【2】転生少女は、夏油少年と友達になりました
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『ねーちゃん、ねーちゃん』
目を開けると、まだ幼い妹の顔がアップで映った。
『マリー…どうしたのかな?』
『おなかへった、なんかたべよー』
特徴的な糸目をへにょっとさげて、妹…マリエは切なそうに訴える。
マリエは成長盛りなのか、とっても食いしん坊なのだ。
『ふふふ、何がいい?』
『ぱんけーき』
『マリーはパンケーキが大好きなのね』
そう言うと、マリエはぱぁ…と顔を輝かせる。
『とーちゃんのぱんけーき、ふわふわすき。
かーちゃんのぱんけーき、もちもちすき。
にーちゃんのぱんけーき、ぺらぺらだけどいーかんじ。
ねーちゃんのぱんけーき、だーいすき!』
マリエは、家族全員が作るパンケーキが好きだと言う。
そして、一番のお気に入りは、姉である自分の作るパンケーキだと言ってくれるのが嬉しい。
『じゃあ、作るからいっしょに行こう』
『うん!』
手を握って、近くにある家まで二人で帰る。
ずっと…途方もない時間を遡らないといけない前世の記憶。
それでも鮮明に覚えているのは、どうしてだろう?
*** ***** ***
「舞香、そろそろ着くよ」
目を開けると、兄の和広がいた。
眠たい目を指先で擦りながら、「…ふぁい」と舞香は返事した。
季節は七月下旬。
夏休みとなり、舞香は家族と旅行に出かける事になった。
昨年は、母方の祖父母が暮らすイギリスへ行ったが、今年は国内旅行だ。
「和広と舞香は四国は初めてだったな」
「うん」
「親戚の叔母さんがいるんだよね?」
行き先は四国地方…香川県だ。
父の妹…叔母が住んでいて、小さなクリニックの院長を務めている。
反転術式も使えるため、こちらで働いている呪術師の方々はお世話になっているそうだ。
「今日は仕事休みだから、叔母さんが手料理を作って待っているはずだよ」
「楽しみ…」
舞香はワクワクしながら、レンタカーの窓から景色を眺める。
時々、低級呪霊がふよふよと浮いているのを見かけるが、視線を合わせなければいいので鳥だと思うようにしている。
どこを観光しようか、うどん屋を回りたいね…
和広と他愛もない会話で盛り上がっていたその時…携帯の着信音が鳴り出した。
「お兄ちゃん、電話だよ」
「…誰だろ」
舞香は携帯を持っていない。
補足説明すると、1990年代後半のこの時代は、高校生を中心に携帯電話が普及してきた時期だ。
徐々に使用している人は増えているものの、まだ所有していない人も珍しくなかった。
舞香が所属する小学校では、携帯を所持している子はほとんどいない。
舞香自身も「まだ早いかな…」という感覚であるため、特に困らなかった。
ただ、最近は呪術界のみならず一般的な世間でも物騒な事件が起きたりしているので、
先日、母から「そろそろデビューしましょうか」と提案された。
そのため、夏休み中に兄と同じ機種を買うために携帯ショップへ行く予定だ。
そういえば、夏休み前に悟から「携帯の番号とメルアド教えて」と言われた。
携帯をまだ所持していない事を伝えたら…
『これから買いに行こう』
『ほわい…?』
その日の内に購入しようと積極的に誘われてしまった。
悟側に費用を負担させてしまうのが申し訳なかったので丁重に断ったのだが、あの時の悟は納得していない様子だった。
(五条さん、元気かしら…)
夏休みに入り、全く会っていない。
父から聞いた話では、五条家はこの時期、他の御三家や派閥同士の会合などで多忙を極めるようだ。
次期当主である悟も、夏休みの宿題を片付けつつ忙しい毎日を過ごしているのだろう。
(お土産に、何か持っていこうかな…)
そんな事を考えていると、隣にいた兄が「ひょっ!」と奇妙な声をあげた。
携帯の画面を見つめていた和広の表情は、まるで夏休み限定に放映されるホラー映画を観た時の衝撃に満ちたものに似ていた。携帯の画面を閉じると、和広は荷物の中へしまい込んだ。
「あ…うん、知らない番号だった」
「いたずら電話?」
「…そうだと思う」
それから、携帯の着信音がたびたび鳴り響いてきたため、和広はサイレントモードへ切り替えた。
「いつのまに登録を…」「機種変える? いや、電話番号だけにしとけば…」と何やらブツブツ独り言を呟いていた。大丈夫か、と尋ねようとしたら…ちょうど叔母の家に辿り着いてしまった。
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