【17】転生少女は、反省部屋で先祖の秘密を知る
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三時間後、舞香は二階のデスクに向かっていた。
デスクに教材を広げて、黙々とノートに鉛筆を走らせていく。
「算数ドリルは完了…っと」
鉛筆を置いて頁を閉じると、舞香は満足そうに頷く。
そう、彼女は夏休みの宿題をしていたのだ。
伯母に必要な物を聞かれた時、舞香は二つ要望した。
①夏休みの宿題
自分の好きな事をやりたいのは、誰でも共通の思いだ。
そのためには、まずは宿題や課題を先に片付けておく。
それが、舞香のポリシーである。
少なくとも、一週間くらいは反省部屋で過ごさなければならない。
ヴァルハラ学園の夏休みの宿題は、前の学校よりも量が多く、内容の難易度も高くなっている。
手ごわい夏休みの宿題をするには、まさに打ってつけの機会だ。
ちなみに、現在の夏休みの宿題の達成率は30%で、来週までには80%にする予定だ。
②携帯電話
一番の理由は、外部と連絡を取りたかったから。
夏休みに入り、教会での修行はお盆を過ぎるまではお休みだ。
しかし、ギルドの方は丁度いい依頼があれば、リエかコラソンのどちらかが
連絡を入れてくれる事になっている。
自分の携帯電話を手にすると、リエとコラソンに現在の状況をメールで伝えた。
5分後には、二人からそれぞれ返事がきた。
『舞香ちゃん、先程ぶりです。
御実家の方で、大変なハプニングに遭遇してしまいましたね。
もし、困った事が起きたら、すぐに連絡してください』
『舞香ちゃん、お疲れ様。
メッセージを見たけど、とんでもない事になってるなぁー…(;・∀・)
安全地帯にいるとは思うが、油断したらダメだぞ。
何かあったら、報連相は忘れずに!
すぐに駆け付けるからな!!』
こちらの事を心配して気遣ってくれている二人のメッセージに、嬉しい気持ちが胸を満たしていく。
それから、メールでお盆休み以降のスケジュールを話し合い、決めていった。
本宮の行事が終わったら、ヴァルハラ教団のスウェア専用の寮へ戻る事にした。
芽衣子の話を聞いて思ったのだ。
分家である実家にいても、保守派の呪術家系が不意打ちでやってきそうな気がする。
…特に、禪院家辺りが。
(お兄ちゃんにも接触してきたみたいだし、やたらと活発的なのよね)
先週、和広が実家に戻っている最中に禪院家の関係者と遭遇してしまった。
正確に言うと、和広を尾行して、さりげなく偶然を装って声をかけたようだが…
『すみません、キャッチセールスは間に合ってます!!』
すぐさま、そう返して超特急で逃走したらしい。
顔面蒼白でガタガタと震えながら語る兄を見て、舞香は心底同情した。
考えてみると、兄も婚約者がいないので他家から格好の標的である。
藤基家の次期当主である闘也の側近になった事で、危険をどうにか回避できているのが幸いだ。
(私も気を付けないと…)
そう思いながら階段を降りていると、カンカンッと音が鳴り響く。
先程調べた箇所…部屋の片隅にある木製の小さな扉を開け、舞香はそろぉーと外を覗き込む。
「よっ、舞香。居心地どう?」
よーく知っている顔の少年がひょこっと顔を出して、明るい声で話しかけてきた。
「こうちゃん、お久しぶりです」
舞香は笑って返事する。
前髪の一部が、ぴょこっと内側方向に飛び跳ねているこの黒髪の少年は【本宮航生】
舞香の従兄であり、現当主である和真の次男だ。
年齢の近い事から、昔から一緒に遊んだりする仲の良い友達でもある。
「『舞香が反省部屋デビューした』と聞いて、様子を見に来たんだ」
「デビューって…此処って、そんなに来る人が多いんですか?」
「俺と明里姉ちゃんはリピーターだね」
得意気にそう語る従兄に、舞香はクスクス笑ってしまう。
航生は好奇心旺盛な男子で、趣味は【探検】であり、物心ついた頃からあちらこちらへ飛び出していく人だ。
冒険活劇な洋画が好きで、もっと幼い頃は映画のごっこ遊びに夢中だった。
お気に入りは【イ〇ディー〇ョーンズ】や【グー〇ーズ】だ。
航生は主人公役で、舞香は仲間や敵役を演じる事が多かった。
祖父の慶一が手作りした宝の地図をたよりに、二人(時には、和広も同行した)で宝物探しを楽しんだものだ。
「それと、はいこれ」
思い出を振り返っていると、航生が御盆を差し出してくれた。
御盆には、白飯とぶりの照り焼き、ほうれん草のおひたし、溶き卵の澄まし汁が乗せられている。
…本日の夕食である。
「おいしそう」
「食べ終わったら、扉の近くに置いてくれ。回収するから」
芽衣子との話し合いで、食事や着替えの衣類の交換等をこの扉越しで行う事になった。
本宮家の親族、信頼できる使用人が運んでくれる事になり、本日の担当を引き受けたのが航生だ。
「そうそう、親父から伝言」
「なんですか?」
「『食事や衣類交換の時に【鼠】が紛れ込むかもしれないから、気をつけるように』って言ってた。
ま、家に来て日が浅い新人とかにはその役目は回さないけど…」
「念のために気をつけとけよ」と忠告してくれたので、こくりと頷く。
「それとさっき、親戚が全員揃ったんだ。
「『雅義叔父さん達に後で内線で連絡するように』、追加で親父が言ってたから、ご飯食べたらしなよ」
「はい、かしこまりました!」
小さく敬礼のポーズをとると、航生は映画の主役の演技に入ったように「よろしい」と満足そうに返した。
それから、多少の雑談をした後、航生は屋敷の方へ戻って行った。
(なんだか、去年とはまた違う夏休みになりそう)
不謹慎かもしれないが、ちょっとドキドキワクワクしている。
そう感じながら、舞香は食事をするために箸をとった。
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