【裏2】五条少年は、【愛】の呪いを知る
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「母さんと知り合ったのは、子どもの頃…ちょうど悟と同じ年の頃だな」
父は昔話を語ってくれた。
父がまだ七歳の頃、五条家の行事で分家の母と出会った。
その時、満開の桜の樹を母は見つめていたそうだ。
(マジで…俺と舞香が出会った時と同じじゃん)
「一目惚れだった…でも、当時の俺は素直じゃなくてね」
*** ***** ***
『お前…暇か?』
『はい?』
『あぁ~…もぅ、こっちに来い!』
『えっ…えええっ?』
*** ***** ***
父は、初対面の母に対して高慢な態度で接したようだ。
母の手を握りしめて、自分の部屋まで連れて行った。
「そのおかげで、婚約する事ができたんだけどね」
(…そりゃ、大勢の前でそんな事すればそうなるだろ)
「婚約してから、距離を縮めようとしたが…なかなかうまくいかなかった」
前述したように、当時の父は好きな人の前では素直になれなかった。
母をからかったり、困らせたりして…ともかく、正反対な行動をとってしまった。
「その所為で、母さんは俺の事を面倒くさい奴だと思うようになってしまった」
(うん、俺でもそう思う)
寂しそう笑って語る父に、悟は「自業自得すぎ」と心の中で辛口にコメントする。
「高専に入ってからもそれが続いて…
ちょっとでも、俺の事を意識してもらいたくて意地悪な事ばかりした」
母に嫉妬してもらいたかった。
そんな理由で、他の女子と親しいところを見せつけた事もあった。
「転機が訪れたのは…姉妹校との交流試合の時だ。
俺の行動を見兼ねたのか、姉妹校の年下の女子生徒が説教してきたんだ」
*** ***** ***
『五条先輩、そんな事ばかり続けていたら…一生思いが届かなくなりますよ』
『他の人に、如月先輩の心を奪われても仕方ないです』
『後悔したくないなら、もっと素直になってください』
*** ***** ***
「…その女子生徒の言葉通りになった。
母さんは、俺以外の男を好きになってしまった」
気付いたのは交流試合が終わり、半年経ってからの事。
学校の裏庭で、母が一人の男性に告白している場面を目撃してしまった。
『貴方が妻子ある身だと存じ上げております。
私もいずれ結婚する身です。
ですが…今、貴方を慕っているこの思いだけは伝えたくて…告白させて頂きました』
半年の間に、だんだんと美しくなってきた婚約者。
時折、見せる優しい眼差しと物憂げな溜息。
…誰かに恋をしているのは明白だった。
『教えてくれてありがとう。
…そして、すまない。
私は妻を愛しているから、君の気持ちに答える事はできない。
君が、私よりも魅力的な男性と巡り合える事を願っているよ』
相手は、母よりも二回り年上の既婚者だった。
その男性は、母の告白を丁重に断った。
『いいえ、ありがとうございます。
これで…前に進めます』
振られる事を予期していたのか、母は目を潤わせつつ、感謝の言葉を口にした。
「胸が張り裂けそうだった…その男を激しく憎んだ。
でも、それ以上に自分自身が情けなかった。
なんで…もっと早く、母さんに…響子に思いを伝えなかったんだと…ッ!」
父の悲哀と悔恨で彩られた苦しい表情と、叫声に等しい告白に…悟は言葉を失った。
母への狂おしいほどの愛情、母の初恋相手への醜い嫉妬、そして己が犯した過ちに対する後悔。
父の中に、激しい感情の波が渦巻いている事に…ゾクゾクしてきた。
「…それから、稚拙な自分の行動を反省して、響子に好きになってもらうように頑張ったよ。
昔よりは関係はマシになったが…彼女の心の中にはまだあの男がいる」
父がそうであるように、母にとっても初めて恋した相手の記憶は決して忘れられないもの。
どんなに高価な宝石よりも価値があり、永遠に侵す事の出来ない神聖な領域だ。
「それでも、俺は響子を渡したくない。
だから、呪いをかける事にした」
正式に結納を交わして、初夜を迎えた日を皮切りに…
父は、母に気付かれないように寝ている間に口づけをするようになった。
他の男に心を奪われないように…
初恋の相手の記憶すら、粉々に砕けて忘却してしまうように…
そんな思いを込めて、ある術式を母に施すようになった。
「…母さんの体、大丈夫なの?」
「それは問題ない」
父曰く、施した術式は人を害するものではないとの事。
五条家に代々伝わっている…一部の者しか知らないもので、詳細を聞いた悟は別の意味で衝撃を受けた。
その術式は、伴侶となる人物が逃げないように、不測の事態に陥った際に発動されるものらしい。
結論から言えば…五条家は、先祖代々から執着心が強い者が多かったのだ。
(【愛】の呪い……なんだよそれ、すげー!)
そして、その血をしっかりと受け継いでいると悟が実感した瞬間だった。
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