【12】心の扉を開けよう
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名前はふっ…と意識が覚醒した。
ソラのお昼寝に付き合って、そのまま寝てしまったようだ。
窓を見ると、空が宵闇に覆われていた。
…思った以上に熟睡してしまったようだ。
(夕食の手伝いしないと…)
起き上がって、パタパタと足早にキッチンへ向かう。
すると、フィンが既に準備をしていた。
何かを茹でている様で、鍋から湯気が出ている。
「あ、おはようございます」
「すみません…眠っちゃって」
「いいんですよ。ゆっくりしてて」
フィンは笑ってそう言うと、テーブルの席に座るように勧める。
申し訳ないと思いつつ、名前は言われた通りに席に座った。
「はい。出来上がりました」
トレイで運んできたのは、鍋焼きうどんだ。
ネギ、鶏肉、エノキダケ、えび、かまぼこ、中央に艶のある黄身色の半熟卵がとても美味しそうに存在を主張している。
「わぁ…!」
「どうぞ召し上がれ」
両手を合わせて「いただきます」と言うと、レンゲスプーンを手に取ってまずは出汁を一口。
「あー…出汁が舌に染み渡る~」
鰹節、薄口醤油の味がベースだが、具の肉と野菜のダシも混ざってコクのある味に仕上げている。
次にお箸を使って、うどんの麺を啜る。
「コシがあっておいしいー」
「よかった。お口にあったようで」
フィンもまた、自分用の鍋焼きうどんをテーブルに置くと食べ始める。
「名前さんは、出身地は日本ですよね。日本の《三大うどん》って知ってます?」
「あっ、聞いた事あります。確か…香川と秋田…と群馬県でしたっけ?」
箸を一旦止めて、名前は故郷にいた頃、テレビで流れていた記憶にある情報を口にする。
「はい、それぞれ『讃岐うどん』『稲庭うどん』『水沢うどん』で有名です。
私が今日作ったのは『讃岐うどん』風にしてみました」
「凄い…フィンさんって日本の食にも詳しいんですね」
あの世界にいた頃は、和食はあんまり食べていなかった。
杜王町で露伴の手伝いをしていた頃はそれなりに作っていたものの、DIOやジョースター家、暗殺チームとの生活が長かった事から、洋食かイタリア料理が中心だった。
久しぶりに、出身国の料理を味わうと…懐かしさをともに、美味しさを倍に感じる。
「幼い頃から、幼馴染のお母さんが面倒見てくれる事が多かったんです。
料理がとても上手で…その人から日本の料理の事を教わったんです」
「そうなんですか…」
話を聴いていて、名前は思い出した。
まだ母が健在だった頃、しょっちゅう作ってくれた料理やその味。
もう食べられないけれども、あの味は忘れる事なく、舌が覚えている。
「…料理は、その人にとって思い出のアルバムみたいですね…」
両親が亡くなった当時は、考える余裕すらなかった。
けれども…今なら分かる気がする。
あの人達は、自分にかけがえのないものを残してくれていたんだな、と。
「私は、名前さんが作る料理が好きですよ」
「あ、ありがとう…でもそれはスタンドも加わってるから…」
名前は、フィンとソラには自らのスタンドの事も既に教えている。
自らの傍らにいる、虹色の唇をした女性型のスタンド。
能力は別のスタンドの“コピー”
今日、ソルベとジェラードが絶賛する料理を作れたのも、トニオ・トラサルディーという料理人のスタンド『パール・ジャム』をコピーしていて、それのおかげである。
「確かに、“虹さん”のスタンド能力の効果もあるけど…それだけじゃない。
料理は、技術や経験も大事です、でも…もっと大切なものが必要なんです。
名前さんの料理が美味しいのは、貴女の“心”が映し出されているから。
貴女の人を思いやる気持ちが、最高の隠し味になってるんですよ」
フィンが優しく微笑んでそう断言した。
名前の頬は徐々に赤みを帯びていく。
うどんを食べたのもあるが、フィンが紡いだその言葉が彼女の胸中をさらに温かくさせていったからだ。
「そ、そんな事言われるの…初めて」
「お世辞じゃないですよ」
名前は実感した。
フィンは、異性だけでなく同性さえも惹きつけてしまう…そういう魅力がある事を。
(もしも、私が男の人だったら…まずかったかも)
同性だからこそ友達で踏み止まれるが、自分が異性だったら、確実に恋の蕾は開花してしまいそうだ。
「どうしました?」
「あっ、いいえ…なんでもないです!」
不思議がるフィンに、名前は首を慌てて左右に振って誤魔化した。
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