【2】転生少女は、夏油少年と友達になりました
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その翌日、舞香は兄と傑の三人で外に出かける事になった。
大きな祭りの当日という事もあり、辺りは観光客で賑わっている。
「舞香、傑君。食べたいものあるかい?」
「リンゴあめ」
「焼きそばがいいです」
「分かった。買ってくるから、ちょっと待っててね」
和広が屋台へ行くのを見送り、二人は寺の境内付近で待つ事にした。
「舞香ちゃん、今日は浴衣なんだね」
「はい。お祭りだから、叔母さんが着せてくれました」
白い生地に花柄の浴衣は、叔母が子どもの頃に使っていたものだ。
髪は後ろにまとめて赤いリボンで束ねている。
「うん。とっても、かわいいよ」
「ありがとうございます」
傑の言葉に、舞香はふふっと顔が綻ぶ。
お世辞でも褒められると嬉しい。
「夏油さんもその服、いいと思います」
傑の服装は、黒いTシャツとグレーのズボン。
舞香も黒系の衣装を着てみたい気持ちがあるが…
母から「明るい色がいいと思うよ」と言われてしまうため、今のところ着れない状況だ。
もう少し大きくなってから、自分で購入しようと考えている。
「かっこいいですね」
傑は容姿も整っており、服もオシャレに着こなしている。
将来的に、異性から黄色い声音をあげられる男性に成長する可能性が高い。
そういう未来予想図をイメージした上で、舞香は素直な感想を告げた。
「そう…かな?」
傑は人差し指で頬を搔いて、満更でもなさそうに見える。
「お待たせ~」
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
「ありがとうございます」
戻ってきた兄から、リンゴ飴と焼きそばをもらう二人。
祭りの日の屋台で提供される食べ物は、特別な美味しさがある。
透明なガラスに包まれているように艶々したリンゴ飴を、舞香は少しずつ舐めて味わっていく。
傑と兄は焼きそばを啜りつつ、好きなファンタジー小説の話題で盛り上がっているようだ。
「あ、花火」
星空に打ちあがる色とりどりの華。
満開に咲き誇り、刹那の間に散っていき、空の彼方へ消えていく。
そんな一瞬の美しさに目を奪われていると、リンゴ飴を持っていない手の甲を包み込むように、誰かが握った。
「…夏油さん?」
「舞香ちゃん、ちょっと…こっちに」
手を繋ぐ形で、舞香は五歩程度後方へ移動する。
どうしたの…と問いかけようとしたその時、後ろから気配を感知した。
視線をずらすと石幢の上と茂みから、こちらを眺めている烏のような呪霊が二体。
目と目が合い、それに気付いた呪霊がすぐさま接近してきたが…
ブンッ
「あっ…」と小さく声を漏らしてしまった。
舞香を庇うように、前に出た傑が道に落ちていた小石を拾い上げて、呪霊一体に目掛けて勢いよく投げつけたのだ。諸に命中した呪霊は悲鳴を上げて消滅する。
もう一体は、傑を警戒したのかすぐさま森へ通じる道の奥へと消えていった。
「夏油さん、まさか…」
「さっき、お兄さんから聞いたんだ。君も“僕と同じ”で見えるんだね」
舞香に対して薄らと笑みを浮かべつつ、傑は先程、呪霊が逃げ込んだ闇の彼方へ刃のような鋭い目つきを向けていた。
「初めて見えたのは、五歳の頃かな」
傑は、呪霊が見えるようになった経緯を語ってくれた。
三年前、母方の祖父が亡くなった日。
葬儀に集まっていた親戚の三人に、呪霊が憑いているのを見つけた。
当時の傑はそれが何なのかうまく理解できず、指をさして両親にその事を伝えるしかなかった。
父と母にその事を言っても子どもの戯言だと思い、取り合ってくれなかった。
「一週間後、その親戚の内の一人が亡くなった。
お正月にしか会わない人だった…でも、悪い人じゃなかった。
その二日後に…仲の良い従兄の子が大怪我をして入院した」
「呪霊が…二人に悪さしたんですね」
「その事を知った母さんが、僕の事を心配して呪霊に詳しい人のところに連れて行ってくれた。
それが、君の叔母さん…優月先生だったんだ」
優月は検査を行い、傑が呪霊を可視できると診断した上で、呪霊の事を含めた呪術界に関する事を教えていった。傑は三ヶ月に一回、定期的に優月のもとへ通いながら、彼女経由で紹介してくれた呪術師から呪霊への対処法を学んでいった。
「おかげで、そこらに浮遊している低級のやつは倒せるようになったよ」
「それは…すごいですね」
ふわぁ…と感嘆する舞香。
だが、傑の顔に憂愁の影が差す。
「でも…強い呪霊は倒せない。
一回だけ遭遇して、全く歯が立たなかった」
その際、駆けつけてきた呪術師により、呪霊は退治されて難を逃れたが…
その事を思い出すたびに、苦い思いが込み上げてくる。
言葉の節々から、傑のそんな感情が滲み出ている事を…舞香は感じ取る。
「でも、夏油さんが無事でよかった」
「えっ…」
「呪霊は倒せなかったけれど、夏油さんは生きている。
誰だって、最初から強い訳じゃないですよ。
それに…倒す事ばかりに囚われていたら、命を落としてしまうかもしれない」
舞香は思った。
まだ小学校二年生である段階で、傑は呪霊を退治できる術を身につけた。
これから修行していけば、潜在能力が開花する可能性がある。
「死んだら何にも残らない。
生きていてこそ何でもできる。
だから、夏油さんはこれから強くなっていけばいいんですよ」
前途有望な少年が、希望を持って精進していけるように…
そういう思いを込めて、舞香は励ましの言葉を送った。
「っ!……………そうか、そうだよね」
傑はハッとするや、暫しの沈黙の後で納得したように呟いた。
「ありがとう…舞香ちゃん」
こちらに視線を戻した傑は、憑き物が取れたような表情で感謝の言葉を口にする。
どうやら、彼は前向きになれたようだ。
よかった…と舞香も口元を緩ませた。
・
