第3章【4】尾行者の正体と、ライバル少女のピンチ


―――『やばい』



その一言が小鈴の頭の中を占める。

幼い頃から、母の指導のもと弟と共に厳しい修行を積み重ねてきた。

時に、李家の存在を危険視したり、優秀なその血筋を取り込もうと画策した

刺客に狙われる事もあった。

そのたびに、母や周りの人々と協力して小鈴は刺客を倒したり、退けたりしてきた。


しかし、今回ばかりは圧倒的に状況が不利だ。

眼前の男女二人に真っ向から勝負する事は、自殺行為に等しい。



「大丈夫よ。大人しく一緒に来てくれたら、手荒な真似はしないわ」



パクノダが余裕の笑みで手を差し出すが…小鈴は目を細めて沈黙を貫く。



「めんどくせえガキだなぁー、やっぱ気絶させてとっとと連れていこうぜ」

「やめなさい。貴方のその発言が、余計にお嬢さんを怖がらせてるんじゃない」



パクノダが冷静に指摘すると、フィンクスはちっと舌打ちをする。



「ったく、おい…ぼぉーと突っ立ってねえでこっちこい」



フィンクスが手を伸ばしてきて、小鈴の腕を掴もうとする。



(まずい…ッ!)



普段の小鈴であれば、回避しただろうが…

この時の彼女は、相手側との力の差に動揺していた事で、思考が鈍っていた。

迫りくる魔の手に、小鈴は思わず目を瞑ってしまう。



―――ガッ、ガッ、ガッ、キーンッ



しかし、その手は少女の腕を掴む事はなかった。

魔力を感知した小鈴は目を開けると、複数の大きな氷柱が地面に突き刺さる形で壁を作っていた。

あたかも、男女二人から小鈴を守るように…。



「これは…」


「ほぉ~、こっちの仕事に茶々を入れてくるなんざぁ…

どこのこいつだァアアアア!?



捕獲の邪魔をされてしまい、逆ギレしたフィンクスが威圧のこもった顔で辺りを見回す。



「こちらへ」



戸惑う小鈴の耳に女性の声が聞こえてくる。

振り返ると、後ろに赤と黒を基調としたローブを纏った人物が立っていた。

フードを深く被っているため、口元のみ露わになっている。



「行きますよ」

「あっ…」



そのローブを纏った女性は、小鈴の手を握り締めると素早く反対方向へ駆けていく。



「逃がすか!」



氷柱の一部を拳で粉砕したフィンクスとパクノダが追いかけようとするが、

上空から別の人物が降り立った。

青と白を基調としたローブを纏い、先程の女性と同様にフードを深く被って素顔を隠している。

背が高い事と体格から、男性であるのは間違いない。



「そこをどいてくれる?」

「それはできない」


「てめえか…ふざけた術をぶっ放して妨害してきた野郎は」


―――『妨害』か。

…君達にとってはそういう見方になるだろう。

だが、こちらから見れば、いたいけな少女を強引にかどわかそうとしている

誘拐犯の蛮行そのものだった。

それを阻止するのは、当然ではないかな?」



男性の皮肉を含んだ返しに、フィンクスは眉を大いに顰め、額に複数の青筋が立った。



「はっ、俺らに説教のつもりか…いい度胸してやがるな」



手指の関節を鳴らし、フィンクスは先手で攻撃を仕掛けてきた。

男性は手元に変わった形状の杖を出現させると、それでフィンクスの手刀をガードした。



  バン、バン、バン、バン、バァン!



援護するように、パクノダが二丁拳銃で弾を連発する。

だが、ローブの男性の周囲に小さな結界のようなものが発生し、弾丸が弾かれてしまう。

フィンクスは、間髪入れずに拳と蹴りで攻めていく。

敵の猛攻に、男性は防御と回避を巧みにしていき、杖を使って連撃していく。



(…これは効かなさそうね)



どうやっても、男性を守る結界は弾丸では壊せないようだ。

ならば、体術でいくしかないとパクノダは標的へ接近しようとしたが…



「邪魔すんじゃねえ!」



フィンクスの一喝により、動きを止めた。

次の瞬間、彼とローブの男性…両者がぶつかり合った。

拳と杖…双方は拮抗しあい、互角の力だったゆえに衝撃波を生み出した。


その反動で二人は大きく弾かれてしまうが、どちらも足で土を踏みしめ、

ザザッと音が出しながら後退するだけに留まった。



「お前は、あのガキと女を追いかけろ!」

「…分かったわ」



『この場は引き受ける』

…仲間の意思を汲み取り、パクノダは全速力で走りだした。


男性が咄嗟に小声で呪文を唱え始めた。

術を発動させまいと、フィンクスは腕を回してオーラを増大させると

地面にめがけて拳を打ち付けた。


大技を叩きつけた事で、河原の地面に亀裂が走り、土や石礫がシャワーの如く宙へ飛び散っていく。

詠唱を中断された男性は、舞い散る砂の雨に紛れて迫りくるフィンクスの姿を目にする。

回し蹴りが首に当たる前に、屈んでそれを避けた。



「てめえの相手は俺だ! 余所見すんな!」

「やれやれ…クールじゃないな」



周囲に放たれる殺気と闘気により、飛んでいた鳥が気絶して真っ逆さまに落ちていき、

野良犬は怯えて逆方向へ逃げていく。

そんな状況すらお構いなしに、原因の主達のタイマン勝負は継続していった。



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