【5】転生少女は、祖父の家でイベントに遭遇する
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「はじめまして…うん?」
まずは、挨拶しよう。
舞香が改めて少年に視線を向けたその時、ある違和感を覚えた。
少年の容姿は、髪色と瞳の色は典型的な日本人特有の黒色。
陽に焼けた健康的な色の肌で、両側の頬に雀斑が少々ある平凡な顔立ちである。
舞香はこの少年と会ったのは、今日が初めてのはずだが…
「…なんですか?」
その子が訝しそうに言葉を発した。
彼の声を聞いて、舞香はうーんと糸目になり、少し思案すると少年に対して質問を投げかけた。
「つかぬ事をお伺いしますが、どこかでお会いした事ありませんか?」
「えっ…」
舞香からの唐突な質問に、少年は目を瞬きさせた。
「おや、この子と面識があるのかい?」
慶一が面白そうに聞き返すと、舞香は視線を上げてこう続けた。
「まだ断定できないので、質問しました。
もう一度言います。
どこかで会った事ありませんか?」
「………………」
少年はごくっと喉を鳴らして、緊張した面持ちで黙ったままだ。
彼の様子を見た舞香は、触れてはいけない話題なのだと察した。
「…私の勘違いのようですね。
気を悪くしてしまったなら、すみませんでした」
「…いや、その…全然平気だから…」
少年は不快に思ってはいないようだ。
ただ、挙動不審になっている様子を見ると怖がらせてしまったかな…と舞香は少々反省した。
「二人とも、此処だとゆっくりできないから上がりなさい」
すると、祖父が舞香と少年に居間に行くように勧めた。
「はい、分かりました」
「えっ、いいの…いや、いいんですか…?」
了承の返事をする舞香とは対照的に、少年は困惑している。
「ちょうど、自信作のカレーライスができたところだから、君にも食べてもらいたいな。
折角だから、今日は此処で泊まっていきなさい」
「…は、はい!!」
慶一の言葉に、少年は目を輝かせて大きく返事する。
どうやら、彼はカレーライスがかなり好きらしい。
居間に案内しようとしたら、少年が「すみません、お手洗いはどこに…」とトイレの場所を聞いてきた。
「トイレはあちらですよ」
「…ありがとう」
少年がトイレへ向かった…そのタイミングを見計らったように、祖父がそっと舞香に小声で告げた。
「舞ちゃん、謎解きの答えは後で披露するよ」
「…ほわい?」
「I'm the type of person who likes to keep fun things for later. Because that is more interesting.
楽しみは後にとっておいた方がいい。その方が面白いからね」
祖父は唇に人差し指を添えて、その理由を流暢な英語と日本語の翻訳付きで答えてくれた。
そうなると…少年は正体を明かしても、問題ないという事になる。
(…私の予想が正しければ、『あの人』だと思う)
実は、舞香は少年がある人物ではないかと思っている。
果たして、真相はいかに…と思いつつも、カレーライス用のお皿を戸棚から取り出していった。
「…うまい」
カレーライスを一口食べた少年は、その感想を口にした。
(お口に合ったみたい…)
それから、無言でスプーンを動かして味わっていく彼の様子を見て、舞香はふふっと嬉しそうに笑みを零すと、
自らもスプーンでルーとライスを掬って、ゆっくりと食べていく。
牛肉の角切りはほろりと柔らかく、玉葱は甘くて、ジャガイモのほくほくした触感がいい。
隠し味にココアを入れている事で、コクが増して美味しさをアップさせている。
「おいしい…」
顔を緩ませていると、隣に座る少年がちらちらとこちらを横目で見てきた。
「サラダはどうですか?」
「…うん、いいと思う」
「キノコとトマトのマリネのサラダ、私も好きなんです。
時々、家でも作ってるんですよ」
「料理、するの?」
「はい。ちょっとずつ覚えているところです」
前世では、料理は食べるのも作るのも大好きだった。
今世では一年前から、母や祖父母から教えてもらっている。
油を使用する料理は危ないので止められているが、簡単なものは定期的に作っている。
「…食べてみたい」
「私の料理を、ですか?」
舞香が聞き返すと、少年は大きく何度も頷く。
「そういえば、君はまだ自己紹介をしていなかったね」
すると、慶一が会話に参加してきた。
彼の言葉に、少年は持っていたスプーンを危うく落としそうになった。
「舞ちゃんに、名前を言ってくれるかな」
まるで、このタイミングを見計らっていたかのように…
微笑みながら、慶一は少年に名前を公開するように勧める。
「えと…名前は…」
少年は、何故か身元を明かす事を躊躇っている。
「大丈夫、此処には私達以外は誰もいない。
だから、君の【本当の姿】を見せても構わないよ」
その言葉に、少年は半目で慶一を見つめる。
「怪しい…」と半信半疑のようだ。
「あの…私、誰にも言いません」
舞香も祖父のフォローをするように、この場で起きた事は内密にすると言った。
「…貴方の事を教えてくれませんか?」
どうしても本人が嫌がるなら、無理に身元を明かさなくていい。
そのように伝えると、少年ははぁ…と大きく息を吐くと、慶一に真っ直ぐ視線を向けた。
「縛りを交わしても大丈夫ですか?」
「もちろん」
祖父の言質を取った事に満足したのか、「それじゃあ、後で…」と少年は口元に綺麗な弧を描く。
彼は椅子から立ち上がると、舞香に視線を向けてこう言った。
「この姿、ずっと解きたかったんだ」
そう告げると、かけていた眼鏡を外した。
次の瞬間、黒髪が徐々に雪原のような白髪へ、瞳も青空を連想させる碧色へと変化していく。
顔立ちも…魔法が解けるかのように瞬時に別人になっていた。
(やっぱり…【あの人】だった)
予想が的中して、舞香はふふっと笑う。
…そこには、舞香のよく知る人物が立っていたのだ。
「悟さん、お久しぶりです」
「うん! 久しぶり、舞香」
微笑みながら挨拶する舞香に、悟も嬉しそうに笑った。
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