【17】転生少女は、反省部屋で先祖の秘密を知る
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「以前にも申し上げましたが、姪は将来就く職種の関係で婚姻しない方向です。
ゆえに、丁重にお断りさせて頂きます」
表情一つ変える事なく、和真はそう言い切った。
舞台は本宮の本家にある大きな客室。
和真と真向かいに座る客人は―――
「はっ、こちらの言い分を完全に聞かぬ間に即答するとは、まだまだ青さが抜けきっておらんなぁー!」
「兄上、そんな喧嘩腰に言わないでください!」
禪院家当主、禪院直毘人。
同行しているのは最側近の誠仁、幹部の一人である甚壱、そして…息子の直哉だ。
「長々と話を続けていても建設的とは言えませんからね。
それに、そちらの大体の言い分は前回お聞きいたしましたし、追加情報もお話しされたので分かりました。
それらを踏まえた上で、返事をさせて頂いたのです」
「どこに問題があるんだ?」と言わんばかりにあっけらかんとした態度で返す和真。
あまりにも塩対応な本宮家当主の態度に、直毘人はピキッと青筋を立てる。
「ハハハッ、やはり慶一は後を継がせるのが早すぎたな。
話を十分に聞かずに、事を急いて即決しとる時点で、当主として落第点だろうが」
「貴方が先程の話した時間は、凡そで4時間30分程度でした。
プレゼンテーションをするには些か前置きと過程の話に重きをおきすぎていた印象を受けましたが…
そのおかげで、答えを導き出すには十分すぎる程でしたよ」
意訳すると―――
「お前のダラダラと好き勝手に語る無駄な長話につきあってやったんだ。
こちらは、縁談を断る理由を見つけ出すのに十分な時間だったよ。
答えてやったんだから、文句言われる筋合いはない」である。
誠仁は真面目な顔つきを維持しながらも、緊張で胸がキュッと締め付けられる。
対面する本宮家の現当主が、異母兄と相性が悪い事はこの場にいない扇から聞いていた。
前回、初めて接触した際に、それが事実であると痛感した。
だから、二度目となる今回は、相手にとって有益な条件を加えたり、不快になるような言動を慎むように、
異母兄に懇願したのに…直毘人は、異母弟の原稿(という名の助言)を取り入れたものの、
圧倒的に自己流でプレゼンしてしまった。
誠仁は思った。
…兄に任せずに、自分がプレゼンすればよかったと。
「顔色が悪いが、大丈夫か」
「はい、どうにか…」
隣にいる甚壱が、小声で心配の言葉をかけてきた。
甚壱は先代の禪院家当主で、誠仁の一番上の異母兄…雄甚の長男だ。
関係が微妙だった一番上の異母兄とは異なり、年上の甥である甚壱とは割と良好な関係を築いている。
甚壱は、本宮家の現当主とは幼い頃から呪術界の定例会等で顔を合わせる事があったようだが…
苦手意識があるらしい。
その証拠に、和真が時折こちら側へ視線を向けるたびに、膝に置いている手の親指と人差し指を擦っている。
彼は緊張している時、指擦りをする癖が出るのだ。
「本宮の御当主様」
そんな神経をすり減らしている大人達を無視するように、幼い直哉が声を上げた。
「…何かな?」
「さっき、見かけへん人達がいてはりましたけど、なんか行事でもあるんですか?」
「詳細は言えないが、そうなるかな」
場の空気を読まない甥の質問に対し、誠仁はハラハラするが、幸いにも和真は普通に答えてくれた。
直哉は「ふーん」と頷きながら、屋敷の外に目を向ける。
「失礼。お手洗いを貸して頂きたい」
「分かりました。使用人に案内させましょうか?」
「いや、先程目にしたのでお構いなく」
すると、甚壱が用を足したいと席を外した。
「僕もええですか?」
「どうぞ」
直哉も同じくトイレへ行きたいと言い出し、甚壱の後を追いかけていった。
「はぁ、嬢ちゃんとの婚約の件はいったん保留だ。話を変えようか」
平行線になっているためか、直毘人は別の話題へ移る。
「和真、お前の父で先代の慶一や先々代の当主の頃から、ある宗教団体に寄付しておるだろ」
「ヴァルハラ教団の事ですか?」
「ああ、慈善事業を謳っておるが、裏側では怪しげな団体と付き合っておると密かに噂されている」
直毘人の意味ありげな言葉に、和真は眉根を寄せる。
「若い頃、俺は調査のために教団の京都支部に行った事はある」
「存じ上げております」
呪術界が、定期的にヴァルハラ教団に調査員を潜り込ませているのは知っている。
保守派や上層部はかなりの手練れを送っているようだが、ヴァルハラ教団にはとっくの昔に見抜かれている。
だから、教団側は適当にそれなりの情報を掴ませて泳がせているようだ。
「貴方の場合は…別の目的があったからでしょう」
「でなければ、ああいう堅苦しい場所へなど通わん」
感情や本音を隠さずに、直毘人は堂々と肯定した。
開き直りが早い。本当に神経の図太い男である。
「叔母である伊織は…息災か?」
「定期的に来る連絡では、海外を飛びながら元気に暮らしているそうです」
「そうか、日本に帰ってくる予定は…」
「現段階ではございません」
きっぱりと言い切る和真に、直毘人は小さく舌打ちする。
「とにかく、ヴァルハラ教団と深く関わるのは勧められん」
「唐突に話を切り替えましたね」
「一々、細かい事を言うな。俺は先輩として忠告をしているだけだ。
ヴァルハラ教団は慈善福祉と言う名目で、実質的な独自の軍事組織を要しておる。
大半の非術者は騙されとるが、あれはいつ牙をむくか分からん」
直毘人なりに心配している…いや、8割方は私情と打算で言っているに違いない。
しかし、彼の言う事は、常識人から見れば真っ当な意見だろう。
特定の宗教に限らず、名の知れた団体や組織も表向きは清廉潔白なスローガンを掲げる一方で、
裏では、自らの思想や意見が合わない人々や反対勢力を言論や力で捻じ伏せようとするなど
目に余る行動をするケースが珍しくないからだ。
時に、それが要因となり、世間を騒がす大事件や凄惨な差別と暴動へと繋がる事もあるのだ。
「嬢ちゃんをあんな組織が運営する寄宿舎に入れたのは間違いだ。
慶一も妹が通っていた縁で、あそこへ転校させたようだが…
今は問題ないと思っても、いずれ危険を及ぼすやもしれんぞ」
「お話しているところ恐縮ですが…」
ヴァルハラ教団へのネガティブキャンペーンを長々と続けようとする直毘人に水を差すように、
和真が言葉を挟んだ。
「ヴァルハラ教団へ入る事を決めたのは、先代ではありません。姪自身です」
「はぁっ!?」
「貴方の仰りたい事は理解いたしました。ですが、ご安心を。
仮に、ヴァルハラ教団が否がある行いをしていると判明したら、こちらも適切な対応を取らせて頂きます」
そう告げると、和真は湯呑に口をつける。
現当主の態度が癇に障るのか、忌々しそうに顔を顰める直毘人。
二人の様子を間近で見なければならない誠仁は、胃がチクチクと痛み出すのを感じた。
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