【5】転生少女は、祖父の家でイベントに遭遇する
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ふぅ…涼しい」
夕食後、食器の片づけを手伝ってから、舞香はお風呂で一日の疲れを癒した。
現在、半袖Tシャツとショートパンツのパジャマを着て、エアコンが効いている二階の部屋で寛いでいる。
此処は、優月が子ども時代に使用していた場所で、彼女の私物もいくつか残っている。
そのひとつであるベッドに腰かけながら、舞香は今日の事を振り返る。
(悟さん、まだお祖父ちゃんと話しているのかしら…)
悟は最初に入浴した後、「祖父と話がしたい」と言って書斎に行った。
(…家の事とか、これからの事かな)
五条家の騒動が片付くまでの間、悟は身分を隠して本宮の本家に滞在する予定だ。
学校の方には事情を説明しており、暫くの間は【自宅学習】という形をとる事になっている。
(つらいだろうな…悟さんも)
話を聞く限りでは、悟は両親との仲は悪くないようだ。
血の繋がった親の事を大切に思っている悟の気持ちが、言葉の節々から伝わってきた。
大人びた言動と思考をするが、悟はまだ8歳の子どもだ。
親元から離れて暮らすのは、相当ストレスがかかっている事だろう。
(早く騒動が収まって、悟さんがご両親の元に帰れますように…)
心の中でそのように祈っていると…
ガサッ…
庭の方で音が聞こえてきた。
天気予報で、今夜は雨が降ると言っていた。
風でも吹いているのだろうか、と何となくカーテンを開けてみると…
「はわっ…!」
舞香は目を大きく見開いて、驚きの声をあげてしまった。
何故なら…窓の向こう側のベランダに、背の高い男性がいたからだ。
なおかつ、その男性は全身が血塗れであり、明らかに大事件の匂いが漂っていた。
ギンッと鋭い目で睨みつけられ、舞香は金縛りにあったかのように硬直してしまう。
(この感覚…久しぶり)
舞香は前世の事を思い出す。
まだ戦闘経験が浅い頃に、自分よりも遥かにレベルが上の魔物や戦士と遭遇した事があった。
…その時の感覚に似ている。
つまり、窓の向こう側にいる人物はかなりの強者という事だ。
コンッ…コンッ…
すると、血塗れの不審者が窓をノックしてきた
舞香はごくっと喉を鳴らす。
安易に、窓を開けてしまうのは論外だ。
開けた瞬間に、首が吹き飛んでもおかしくないくらいのリスクがある。
しかし、この状況で助けを呼びに行くにしても…不審者が窓を叩き割って阻止してくる可能性がある。
コンッ…ゴンッ…
またしても、不審者がノックしてきた。
同時に、口元を動かして…
『あ』『け』『ろ』
「ひぇっ…」
窓を開けるように要求してきた。
思わず、口からか細い悲鳴が出てしまう。
舞香は一歩ずつ後退りしていく。
この状況を上手く切り抜けるためには…と頭を必死に動かしていたその時、男性が苦しそうに腹部を手で押さえながら片膝をついた。
もしや、怪我をしていてそれが悪化したのか…?
いや、こちらを油断させるための演技かもしれない。
(そうだ…!)
