【14】旅行の『真の目的』
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「…な、なんでしょうか?」
「すまないが…あまり噂話に気を取られないでくれ」
余所見をするな、という意味だろうか。
気分を害してしまったのかな、と謝ろうとすると…フィンが肩に手を優しく置いて被りを振る。
「謝らなくていいですよ」
「えっ、でも…」
「リゾットさんは気を遣ったんですよ…私に」
フィンが小声で理由を語ると、名前は彼女と前方にいるリゾットと交互に見る。
「理由はまた落ち着いたら言います」
つまり、まだ話せる段階ではないのか。
一ヵ月ほど一緒に暮らしているが、フィンにはまだまだ謎が多そうだ。
しかし、ほんの少しだけ分かった事がある。
…リゾットは、フィンの事を大切に思っている。
「着いたぞ」
数分後、目的地のホテルへ到着した。
和風のモダンな雰囲気の清潔感のある建物だ。
「いらっしゃいませ」
中に入ると、女将らしき人が丁寧にお辞儀をして出迎えてくれた。
「失礼。同僚が先にこちらに来ているのですが…」
名前はあっ…と目を瞬きさせる。
リゾットが流暢な日本語で、フロントの従業員と話している事に驚いたのだ。
あちらの世界の彼は、同じ日本旅行時に、名前の能力を使う前までは全く喋れなかった。
「日本語上手ですね…」
「以前、日本に訪れた際に誰かから教わったようですよ」
「へぇー…」
教わった…日本に誰か親しい知人でもいるのか?
その時、名前は日本で会ったある人物の事を思い出した。
『ボンジョルノ! 本日のアナタの健康をカクニンさせてくださーい!』
杜王町で、イタリアンレストランを経営しているシェフ…トニオさんが頭をよぎった。
「…ちなみに、どなたか分かります?」
「さぁ…? 私にもさっぱり」
真相は本人しか知らないようだ。
しかし、名前はすぐに考えを改めた。
日本にはトニオさん以外にもイタリア人がいるだろうし、仮に杜王町に仕事で訪れていたとしても、そんな都合よく仲良くなるなんて…あり得なさそうだ。
「まさか、ね」
「?」
クスッと笑って首を緩慢に振る名前に、フィンは小首を傾げる。
『やぁ、君。そのブルネットの髪と瞳、綺麗だね。この後どう? 一緒に飲みに行かないか?』
すると、二人の耳元に誰かがイタリア語で話す声が聴こえた。
その声の主は、フロントから少し離れた通路付近にいた…
金髪で、少し派手な色のスーツを着ている美青年だ。
「あ、…アイキャント…スピーク、イングリッシュ?」
「『あ、ごめん…イタリア語分かんないか、えっと…』オネエサン、ぼくとデートしよー!」
「…申し訳ございません。お客様。私仕事がありますので」
「『しごと…? …【Lavoro】の意味か?』ジャアおしごと、アトデいっしょにアソボー!」
「あ、あの…困ります…」
従業員の女性の手を握って口説いているイタリア人…フィンも名前も、彼の事をよーく知っている。
この世界でも彼は同じなんだなーと名前はしみじみと見つめてしまう。
「メローネさんも来てたんだ…」
フィンは、日本人女性をナンパしているメローネに苦笑いしている。
どうやら、彼女もメローネの癖のある性格に振り回されているみたいだ。
それにしても…メローネも日本語を少し嗜んでいるようだ。
片言で、ところどころ使い方が違ってる言葉はあるものの、文法は間違っていない。
―――ドガッ!
彼も、誰かから教わったのだろうか…と色々と思案していると、豪快な打撃音が響く。
「このボケェがぁああ! コーヒー買いに行くのにどんだけ時間かかってんだッ!」
メローネの頭をギアッチョの蹴りが、華麗にクリーンヒットした瞬間だった。
メローネは一直線に吹き飛ばされ、壁に激突した。
「はわわっ…」
「ナイス・キックですね…ギアッチョさん」
眼前で起きた出来事に、名前は仰天の声を漏らし、フィンは素直に感心した様子でギアッチョの蹴りの決め具合の感想を呟く。
壁に激突してずる~と地べたと口付けする事になったメローネ。女性従業員が叫び声をあげて、辺りが騒然となるが、途中で赤毛の丸刈りの男性がやってきて事情説明しだした。
「やー、すみませんすみません。
こいつらは、新入りの芸人で多少過激なノリツッコみがウリなんですよー」
「…あっ!」
「ホルマジオさん、グッドなタイミング」
ホルマジオも参上するとは…
ぞくぞくとこちらの世界の暗殺チームに会えている事に、名前は気持ちが高揚する。
ホルマジオが愛想よく笑って誤魔化す中、一部始終を見ていたリゾットがハァ…と呆れた溜息を漏らして、支配人に謝罪している姿が見えた。
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