【5】転生少女は、祖父の家でイベントに遭遇する
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舞香は、週に一回の稽古事のためにある場所を訪れていた。
「舞香さん、そこはこう手を伸ばすように」
「はい!」
…本宮の本家である。
舞香の祖母である本宮渚は、舞踊の先生である。
普段は別の場所で教室を開いているが、土曜日は本宮家の親族限定で本家の練習場で特別レッスンをしている。
「扇子の構え方はこうです!」
「…はい!」
祖母の教え方は厳しい。
ひとつでも間違うと、ぴしゃっと訂正の声がかかったり、扇子で額をぺちっと叩かれる。
親族で舞踊を習っているのは、本家の従姉と舞香の二人。
さらに、従姉は今年から受験生であるため、今は舞香一人だけである。
この特別レッスンを受けるようになったのは、5歳の頃から。
最初はついていくだけで精一杯だったが…
「そう、水面に映る月のように美しく…」
今では、渚が言う抽象的な言葉の意味を考えながらも、舞を踊れるようになった。
練習は大変であるが、嫌いではない。
むしろ…
(もっと…もっと…いけるかも!)
舞うのは、楽しくて大好きだ。
前世でも、母から舞を教わっていた。
前世の母が自己流で開発したとされる舞は、本宮に伝わる舞とどこか似通っている。
そのため、舞香はこの週一の特別レッスンの日がいつも待ち遠しいのだ。
「本日の練習はここまでです」
「先生、ありがとうございました」
一時間後、稽古事の終了の時間となった。
挨拶をして、帰りの支度をしていると…渚が声をかけた。
「"舞ちゃん”、居間に行きましょうか」
「はい、お祖母ちゃん」
祖母の口調が柔らかくなる。
稽古や特別な行事以外は、祖母はこんな感じでオンとオフの切り替えがハッキリしている。
程よく厳しくて、程よく優しい。
祖母の後についていく形で、長い廊下を歩いて行く。
途中で、本宮家に仕える女中や従者、お手伝いの少年・少女と出会う。
全員顔見知りで、真面目な人や優しい人、面白い人など個性豊かな方々が勢揃いである。
子ども達とは時間があれば、他愛もない話をしたり、遊んだりする友達関係だ。
ふと視線を庭に向けると、箒を持って掃除している見かけない眼鏡をかけた少年がいた。
(…新しく入ってきたお手伝いの子かな)
…舞香は知らない。
その少年の目が見逃すまいと、舞香の姿をじっと追い続けていた事を…。
居間で日本茶を飲み、用意してくれた練りきりを味わう。
…練習の後のお茶の時間は格別なものだ。
日本茶を飲みながら、舞香はふと夏休み中の事を振り返る。
(色んな事があったな…)
…叔母の優月と特級呪霊の花御の秘密の恋物語。
…悟の抱えている悩みと、願い求めているもの。
…異世界の女神 レナス・ヴァルキュリアとの邂逅。
約一ヵ月の休みの間に、ホラーや恋愛、青春、ファンタジーを組み合わせた出来事が立て続けに発生した。
なかなか忘れられない思い出となってしまった。
そんな夏休みを経て、変化した事もある。
舞香は、悟の事を名字から名前で呼ぶようになった。
東京へ帰宅する際に、初めて「悟さん」と言った時、悟は頬を少し赤らめて興奮していた。
「もう一回言って!」と何度も名前をリピートしてもらいたいと懇願してきた。
友達から名前を呼ばれるという経験が初めてだから、嬉しかったんだなぁ…
舞香は微笑ましくそう思ってしまった。
対して、様子を見ていた向かい側に座る兄の和広の顔色がすぐれなかったのは…何故だろう?
…乗り物酔いをしていたのかもしれない。
それ以来、学校帰りに駄菓子屋に寄ったり、公園や川沿いで遊んだりと…二人で楽しい時間を過ごすようになった。ただ…ニ週間前から、悟は学校を休んでいるので会えていない。
【片づけないといけない事】があるので、「暫くは遊べない」と悟が申し訳なさそうに言っていた。
(悟さん、無理していないといいけれど…)
おそらく、五条家内で揉め事が起きているのだろう。
穏便に済ませられない騒動の可能性が高い。
…悟や現当主夫婦が無事でありますように、と舞香は心の中で願った。
「舞ちゃん、今日は慶一さんの家に行きますね?」
「はい、お泊りする予定です」
「それなら、こちらを持っていってくださる?
慶一さん宛のお手紙なの…よろしくね」
「慶一さん」とは、渚の夫であり、舞香の祖父でもある…現在の本宮家の当主だ。
舞香は本家で特別レッスンを受ける日は、必ず祖父のいる別宅に宿泊する。
「分かりました」と舞香は快く祖母からの依頼を承諾した。
手紙を受け取ると、持参した鞄の中に入れる。
「それでは、行って参ります」
「いってらっしゃいませ。来週もお待ちしていますよ」
祖母に挨拶をすると、舞香は屋敷の裏口から外へ出た。
表の玄関から行かない理由は、防犯上の問題から。
裏口の小さな扉をそっと開けて、周りに視線を配る。
「うん、OK!」
不審人物がいない事を確認すると、舞香は駆けていく。
古びた木製の住居や樹々等の自然が共存している道。
歴史の本で読んだ事のある昭和の時代の雰囲気が漂っており、どこか不思議で懐かしい気分になる。
祖父の家まで、多少距離がある。
そこに至る道のりはとても複雑であり、初めて此処を通る人は道に迷ってしまうだろう。
「いい天気…ニュースの天気予報士さん、絶好調ね」
舞香は、そんな迷路のような道のりをアスレチック感覚で走って行く。
「にゃー」
「ごきげんよう、猫さん」
道端でまったりしているぽっちゃり系の猫に、舞香は挨拶する。
毎回、此処を通る少女に猫も見慣れているのか、かろやかに鳴き声をあげる。
舞香が通り過ぎて行くのを見届けると、猫は欠伸をしてそのまま瞼を閉じた。
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