舞香は唇を動かして、唄を奏でていく。
『これは夢路へ誘う旋律。
彼の者を苦しみから解放し、安穏の園へ誘いたまえ。
―――【ソーン・リフォーメイション】』
これは対象者を眠らせるための魔法で、同時に傷病を癒す効果もある。
前世では、痛みに苦しむ負傷者を回復させる時によく使っていた。
窓越しの不審者にも効果覿面だったようで…緊張が解けたかのように、だらりと横になってしまった。
舞香はそぉーと窓を開けると、不審者の男性の様子を確認する。
腕を軽く擦ってみても、起きる気配がない。
「よーしよし」と小さくガッツポーズしつつ、男性の全身を診ていく。
ところどころに打撲痕や小さな切り傷があるが、徐々に目立たなくなっていく。
案の定…腹部が重傷であった。魔法の効果でじわじわと傷は浅くなっているが、視界に入れるだけでもまだ痛々しいと感じてしまうレベルである。
(念のために、別の術もかけておこう…)
傷が化膿しないように、状態異常を解く魔法をかけておいた。
その時、部屋の扉をドンドンッと叩く音が響いてきた。
『舞香! 舞香!!』
悟が慌てたように大声で名前を呼んでいる。
…侵入者の事に気付いて駆けつけてきてくれたのだろうか。
(でも、ちょうどよかった…)
舞香は扉を開けるために、立ち上がった。
この時、不審者の治療を施していたため、舞香のパジャマには血がべっとりと付着してしまった。
扉を開けるや、舞香の服が鮮血に染まっているのを目にして、悟が血相を変えて彼女に詰め寄ってしまうのは…数秒後の話。
それから、祖父を呼び出して、倒れている男性を向かい側にある客室まで運んでもらった。
慶一はすぐに携帯で連絡を取り、暫くして医師がやってきた。
「…派手に出血しているのに、負傷している箇所全てが軽傷だ」
不思議すぎる…と首を捻る眼鏡をかけた医師に、舞香は微苦笑してしまう。
(すみません。幸治叔父さん…先に処置してしまいました)
医師の名前は「本宮幸治」
慶一の三番目の息子であり、舞香の叔父でもある。
普段は、新宿にある総合病院に勤めており、仕事帰りの時に連絡が来てこちらまで直行してくれた。
「すまないね、疲れて帰っている最中に…」
「別に構わないよ、明日は非番だから。
それよりも空腹なのが問題だ。
父さん、冷蔵庫に冷や飯あるかい?」
茶漬けを作って食べたい…という息子からの要望に、慶一は「私が作るよ」と笑って言った。
祖父と叔父のやり取りを見ていた舞香は、手当てを受けて布団に横たわっている男性に視線を移す。
(ぐっすり寝てる…)
すぅすぅと寝息を立てる男性は…意外と若かった。
年齢は10代後半~20代前半。
サラサラした黒髪に、整った顔立ちで…右側の口元に傷があるのが特徴だ。
巻かれている包帯の上からでも分かる鍛え抜かれた肉体を見て、舞香は改めて思った。
…この男性を眠らせておいてよかった。
正直、今の舞香のレベルでは太刀打ちできない。
真っ向勝負したら、彼に敗北するのが一目瞭然である。
それにしても…
(この人が怪我をしていた理由は…何かしら)
状況的に、男性は祖父の家に忍び込んだというよりも、身体を休める場所を探していたのでは…と推測する。
此処に来る前に、男性は『何か』していた。
公にはできない、裏の稼業をしていたのではないだろうか。
(起きたら、話してくれるかな…)
意識を失う直前の男性の表情が、頭を過ぎる。
まるで、深淵の中で足掻いていて…遠くにある光へ必死に手を伸ばそうとしていた。
(…貴方は独りじゃないよ)
舞香は自ずと男性の頭を撫でていた。
よしよし…と泣いている子どもを慰めるように。
「…悟さん?」
いつの間にか、撫でていた舞香の手を悟が掴んでおり、青年から引き剥がすように移動させていく。
「やめろ」
やや不機嫌そうに注意を促す悟に、舞香ははてな…と小首を傾げる。
「こいつは侵入者なんだ。
迂闊に近づいて、目を覚ましたら…何されるか分からないぞ」
「…そうですね。すみません」
確かにその通りだ。
舞香が素直に謝ると、悟は「分かってくれたらいい」と素っ気なく返した。
「舞ちゃん、悟君…もう遅いから寝なさい」
すると、祖父が二人に寝るように言った。
時計を見ると、午前1時を数分過ぎていた。
「はい、おやすみなさい」
「…おやすみなさい」
夜更かしはさすがにまずい。
二人は就寝の挨拶をすると、客室から出て行った。
・
