【17】転生少女は、反省部屋で先祖の秘密を知る
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(舞香…早く会いたい)
五条悟はいつになく焦燥感に駆られていた。
二度目の縁談の申し出のため、悟自身も本宮家へ赴いた。
父だけでは心許ないと感じたのは事実であるが、それだけが理由ではない。
舞香が当主のお気に入りの皿を壊してしまい、仕置き部屋へ放り込まれた。
五日前、【鳩】からのその報告を受けた直後、悟はすぐに乗り込もうとした。
『悟、落ち着きなさい。下手に騒ぎを起こすと、舞香ちゃんに二度と会えなくなるぞ』
まずは、情報収集をする事に専念しなさい。
父が厳しい表情で指摘した事で、悟は冷静さを取り戻した。
悔しいが、父の言う通りだ。
短絡的な行動をすれば、本宮家は即座に悟をブラックリスト入りして、舞香へ接近する事を禁止しかねない。
舞香を救うにしても、準備を整えなくてはいけない。
【鳩】から逐次流される情報では、舞香は土蔵に監禁されているが、折檻はされていないようだ。
食事に関しても、本宮家の者や一部の使用人が定期的に運んでいるのが確認されている。
それでも、長期的に薄暗い空間にいる事で、精神に不調をきたしている可能性は大いにある。
(待ってろ。絶対に助けるから…)
そして、時間軸が現在へ戻る。
本宮家に着くや、すぐに当主である和真との対談する事となった。
二年前に匿ってくれた際に、会話をした事はあるが…
「何度も申し上げますが、姪は将来的に聖職者となるため、婚姻しない方向です。
ゆえに、丁重にお断りさせて頂きます」
改めて、対峙して実感せざる負えなかった。
眼前にいる現在の本宮家の頂点は、今の悟の実力では敵わない事を。
六眼に映し出される『彼』の情報は…一言で表わすなら【混沌】
呪力とそれとは別の力が入り乱れている。
それらはバチバチと火花の如く暴走するかと思いきや、瞬く間に一定の規律を保ったように安定したり、
双方の力が極端に片方ずつ強くなったかと思えば、渦を巻くように融合する等…未知の動きをしている。
「姪御さんとはいえ、そう安易に将来を決めずともいいではありませんか」
「決めたのは、姪本人ですが?」
「…いえいえ、成長するにつれて選択肢も増えていくかもしれませんよ」
「ならば、それは姪自身が決めるべき事。
私は、姪の意見を尊重した上で、しかるべき判断をするだけです」
言葉の応酬は続くが、明らかにこちらの分が悪い。
父の額から汗がつぅー…と滴り落ち、首筋を濡らしているのが見えた。
平静を装っているが、呪力がありえないくらい乱れており、不安定な状態だ。
和真は、父の最も苦手な人物である…という事だろう。
ダメだ、この調子だとまた断わられてしまう。
悟は澄み切った青の瞳を、和真へ向けた。
「ご当主様」
「…何かな?」
「此度の縁談に、消極的になられる理由は存じ上げております」
悟は基本的に傲岸不遜である。
身分が高くとも、大人であろうともため口で歯に衣着せない言い方をする子どもである。
しかし、相手が強者であったり、己が尊敬するに値する人物には無礼な対応はしない。
目の前にいる本宮家現当主は、悟にとって敬意を払わなくてはいけない人物なのだ。
「遥か昔…我が血族の関係者が犯した罪、そして…父が間接的に関与してしまった十年前の事件。
それらを考えれば、大事な縁者を敵地へ迎え入れる事は断固として回避したい事だと分かっております」
「驚いた…明治時代のあの事件を知っているとは」
「独自で調べました」
「最近は当事者であった御三家でも、意図的に『なかった』事にしようとする者が増えつつある。
あまりにも嘆かわしい故に、今後の付き合い方を考え直させて頂こうかと思っていました。
五条家も例外ではありませんでしたが…
幸いな事に、勤勉な次世代に恵まれたようですね…安心しましたよ」
“御三家の連中は過去の罪を風化させようと、次世代に意図的に教えないように画策している。
それなら、こちらもそれ相応に対応していくつもりだ。
五条家も現当主を筆頭に、過去の所業を棚上げした挙句、こちら側に要求ばかりしてくる始末だ。
しかし、次期後継者は意外と現実を見据えている…命拾いしたな”
言外に含まれる本音と皮肉、そして警告。
隣にいる父が唇を震わせながら、机で隠している両手をギュッと拳にしている
思っている以上に、五条家の心証は悪化している。
自分の発言がなければ、予想斜めにやばい事態になっていたかもしれない…と悟は痛感した。
「それでも、僕は舞香さんの事を大切に想っています。
彼女の事を…本気で正妻として迎え入れたいのです」
現状は厳しい。
それでも、悟は口を動かす事をやめない。
ここで言わなければ…物事は進まない。
自らの意思を明確にしなければ、
「君は【愛情】という名の独り善がりな感情だけを姪に押し付け、姪自身の気持ちは無視するつもりかな?」
先日、同じ事をあのシスター…リエ・クローチェから指摘された。
悟は、父と祖父の二の舞いを踏もうとは考えていない。
でも、舞香をみすみすとヴァルハラ教団とシスターのもとに渡したくない。
「舞香さんが了承してくれたら…いいのですね?」
「姪の尊厳や権利を必ず尊重できるならば、検討しよう。
逆に、脅迫や恫喝、近しい人間を人質にとる事で不当な要求をするようならば…
こちらも、物理的な手段による解決を厭わないつもりだ」
物騒な言葉と共に、冷徹な光を帯びた瞳と周囲にいる生物を骸にできる威力の殺気を向けられる。
事実、本宮家の屋敷の外で浮遊していたグロテスクな低級呪霊が全身から血が飛び出すや霧散した。
隣にいる父が気を失わないよう、血を滲み出る程に下唇を噛んでいるのを横目に、
悟は鋭い目で向かい側の和真を見据える。
首元に手をかけられた圧迫感を覚える。
ぐっとこらえながら、悟は決して目を逸らさなかった。
「その申し出、受けて立ちます」
「………君が賢い選択をする事を期待しているよ」
和真はそう言うと、威圧を解いた。
父が安堵の息を小さく吐き、ハンカチで唇についた血を拭い取っている傍らで、
悟は「すみません」と再び和真へ声をかけた。
「お手洗いを貸して頂いてもいいですか?」
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