【4】転生少女は、お出かけする(後半)
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同時刻、デパートから数キロメートル離れた料亭にて…
その男は、ある人物と対談していた。
「兄上、酒は程々にしてください」
その男…禪院誠仁は、眉を顰めて話し相手に苦言を呈する。
「ハッ、当主に叱責できるほど、お前はいつから偉くなった?」
その相手…禪院家当主、禪院直毘人は異母弟の発言を鼻で笑う。
「地位云々ではなくて、『健康を気にしてください』という意味で忠告しただけです。
水を浴びるように、アルコールを摂取したら腎臓や肝臓を壊しますよ」
全く、と呆れた様子で誠仁は言葉を続けた。
直毘人はというと…もちろん気にする様子もなく、ぐびぐびと日本酒を味わう。
「身内の健康を気遣うなんぞ、お前はつくづく変わり者だ」
「当主である兄上だからこそ、言うんですよ。
貴方が倒れでもしたら、禪院家は回らなくなってしまう」
禪院家は、呪術界では由緒正しい名家である。
その反面、「禪院家に非ずんば、呪術師に非ず。呪術師に非ずんば、人に非ず」と呼ばれるほど封建的な家系で問題点も多い。相伝の術式を引き継いでいない者は、落伍者としての人生を歩まざる負えない。
10歳まで一般家庭で育った誠仁が、禪院家で高い地位を確立できたのも、生まれつき強力な術式に恵まれていたからだ。
「くくっ…家族思いの弟を持てて、俺は幸せだ」
「それはどうも」
見ず知らずの者を気に掛ける程、誠仁はお人好しではない。
直毘人は、誠仁にとって【家族】だと言える存在だから心配しているのだ。
誠仁は、直毘人の除く他の兄弟の事を血のつながった他人としか思っていない。
直毘人の上にいる兄とは仲は悪い訳ではないが、そこまで親しい仲を築いていない。
…よくも悪くも知人程度の可な関係。
直毘人のすぐの下の弟の扇とは、もっと微妙な関係だ。
まだ小さかった頃の誠仁の事を、彼は露骨に下に見ていた。
今ではそれなりに会話はするが、誠仁は好んで関わろうとは思わないし、あちらも必要な時以外は接触してこない。
権力志向や無駄にプライドが高い兄弟の中で、直毘人がまだ話が分かるマシなタイプだった。
…とはいえ、弱者や非術師に興味が薄く、酒浸りになるなど人間性に問題もあるが。
禪院家の外で生活している誠仁はつくづく思う。
…【禪院家が異常である】という現実を。
禪院家だけでなく、他の御三家や保守派を取り巻く環境は、現代から逆行した中世の時代に取り残されている。
中立派や穏健派のように、時代の流れを見た上で変化を促していかなければ、いずれ限界がきて衰退していく。
それが目に見えるように分かるため、誠仁はこの状況をどうにかしようと動いている最中だ。
直毘人が当主となってから、緩やかに変化を促しているが…
当の本人が積極的でないため、あくまで微弱な変動しか起きていない。
歯痒くなる事が多々あるが…
他の兄弟を上に立たせたら、禪院家が瓦解する可能性が高いので論外である。
ゆえに、自分ができる事から着手している…そうするしかないのだ。
「ところで、用件を聞かせてくれますか?」
昨日、老舗のデパートに潜んでいた一級呪霊を五体祓う大仕事を終えて、今日は京都へ戻る予定だった。
デパートを出た直後に、直毘人から連絡が入ったので、楽巌寺の許可も得てこの料亭へ足を運んだのだ。
兄が自ら呼び出したのだ。
…余程の案件なのだろう。
「頼みたい事がいくつかある」
コトッと大きめの盃を長机におくと、直毘人は一つ目は…と人差し指を出す。
「先日、古参の側近が引退した」
「引退ですか…それは潔い判断だ」
珍しい、と誠仁は内心驚いていた。
禪院家に仕える分家や関連の家系は、地位に固執する者が多い。
古参になればなるほど、その傾向が顕著であるにも関わらず、引退を決意する者がいるとは…。
大方、自分の血縁者に地位を譲るための一種のパフォーマンスだろう…と思った。
「だから、戻ってこい」
「はっ…?」
だが、直毘人が発したその言葉に、誠仁は耳を疑った。
「いくつかできた空席を無能にやっても意味がねえだろ。
それなら、有能なヤツを入れた方がマシになる。
誠仁、お前が筆頭になって人材を選定しろ」
当主直々の指名に、誠仁は当初混乱していた。
徐々に、頭の中である程度整理ができたので質問を投げかけた。
「それは…俺に『最側近になれ』という意味で間違いないですか」
「そうだ。当主の右腕となるのだ。
相応の働きをしてもらわんと困るぞ」
「…他の方々はなんと?」
「当主である俺が指名したんだ。何の問題がある?」
文句でも言おうものなら、俺の名前を出せばいい。
直毘人がにたりと笑い、盃に酒を注ぐ。
誠仁は平静を装おうとしつつも、武者震いした。
何故、直毘人がやる気になったのかは謎だが、重要な地位に任命されたからには必ず実績を上げなければならない。
…このチャンスを逃すつもりはない。
家の現状を徹底的に変革させてやる…と誠仁の目に闘志が宿った。
「並行して、直哉の相手もしてくれ」
「直哉の…そうなると、彼を次の後継者に選ぶおつもりですか?」
直哉は、直毘人の末の息子だ。
今年、小学校に入ったばかりの男児だが、二年前に直毘人と同じ術式を開眼させた。
それゆえに、周囲からも次期後継者だと期待されている。
「【最有力候補】というだけだ。
あいつはこの所、調子に乗っておる」
周囲に持て囃されているためか、直哉は過度な自信がついてしまい、我儘が目立ってきている。
もしこの状態が続けば、直哉は禪院家の色に完全に染まってしまい、傲慢な思考の愚者になってしまう。
直毘人もそれを危惧したのだろう。
早めに【薬】を処方する事を決めたのだ。
その【薬】役に選ばれた事に、誠仁ははぁ…と軽く息を吐きつつ「かしこまりました」と了承した。
「あの子の教育に関しても、俺の采配でいいんですね?」
「構わん。家と外の違いを教えてやれ。
隣で昼寝中だから、今日の内にお前の事を伝えておこう」
「…って、此処にいるんですか」
「『面倒な行事が終わったから、旅行に行きたい』とせがまれてな。
丁度、こっちに用事があったからついでに連れてきた」
そっ…と障子を開けると、隣の部屋で布団でぐーすかと寝ている小さい甥が確かにいた。
その傍らで、顔に疲労の色を滲ませている男子の従者が楽な姿勢で休憩を取っている。
直毘人曰く、午前中にあちらこちらを廻っていき、従者を振り回していたとの事。
「頑張れよ、側近殿」
「…善処いたします」
直毘人に茶化されて、内心イラッとしたが…
誠仁は頭を緩慢に振り、気持ちを落ち着かせる。
楽巌寺学長に、今日中に事情を説明して、退職の手続きをしなくては…と頭を切り替えた。
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