【4】転生少女は、お出かけする(後半)
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「くしゅっ…」
「はくしゅっ!!」
美術館で絵画を見ていたら、舞香と優月が同時にくしゃみをした。
悟が「大丈夫?」と尋ねると、舞香は「はい」と小さく頷く。
「誰かが噂でもしてるのかしら…」
優月は妙な胸騒ぎがした。
兄が悟の父親に根負けして、婚約話を了承してしまったとか…
ありえないか、とその可能性は即座に消えた。
(あの兄さんが、そう簡単に我が子の婚約話をOKする訳ないものね…)
兄(舞香の父)は六人兄弟の中で、父親である慶一に一番似ている。
格上相手に交渉事をするにしても、巧みに難題を退けるか、本宮家に不利にならない条件をつけるはずだ。
(悟君は、それでも舞香ちゃんを追い続けると思うけど…)
想い人に嫌な思いをさせない点では、悟の父親よりも比較にならないくらいまともである。
時折、垣間見える舞香への愛情の強さと執着力に不安要素があるが…
「この絵、鉛筆で描いているみたいですよ」
「おぉー…リアルな写真じゃん」
(今は…様観しましょうか)
絵画を見ながら感想を言い合っている子ども達に、優月は穏やかな視線を注ぐ。
良い方向に、二人の絆が深まりますように…と心の中でそっと願った。
「やった、取れた!」
「よかったですね」
美術館鑑賞が終わると、三人は商店街にあるゲームセンターに向かった。
UFOキャッチャーにチャレンジして、3回目にぬいぐるみを取る事ができて、悟ははしゃいでいる。
舞香もやってみて、5回目にぬいぐるみをゲットできた。
「今度は叔母さんの番ですよ」
「ふっふっふっ、任せてちょうだい」
優月がノリノリでUFOキャッチャーを動かしている間、舞香と悟は戦利品であるぬいぐるみを見せ合いっこしていた。
「じゃーん、ゲームキャラの白い猫」
「私はペンギンさんです」
「ゲーセンって面白いのがいっぱいあるな…こういうのやってみたかったんだ」
「初めてなんですか?」
「俺、学校や行事以外で外出するのは制限がかかってるから」
えっ…と舞香は意外そうな顔で、悟に視線を向ける。
「俺の眼の事は…もう知ってるよな?」
首を縦に振ると、悟は軽く息を漏らして話を継続する。
「この眼…【六眼】はさ、よく見えるんだ。
相手が呪力を持っているのか、敵の力の痕とか…そういった細かい情報を教えてくれる」
「すごい…」
「この眼と相伝の術式を両方持つ男子が生まれたのは、五条家では何百年ぶりかでレアなケースなんだ。
一族の連中は、諸手を挙げて大喜びしたって…親父が言ってた」
現在の五条家は、相伝の術式を持つ人は一族の中にはいるが、優秀な実力者は当主を除くとあまりいない。
そんな中、六眼持ちである悟が生まれた事は一族にとっては吉報だった。
幼いながらも、どんどんと実力を伸ばしている悟は将来的に五条家のみならず、呪術界の頂点になれるに違いない。五条家や連なる派閥の面々が期待を寄せるのも無理はなかった。
一方で、悟の存在を快く思わず、脅威とみなす人々もいた。
悟の誕生は、呪術界のパワーバランスを大きく変動させてしまい、その所為で不利益を被った者も少なくなかった。そのため、悟は億単位の懸賞金がかけられて、命を狙われる日々の中を過ごしてきた。
「さっき、叔母さんと話していた人達…五条さんの関係者ですか?」
カフェから美術館、ゲームセンターに行くまでの間、数回こっそりと優月に話しかける男性と女性がいた。
舞香と悟が気にならないように、気配を消してついてきていたので…護衛ではないかと推理していた。
「親父の部下。俺の護衛につくのも、基本的にあの二人」
「そうなんですね…」
「家の行事で、同年代の奴と顔を合わせても、派閥の問題とかで仲良くなれねえし…
近づいてくるのは、五条の地位と権力目当ての連中ばかり。
だから、舞香と優月さんと街中で遊べる事ができて嬉しいんだ。
ずっと、こういうのに…憧れていたから」
そう語る悟の表情は笑顔だ。
その中に寂しさの色がある事を感じとり、舞香は胸が締め付けられる。
(そういう事だったんだ…)
悟は孤独だった。五条家の跡取りとして育てられ、いずれ次世代の呪術界を担う者として否応にも決められた道を歩まなくてはならない。
敵が多く、味方も慎重に見極めないとならない環境。
まだ8歳の少年にとって、それがどれだけ過酷な状況であるのか…
舞香は思い出した。
前世で治癒術師として活動していた頃、悟と同じような境遇だった女の子がいた事を…
その子も、悟と同じく過剰な期待を寄せられて、プレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
その女の子は幸い幼馴染や友達、リーザがフォローしたおかげで道を外さずに済んだが…
(五条さんは…信頼できる友達がほしかったんだ。
家の都合とか関係なく、ありのままの自分を受け入れてくれる存在を望んでいる…)
2年前の茶会で、舞香に声をかけてきたのもおそらくその願望を叶えたかったから。
悟は勇気を振り絞って、友達を作ろうと頑張っていたのだろう…きっと。
「五条さん」
「ん、何?」
「私は…五条さんの事、まだ分からない事がいっぱいあります。
だから、貴方の事をこれから一つずつ知っていきたいです」
色々な柵で雁字搦めになっている目の前の少年に、舞香は手を差し伸べたい…そう思った。
舞香は微笑を浮かべて、こう言葉を紡いだ。
「改めて、お友達になってくれますか?」
この縁が限定的な時間で終わってしまうのか、長く続くものになるのか分からない。
それでも、悟が自らの世界を広げていけるようにその手助けをしてあげたい。
舞香の言葉を聞き、悟は口を開けて固まっていたが、徐々に表情が喜びの色で彩られていった。
「うん…うん、もちろん!
俺も…舞香の事知りたいから教えてくれる?」
「はい、いいですよ」
了承の返事をすると、悟は「やったー!」とガッツポーズを取ってはしゃいでいる。
そんなに嬉しかったのか…と舞香は微笑ましそうに見つめた。
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