第3章【4】尾行者の正体と、ライバル少女のピンチ


夕食が終わり、部屋に戻るとヴィンセントがうーんと唸りながら、

ベッドの上で【HUNTER×NUNTER】の単行本を開いていた。



「ヴィンちゃん、お待たせ」

「おぉー、まんぷくのところすまんなぁ」


「その巻…旅団の勉強中?」

「そうや。いざばったり会うた時のためにな」



それにしても…とヴィンセントは眉を八の字にして頁を捲る。



「マフィア相手にごっつい喧嘩しかけるわ、おっかない昆虫相手にタイマン張るわ

…こいつら、ホンマにすごすぎやろ」


「うん、私も初めて読んだ時にそう思った」



【幻影旅団】は、原作の序盤でメインキャラの一人からその存在と脅威だけ説明されていた。

本格的に登場したのは、ヨークシンシティ編になってから。

団員一人一人の強さは本物で、裏家業の者達やキメラ=アントに

臆する事無く、立ち向かっていく。


強い個性の主が多く、赤の他人や敵には容赦しない残酷な彼等だが、

懐に入れた存在には寛容だったりと…

悪役であるにも関わらず、惹かれてしまう魅力があるのだ。



「ところで、ヴィンちゃん…話したい事は他にもあるでしょう?」



ヴィンセントは小さく頷くと、真剣な顔で答えた。



「今までは運が良かったり、相手が争いを好まんタイプやったからなんとかなった。

けど、今回はちゃう。相手は好戦的な上に手段を選ばん盗賊団や。

向日葵…もし会うたとしても、逃げるんを優先するんやで。

クロウカード使こうても…今のお前では勝てん」



改めて、ヴィンセントが忠告してきた。

まさにその通りだ。

魔力が上昇しているとはいえ、戦いのプロ相手に勝負するのは難しい。



「…うん、そうだね」



向日葵は不安な表情で頷く。

しかし、どうしても言いたい事があった。



「ヴィンちゃんのその意見にはすっごく賛成なんだけど…この巻のこの頁を見て」



向日葵は、【HUNTER×HUNTER】の12巻の旅団が行動する場面を見せた。

関連頁を見たヴィンセントの顔から、汗がダラダラと流れていく。



「逃げても、こんな感じで追いかけられちゃうよ?」

「あ、あはは…そ、そこんとこもよう対策考えんといかんな…」



逃走する選択をしたとしても、【幻影旅団】の団員のスペックを甘くみてはいけない。

忍者の如き速さで、壁さえも利用して標的を追い詰めていくのだから。




*** ***** ***



遡る事、三時間前…李 小鈴は帰路に着いていた。

電車の座席に腰を下ろして、借りた書籍を読んでいた。



(…一人か)



…誰かに見られている。

小鈴がその事に気付いたのは、二回目に貸本屋を訪れた時だった。

店の中に入る際に、ほんの一瞬だけ気配を感知した。

それから、日常生活をしている間に時々ではあるが、同じ気配を感じ取る事が続いた。


小鈴は察した。

気配の主の狙いは自分であると…。

幸いな事に、その人物は弟や世話係の偉望は標的の対象に入れていないようだ。

学校を休んだのは、その主を突き止める事も理由に含まれていた。


電車を降りて、マンションとは別方向へ歩き出す。

できるだけ人がいない場所…不測の事態に備えて以前行った河原へ着いた。

徒歩で移動中に懐から札を取り出すと、後方へ飛ばした。



「雷帝招来、急々如律令ッ!」



呪文を唱え、気配の主がいる付近へ雷撃を落とした。

普段から愛用している愛剣で使用する時よりも、術の威力はやや劣ってしまうが、

相手を威嚇するには十分だ。



「―――いい加減、出てこい」

「随分と派手に仕掛けてくるのね」



小鈴の呼びかけに、その主は答えてくれた。

…現れたのは女性だった。

背が高く鷲鼻と長いまつ毛が特徴的で、スタイルが良くて派手な色のスーツを着ている。



(…この気、やはり只者じゃない)



小鈴は警戒を強める。

目の前の人物がどれくらいの力量があるのか…すぐに理解したからだ


…油断したら、やられてしまう。

実際に女性はあの雷撃に驚いた様子もなく、普通に話しかけてきた。



「一応、『はじめまして』と言うべきかしら。お嬢さん」

「…何故、私を尾行する?」


「うちのトップの命令だからよ。

貴女に気付かれたから、予定変更になりそうだけど」



そう言うと、女性は携帯を取り出した。



「…出ないわね、急用かしら」



女性は携帯を耳に押し当てて、連絡先の人物が出ない事に軽く溜息を漏らす。

小鈴は思った。

このまま、この場に留まっていたらまずい。

女性が連絡に気を取られている隙に、逃走しようと足を動かそうとしたその時…



「ところで、フィンクス。貴方も出てきたらどうなの?」



女性の言葉に、小鈴はハッと斜め前方へ視線を向ける。

連絡中のパクノダの後方に、ジャージを着た強面の男性が姿を現していた。



(…! この男、何時の間に…!?)



今まで、その気配すら感じ取れなかった。

額から一筋の汗が流れ落ちる。



「パクノダ、姿晒してヘマでもしちまったのか…お前らしくねえ」

「フィンクス、貴方…団長と一緒じゃなかったの?」


「団長は今、別行動中だ。

さっき連絡きて『お前の手伝いしろ』ってよ」


「そう、忙しいのね」



納得したという表情で、女性…パクノダは携帯をしまった。



「団長に何か用事でもあったのか?」

「そこのお嬢さんに尾行がバレてしまったから、どうすべきか相談しようとしただけよ」

「はっ、んなもん訊かなくもいいだろ」



フィンクスは鼻で笑うと、小鈴に視線を移してニヤリと凶悪そうな笑みを浮かべる。



「手っ取り早く捕獲すりゃいいじゃねえか」



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