【4】転生少女は、お出かけする(後半)
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教会内は厳粛な雰囲気を醸し出していた。
真ん中に白いカーペットが敷かれており、右左には木製の長椅子がズラリと並んでいる。
窓は綺麗なステンドグラスが使用されており、場所ごとに以下の10つの模様が描かれていた。
【七芒星】
【桜の花弁】
【右上向きの三日月】
【左上向きの三日月】
【五芒星】
【三つ巴紋】
【木の葉】
【羽根】
【メビウスの輪】
【ハート】
(それぞれの模様には…どんな意味があるのかしら)
ステンドグラスの模様は一見すると、共通点が見られない。
しかし、描かれているという事はこの教会で信仰されている宗教に深く関わっているはずだ。
舞香は、見上げていた視線をゆっくりと下へずらしていく。
中央には講壇があり、さらにその後方には武装した女神を模した像が設置されていた。
「あちらは、ヴァルハラ教で信仰されている女神 レナス・ヴァルキュリア様の像です」
司祭の男性…名前は「コラソン」と言うらしい…が、【ヴァルハラ教】について説明してくれた。
ヴァルハラ教とは、この世界の三大宗教の次に名の知られている宗教である。
元々、北欧の国々で信仰されていた宗教だが、日本では第二次世界大戦後に急速に普及したとの事。
此処、ヴァルハラ教の高松支部は半年前にできたばかりで、コラソンは新米の聖職者として二ヶ月前に派遣されてきたそうだ。
「もしよければ、時間のある時にご家族と礼拝に来てください。
来週はチャリティバザーがあるから、お友達も連れてきてくれると嬉しいなぁー…」
「ごめん、おじさん。俺達、旅行で来ているからムリ」
コラソンが教会に興味を持ってもらうためか、行事に参加してみないかと誘ってきたが…
悟が真顔で「来ない」とばっさり断った。
コラソンは外見から20代くらいなのに、「おじさん」と言っている時点で棘のある言い方だ。
「そうか、聞いてくれてありがとう…」
コラソンは笑って御礼を口にした。
ずーんと背景に影が生じているから…内心はがっくりしているのだろう。
「あぁ~…旅行者か…」
「教会に来てくれそうだったのに…」
「先輩は、すっかりご近所の人と仲良くなってるのに…」
「俺も頑張らないとな…うん」
彼が小声の本音をぽつりぽつりと呟いている。
おじさん呼びは、彼は不快に思わなかったようだ。
どちらかと言えば、教会に通ってくれそうな人を見つけたのに…
旅行者だったので、諦めるしかない事が残念だったようだ。
「あの、コラソンさん…お尋ねしてもいいですか?」
不憫に感じてしまったので、コラソンが気分を切り替えられるように、舞香は挙手して質問する事にした。
「ん、なんだい? お嬢さん」
「ステンドグラスにそれぞれ描かれている絵柄は、何か意味があるんですか?」
小学生の少女からの素朴な疑問と受け取ったのだろう。
コラソンは「おお、良い質問だ!」と元気になってくれた…よかった。
コホンと咳をすると、コラソンは口を開いた。
「質問の回答ですが…ステンドグラスに描かれている紋様は、レナス様と協力関係にある…
または、仕えている神族の事を表しています」
「要するに…仲間と部下ってこと?」
悟が眉を顰めて確認するように言うと、コラソンは「その通り!」とリズミカルに答える。
「あの紋様は、それぞれの神族を示す象徴とされており、【エイコーン】と呼ばれています」
コラソンのその言葉を聞いた瞬間、舞香はどくんっと心臓が高鳴った。
解説が進んでいく毎に、聞き覚えのある単語がぽんぽんと出てくる。
…ドキドキと胸の早鐘が止まらない。
(その神族って…まさか…)
「レナス様のもとにいる神族は10名。
彼らには《種族》としての名称もあり、【エクレシア】と呼ばれています」
その単語が聞こえた瞬間、舞香の脳裏にある記憶が蘇る。
*** ***** ***
その日、両親が念願の御店をオープンさせた。
『さて、記念すべきお客様 第一号、二号、三号は…君達だよ。
クロード、リーザ、マリエ』
父はそう言うと、私達を御店の中に案内してくれた。
兄は感慨深そうに、私は目を輝かせながら新しく建てられた貸本屋の内装を見ていた。
妹のマリエは母に抱きかかえられて、「おやつ、まだ~?」とじたばたとしている。
『おめでとう、父さん』
『おめでとう、お母さん』
『とーちゃん、かーちゃん、こんぐらちゅれーしょーん』
『ありがとう。みんな』
『今日はオープン記念だから、家族でお祝いをしましょう』
私達の祝福の言葉に、父は満面の笑みを浮かべ、母もほんの少し涙ぐんで喜んでいる。
…二人の夢がひとつ叶った。
両親が陰で色々と悩んだり、苦労していた事を知っていた私は自分の事のように嬉しく思った。
同様に、私よりも長く両親の様子を傍らで見続けてきた兄も微笑んでいた。
『とーちゃん、あのシルシなーに?』
マリエが貸本屋のシンボルマークが気になったのか、小さな指をさして質問を投げかけた。
父が優しくマリエの頭を撫でて、分かりやすく説明していく。
『あの印…【背中合わせの二つの三日月】はね、母さんの事を表す紋様。
母さんが《エクレシアである》という証であり、【エイコーン】と呼ばれているんだ』
『そーなんだー』
『月はね、神聖なるもの…それに対をなす邪悪なものに例えられる事がある。
相反する二つのものをどちらも受け止め、調和できるようにする。
そんな意味を込めて、母さんの象徴ともいえるエイコーンを御店のシンボルにしたんだよ』
『だから、看板名もその月に因んだ名称にしたのか…』
疑問が解けたという表情の兄に、父はほんのり笑って頷く。
『そう、この御店の名前は―――』
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