第3章【3】観察する尾行者と、協力者への相談
『もしもし…ああ、向日葵さん。お久しぶりですね』
電話越しに聞こえてきたゼクシオンの声。
向日葵以外にも会話が聞こえるように、電話のスピーカーマークも押しておく。
向日葵は、ヴィンセント、仁王、切原にアイコンタクトをすると彼等はコクリと頷く。
「ゼクシオンさん、実は相談があるんです」
向日葵はこれまでの経緯を説明する。
ゼクシオンは「はい」と相槌を打ちながら、話に耳を傾けてくれた。
『【双月文庫】…なるほど、貴女はお友達とあそこに行ったのですか』
「ゼクシオンさんも、その御店に行った事があるんですか?」
『正確には、僕ではなくてメンバーの一人が通っています。
あの貸本屋は…13機関の方でも警戒指定されている場所なんです』
「「ええっ!?」」
返ってきた言葉に、向日葵と切原の驚きの声が二重奏になった。
「…13機関もマークしとるとなると、相当ヤバい所のようやな」
「連絡して正解だったのぅ」
ヴィンセントと仁王の声を聴きながら、向日葵は会話を進めていく。
『尾行されている件ですが…
向日葵さんは、日常生活でそういう事をされる心当たりはないですか?』
「はい、ありません」
『そうなると…【双月文庫】へ足を踏み入れた事が要因となったのは間違いありませんね。
向日葵さん、あの店にいた時に特定の人物と接触したりしませんでしたか?』
ゼクシオンのその質問に、向日葵はええと…と思い出そうとする。
「あの時は、店長さんと………ッ!」
回想していた最中、向日葵は言葉を失った。
すると、顔を俯けて口を真一文字に結んでしまう。
『向日葵さん…? どうしました?』
「くも……蜘蛛がいました」
三分程経過して、向日葵は徐に唇を動かした。
「クモ…?」
「店の中にいたのか?」
「いや、巣はないくらいにキレイやったけど…」
向日葵がようやく紡いだ言葉に、切原は疑問符を浮かべる。
仁王は、店内に蜘蛛が巣でも作っていたのか…とヴィンセントに尋ねると、
ヴィンセントは被りを振る。
「そっちの蜘蛛じゃなくて…ある人達の事です」
『その口調だと【組織】のようですね。通称で……ッ!
もしや、その組織の正式名称は…』
電話の向こう側にいるゼクシオンの声に、分かりやすく動揺が出た。
「その様子だと知っているんですね…【幻影旅団】の事を」
「「な、なんだって(なんじゃと)!!?」」
向日葵がその名を口にした瞬間、切原と仁王が一斉に仰天の声を上げた。
「なんなん? 【幻影旅団】って?」
疑問符を背景にたくさん並べて、首を傾げるヴィンセント。
唯一、彼だけが訳分からんと言う表情を浮かべて、騒ぐ周囲の中で取り残されている状況だった。
【観察する尾行者と、協力者への相談】
三時間前、貸本屋【双月文庫】の門を李 小鈴は潜っていた。
「いらっしゃいませ」
カランカラーンと音を立てて、店の扉が開かれる。
ハルはいつも通り挨拶をして対応する。
「こんにちは」
挨拶を返すと、小鈴はそのまま二階の階段を上がっていった。
(あの子は、今日も【宝探し】をする気かな…)
小鈴が他の常連客に不自然に思われないように、店の中を探索している事は分かっている。
彼女が求めているモノが…この店に隠れているからだ。
(他の顧客に迷惑をかけていないし、店内の書物も大事に扱っているから…
“今のところは”問題ない)
小鈴は、きちんと店の規則を守っている。
【使命】を大義名分にして、他者への迷惑を顧みずにやりたい放題する勘違いしたタイプの人物ではない。
だから、ハルも少女の行動を黙認している。
(問題があるとすれば…)
ハルの視線が窓の方に向かう。
姿形は全く見えないが、ハルはある【気配】を感知していた。
その主は、気配すらも自然の中に同化させるように消している。
気配感知に優れている人物でも、注意深く研ぎ澄まなくては分からないレベルだ。
その主が、屋敷の庭に潜むようになったのは少し前から。
…【表玄関】から、訳ありな複数の客達が訪れて以降である。
(そして、その人物がやってくるのは必ず…
…【あの子】が来ている時)
気配の主が狙っている人物は…李 小鈴。
小鈴がこの事に気付いているのかは不明だが、現段階で彼女は害されていないようだ。
(けれど、相手がいつ行動を移すか分からない)
潜む人物の性格がどうであれ、何か仕掛けてくるはずである。
小鈴は動機はどうであれ、【双月文庫】の固定客になりうる人物。
大切な顧客を失う事態は、ハルとしても避けたい事だ。
「ウィズ、いるかい?」
『マスター、よんだ?』
ハルの呼びかけに、近くにいたイーブイのウィズがやってきた。
「‟コレ”を持っていってくれるかな」
『はーい』
小さなメモ二枚を近づけると、ウィズは口にそれを銜えてすぐに駆けていった。
(あとは…時が来るのを待つだけ)
置き時計の事件を確認すると、ハルは再び視線を読んでいた書物に戻した。
それから、二時間後…ハルの予測通りに物語が大きく動き出す事となる。
【つづく】
・
