【4】転生少女は、お出かけする(前半)
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「楽巌寺先生、ご無沙汰しております」
一方、優月はにこりと笑みを浮かべて挨拶する。
舞香も合わせるように、「こんにちは」と頭を下げた。
(叔母さん、すごいな…)
威圧感のある学長に対して、物怖じせずに普通に話せるなんて…
だが、叔母が一瞬だけ口元を真一文字にしたのを、舞香は見逃さなかった。
…叔母は、逃げる手段を考えている。
舞香の手を握りしめたまま、離そうとしないのが証拠。
いつでも動けるようにスタンバイしているのだろう。
「本宮、久しいな…」
先程の威圧感が緩和して、柔らかい表情を浮かべる楽巌寺。
懐かしい教え子に会えた事を心から喜んでいる風貌だ。
「先生は、学長になられたんですね」
「ああ、2年前にな。
前任の学長から業務を引き継ぐのに、些か骨が折れたものだ」
二人の会話を聞きつつ、舞香は流れを見守る事にした。
数分程度は、とりとめもない雑談をしていたが…
「折角、再会できたのだ…別の場所でゆっくり話さんか」
(…まずい状況!?)
「すみません、先生。本日は姪がいるので…」
「一緒でも構わんよ。
お嬢ちゃん、何か食べたい物はあるか?
好きなものをご馳走してあげよう」
(この人…確信犯だわ)
おそらく、楽巌寺はどこかでこちら側の一連のやり取りを見ていたのだろう。
舞香のあの我儘な(演技の)言葉もしっかり聞いた上で、巻き込む形で話し合いの場へ連れて行こうとしている。
「学長もこう仰っていますし、上の階にあるレストランなんてどうでしょう?
舞香ちゃん、そこならチョコレートパフェとアップルパイを頼めるし、ミルクティーもあるよ!」
(ひぇっ…佐々木さんが援護射撃してきた)
「美味しいモノをたくさん食べていいんだよ!」と言う明日実の打算のない厚意と純粋な眼差しに、
舞香は思わずうっ…と気後れしてしまいそうになる。
「その、俺達も色々と近況報告をしたいのでな。
ゆづ…いや、本宮にも聞きたい事がある…だから来てくれると助かる」
(禪院さん、叔母さんの事しか目に入っていないみたい。
私の事、視界にも入れてなさそう…)
この人、分かりやすいな…と舞香は糸目になる。
『やばっ…退路を塞ぐ作戦でくるなんて、楽巌寺先生、容赦なさすぎじゃない。
どうやって逃げたらいいかしら…』
(叔母さん、それって…私にも『方法を考えて』って意味ですか?)
笑みを張り付けている優月。
しかし、精神感応(テレパシー)で放送する本音から、彼女が焦っている姿が目に浮かぶ。
過去の事を聞いて、優月が高専の関係者と距離を置きたい理由を知っているため、舞香もこの状況は良くないと感じた。
(どうすればいいんだろう…)
「おーい、舞香!」
その時、聞き覚えのある声が耳に届いた。
ぱっとそちらへ振り向くと…
「五条さん…?」
海色のパーカーと紺色の半ズボンを着た悟が、目の前に立っていた。
「舞香、それから優月さん、お待たせしてすみません」
「えっと…」
「なんだよ、忘れちゃったのか?
今日は『一緒に街で遊ぼう』って約束したじゃん」
悟が笑ってそう言うと、舞香の手を握った。
…もちろん、そんな約束はしていない。
そもそも、悟が香川県に来ているなんて思わなかった。
戸惑う舞香に、悟はそっと耳元で囁いた。
「話を合わせるんだ。俺を信じて…」
舞香は微かに目を見張った。
悟は…舞香達の状況を把握した上で、助けようとしているのだ。
「そうでしたね。五条さん、探してくれてありがとうございます」
舞香が笑顔で答えると、悟は満足そうに頷く。
「五条君、待ち合わせ場所にいなくてごめんなさいね」
(あ、叔母さんも作戦に気付いてくれた…)
「ぜーんぜん! あっちこっち回る事ができたから新鮮でした」
そう、よかったわ…と安心した表情を浮かべる優月。
『五条悟…五条先輩と響子さんの子どもに助けられる日が来るなんて…
うふふふ…まあ、好都合じゃない。
考えるのは後にして、さっさとズラかりましょうか。
あばよ! しつこい先生、可愛い後輩、あとなんでか分からないけれど、挙動不審な先輩よ!!』
舞香は思った。
『人を見た目で判断するな』の典型例に、叔母は見事当てはまるんじゃないか…と。
内なる心の声は、思いっきり物語の悪役の定番台詞そのものだ。
(叔母さんの本性が分かったら、禪院さん…卒倒しそうだなぁ~)
冷や汗を流しつつ、舞香は率直な心のコメントをツイートした。
「楽巌寺先生、申し訳ございません。
折角のお誘いですが、またの機会でお願いいたします」
「…ふむ、先客がいるなら仕方あるまい」
優月が丁重に断りを入れると、楽巌寺は渋々といった感じで了承した。
「優月さん、父も会いたがっていましたよ」
「まぁ…五条先輩も来ているの?」
「はい、外で待っているので急ぎましょう!」
悟から「はやくはやく」とやや急かすように言われ、優月は楽巌寺達に会釈する。
「それでは失礼いたします」
「…さようなら」
別れの挨拶をして、その場から離れる事に成功した。
優雅な足取りで進んでいく優月に続くように、悟に手を引かれて舞香も歩き出す。
ちらりと後ろを振り返ると…
「あっ…」と手が宙を掴んで、残念そうにしている禪院。
「また会いましょう、先輩、舞香ちゃーん」と明るい表情で大きく手を振る明日実。
そして、忌々しそうにこちらを睨んでいる楽巌寺がいた。
舞香は気付いた。
楽巌寺の鋭い眼光は…優月ではなく、何故か悟に向けられている。
そっと視線を戻すと、悟が挑発的な顔で口端をあげていた。
(…二人とも面識があるのかしら。
あまり仲が良くないみたいだけど…)
…とはいえ、この時点で深く聞き出すのはやめておこう。
人様の人間関係に口出しすべきではないし(DVや虐待案件であれば別だが)、
友達になったばかりの悟に、あれこれと事情を尋ねたら不快に思われるかもしれない。
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