【3】転生少女は、植物の御方と邂逅しました
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約十分で、呪力の提供の儀式は完了した。
優月は汗をかいたので、シャワーを浴びてくると風呂場へ行ってしまった。
残された舞香は、テーブルの椅子に腰かけていた。
(うーん…気まずい)
彼女の視線は時折、テレビが設置されている付近で楽な姿勢で床に座っている花御に向かう。
舞香は何を話したらいいのか、分からない。
花御も話す事が思い浮かばないため、口を閉ざしている。
三十分程前まで、お互いに一触即発の状態だった事も影響している。
(叔母さん…早く出てきてください)
舞香は糸目になり、優月が戻ってくるように念じる。
【―――すみません】
「ふぁっ!?」
突如、花御に話しかけられ、舞香はビクッとした。
「はい…なんでしょう?」
【水を分けて頂いてもいいですか】
花御は水分補給をしたいようだ。
舞香はその要求を聞いて、すぐに理解した。
呪霊とはいえ、花御は植物の特性を持っている。
夏の夜…気温が下がったとはいえ、じんわりとくる暑さは、彼も我慢できないのだろう。
「分かりました」と舞香は、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
(コップは大きい方がいいよね…)
この家にある一番大きいコップ(ビールジョッキ)に、ミネラルウォーターを並々注いでいく。
【ありがとうございます】
恐る恐るそれを花御に渡すと、花御は受け取ってゆっくりと水を飲んでいった。
(…お礼言われた)
…感謝されるとは思わなかった。
「あの…」
【なんですか?】
「先程は、知らなかったとはいえ…色々と言ってすみませんでした」
自然と謝罪の言葉が出ていた。
呪霊は人を害する存在だ。
もし、家族が傷つけられたら、舞香はその呪霊をこの手で倒そうと思っている。
けれども、自分が間違いを犯して誰かを傷つけてしまった場合…
きちんと非を認めて、そしてその人のために何をすべきなのか…行動を起こす事が筋だと思う。
それは人であろうと、呪霊であろうと関係ない。
【貴女も変わった人の児だ。討伐すべき呪霊である私に謝罪するとは…】
「正直に言うと、叔母さんから呪力を引き出させている点はモヤモヤしています」
【素直な娘ですね。
まぁ…薄汚い本音を隠して利を得ようとする卑小な人間よりかはマシです】
花御はそう言い切ると、残っていたミネラルウォーターを飲み干した。
【名は…『舞香』と言いましたね】
「はい。あなたの事は…『花御さん』と呼んでもいいですか?」
【どうぞ】
名前を呼んでもいいかと尋ねると、花御はすんなりと許可してくれた。
「花御さんは、いつから叔母さんの傍にいるんですか?」
改めて訊かずにはいられなかった。
何故、優月が花御と縛りを交わす事になってしまったのか…を。
【順を追って経緯を話すのは構いませんが、長くなりますよ】
「問題ないですか?」と確認され、舞香は首を小さく縦に振った。
【分かりました。陽が昇るまでまだ時間はあります。
今から語る事は、できれば内密に…他言無用でお願いします】
【転生少女は植物の御方と邂逅しました】
時を遡り、時刻は午後三時三十分。
和広は、ホテルの部屋で一人で過ごしていた。
(来るな、来るな、来るなぁ~
…頼むからマジで来ないで、来ないで、来ないでぇー!!)
三日前の夏祭りの際に、うっかり携帯電話に出てしまった。
電話の主は…案の定というべきか、白髪のあの少年だった。
『もうちょっとで宿題が済むから、三日後にそっち行きます。
舞香にも伝えておいてくれると助かるなぁー…お義兄さん』
咄嗟に通話を切ろうとした際に、あの少年はとんでもない爆弾発言を残しやがった。
だが、和広は理解していた。
少年…五条悟は有言実行な男の子だ。
本宮家が四国にいる事なんて、とっくの昔に調べ上げているに違いない。
そして、本日中にこのホテルに足を踏み入れるのは確実だ…!
(こっちだって、ただやられる気は更々ないんだからな…!)
和広は考えた。
中学校の受験対策勉強以上に…凡庸な頭をフル回転させた。
親友の闘也にヘルプコールしたところ、五条家は四日後に京都で行事があるそうだ。
ならば、この一日を乗り切れば…さすがの五条悟も諦めて京都に行くのではないか?
(父さんと母さんは仕事に行ったし、舞香も叔母さんのところに避難させた。
ならば、俺が取る方法はひとつ…部屋から出ない事!)
飲食類は予め買い込んでおいた。
部屋には、バスルームとトイレも完備されている。
持参している漫画と携帯ゲーム機及びソフトもばっちりだ。
(あとはただ一日を過ごせばいい。
神様、仏様、どこかの世界の女神様…
どうか、今日一日が平和に過ごせますようにぃ~!!)
両手を合わせて、和広は願った。
それから、暫くの間は幸いと言うべきか、誰も訪れる気配はなかった。
漫画を読んで、テレビのバラエティ番組を見ながら平穏な一時を過ごせていた。
ピンポーン
…部屋のインターフォンが鳴るまでは。
和広はビクッと肩を震わせた。
(だ、誰だ…)
時刻は午後九時をとっくに過ぎていた。
こんな時間に、ホテルの従業員がやってくるわけない。
さすがの五条悟も来るわけないか、とすっかり安堵していたのに…
(扉は開けない。インターフォンも出ない…!)
こうなれば、徹底的に居留守を決め込もう、と考えていたその時…
『すっかり遅くなったね』
『あら、貴方は…』
(えっ、父さんと母さん…帰ってきたの?)
どうやら、両親が仕事を終えて戻ってきたようだ。
問題は…
『夜分遅くにすみません。僕は五条悟と言います』
(イヤぁアアアアア!!??)
扉の前にいた五条悟と両親が鉢合せした事だった。
内心絶叫している和広を無視するかのように、かちりと鍵が開けられ、部屋の玄関扉が開いた。
「あれ? 和広、ここにいたのか」
「ただいま…叔母さんのところに行かなかったの?」
「お、おかえり…なさい」
戻ってきた両親と…
「こんばんは。舞香ちゃんのお兄さん」
にっこりと圧のある笑顔を浮かべて、挨拶してくる白髪の少年…五条悟。
運命の女神は、どうやら悟に味方したようだ。
「はは、あははは…」と和広は口から魂が抜けそうになる。
叔母さんの所に行けばよかった…と酷く後悔した瞬間だった。
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