中、視力が良い普賢の目にはその姿がしっかりと見えていた。
…間違いなく【その人】だった。
「お久しぶりです、普賢さん」
普賢の元へとやってきた【その人】は、礼儀正しく頭を下げて挨拶する。
眼鏡をかけている点は相変わらずだが、以前と違うところもある。
少し髪の長さが伸びており、服装も普段好んで着ているモノとは異なる組み合わせにしている。
きっと…彼女の中の変化が【形】として現れたのだろう。
そう思うと胸が温かくなる。
「うん、久しぶりだね。シズクちゃん」
普賢は頬を緩めて挨拶を返した。
告げられる結果次第で、これから付き合いが長くなるかもしれない
彼女…シズクとの【内緒の時間】がスタートした。
【つづく】
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