第3章【3】観察する尾行者と、協力者への相談


「さっき、尾行されとったんや」



向日葵の家に着き、部屋でプリンをご馳走になっている最中、

ヴィンセントがその事実を告白した。



「び、尾行!?」

「しっ、声がでかいナリ」



プリンを三口目に突入していた切原は、物騒な単語に思わずビックリしたような声を上げる。

すかさず、仁王は彼の頭に平手チョップして黙らせた。



「ヴィンちゃん…それいつから?」

「学校を出てすぐや。どっからか異質な気配が目立たんようについてきとった」


「俺は歩道橋付近の道にいた時じゃ。

なんとなく誰かに見られとるような…不気味な感じがした」



先程、仁王とヴィンセントがやたらと移動を促していた理由に、向日葵は背筋に悪寒が走った。



「【そいつら】が途中で追うのを止めたんが幸いやった。

ここら辺にはおらんから、安心してええで」


「複数いたの!?」

「マジか…人数までは分からんかった」



ヴィンセントの言葉に、切原はさらに驚愕し、仁王はまだまだ修行が必要だと感じたのか顔を顰める。



「一体、誰が…?」



口元を右手で覆いながら、向日葵はその犯人達について考える。

彼女の頭の中に、いくつかの犯人像が浮かび上がる。



①仁王や切原、テニス部のメンバーを慕うファンの子達。


②向日葵や桜、小鈴以外に【クロウカード】を手に入れようとしている人物。


そして、③は―――



「エクレシアを狙っている【誰か】」

「今のところ、それがいっちゃん可能性あるな」

「同感じゃ」

「同じく」



その場にいる全員の意見が一致した。

…エクレシアや異世界渡航者絡みの事件が立て続けに発生している事もあり、

今回もその可能性が高そうだ。



「ヴィンセント的に、尾行してた奴らはどんなタイプだと思う?」

「ハッキリ言うと…『今のワイらでは太刀打ちできん』」

「「「!?」」」


「正直な、ワイもビビっとる。

なんであんなおっかへんオーラを漂わせるもんが、この町におるんかって…」



額から冷や汗を流し、ヴィンセントはいつになく真面目な口調で語る。



「ヴィンセントが言うなら、かなりやばいんだな…」


「どのくらいやばいのかな…? あっ、そうだ!

ヴィンちゃん、私達とその犯人の人達を漫画のキャラに置き換えると、どんな感じになるの?」


「そやな……分かりやすう言うたら、【ワンピース】で東の海にいた頃のナミと、

海軍の赤犬ぐらいの差やろか」



ヴィンセントがそう伝えるや、三人の脳裏にそのイメージが浮かび上がる。



「そ、そんなに…」

「やばいやばいやばい、やばすぎ!」

「…あかん。どう考えても絶望的な差がありすぎじゃろ」



向日葵はその歴然たる差に動揺する。

切原は顔を青ざめて首を左右に振り、仁王は頭を両手で抱えてうーんと唸る。



「んー……」

「ヴィンちゃん、どうしたの?」



宙に浮いて、腕を組んで考え事をしているヴィンセント。

…何か引っかかる事でもあるのだろうか?



「いやな…尾行しとった連中のオーラ、どっかで感じた事がある気がして」

「ええっ!?」


「もしかして、因縁の相手とか闇落ちした元知り合いとか?」

「そういう分かりやすいヤツやったら、すぐ思い出すさかい」



切原の仮説に、ヴィンセントはちゃうちゃうと手を左右に振る。



「いつ頃か分かるんか?」

「そんなめっちゃ昔やない。そう、ごく最近…」



仁王の問いかけに、ヴィンセントが眉を顰めて答えている最中…

ハッとして向日葵の方へ目を向ける。



「そうや…あそこにおった」

「あそこって…?」

「この間、行ったやろ! あの貸本屋…【双月文庫】でや!」



ヴィンセントが強い口調で言った事に、向日葵はあっ…と目を大きく見開いた。



「その店って…柳生先輩のおすすめの?」



切原の言葉に、向日葵はこくりと頷く。



「そもそも…あの店自体、けったいなもんが満載やった」

「ヴィンちゃん、どういう事?」



ヴィンセントの意味深げな発言に、向日葵は不思議そうに聞き返す。



「ヴィンセント、話すべきじゃろ」

「仁王兄ちゃん…」



ヴィンセントが言うべきか否か、暫しの間逡巡していると…仁王が話すように勧めた。



「その店の事で…俺も話がある。

幸村達から、『ナイスなタイミングで、向日葵や赤也、ヴィンセントにも伝えておけ』って

頼まれたからのぅ」


「先輩達が…ですか?」


「おん。今がまさにその【タイミング】じゃ。

ヴィンセントも…これを逃すとズルズルと後回しになるぜよ」


「…そうやな。分かった」



仁王の説得により、ヴィンセントは包み隠さずに話す決意をした。

そして…彼等は交互に語り始めた。







「まさか、そんな事が起きていたなんて…」



…テニス部のメンバーが遭遇した奇妙な現象。

…万人とは異なる力を持つ複数の常連客。


あの店の知らない事実が明かされ、向日葵は驚きを隠せない。



「あのさ…その店にいた能力者って、どんだけ凄かったんだ?」

「全員感知した訳やないけど、相当な手練れは数名ほどおった」

「犯人達もその中に含まれてたと…」



その通りやと、ヴィンセントは頷きながら言葉を続ける。



「尾行の連中がどんな経緯で、ワイらに目をつけたんかはまだ分からん。

ただ…今回の件、ワイらだけでは対処しきれんのも事実や」


「難しい問題じゃ」

「誰か相談できる人がいればいいのに…」

「相談できる……あっ!」



向日葵は思い出したように、机の上から二番目の引き出しを開けた。

取り出したのは…【名刺】



「向日葵、それって…」

「前の事件の後、13機関のゼクシオンさんから頂いた物です」

「おぉー、そうやった!」



ヴィンセントがぽんっと拳で掌を叩く。

向日葵はにこっと笑みを浮かべると、早速電話の受話器をとって、ボタンを押し始めた。



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