【16】転生少女は、称号を授かる
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舞香は、叔母と重要人物であるアンジェリーナと共に個室に移動した。
このホテルで一番良い部屋を予め予約していたようだ。
少人数で話し合いをするには…いささか広すぎる部屋である。
「安心して。此処には、私と信頼できる人しかいないから遠慮なく寛いでちょうだい」
アンジェリーナはソファーに腰かけると、砕けた口調でそう言った。
優月に目を向けると、彼女は小さく頷いたので、舞香は向かい側のソファーへ座った。
「レディ・本宮…いえ、優月。無事に生きているようで安心したわ」
「アンさんも変わらずお元気そうで何よりです」
先程は公式な場であったが故に、互いに礼儀正しくしていたが、この空間で挨拶する二人の雰囲気は和やかだ。
例えるなら、同じ学校の仲の良い先輩と後輩の仲と言うべきか。
「アンさんがこの国の社交場に顔を出すのは一年ぶりですね。【旅行】は如何でしたか?」
「五ヵ国ほど行ったかしら…どこも目立つような情勢になっていなかったのは幸いね。
おかげで、滞在期間を延ばしてゆっくりとバカンスを楽しめたわ。
…そちらはどうだった?」
「診療所の運営とエージェントの仕事で、全国を行き来しています。
時々、物騒な事がおきますけれど…セキュリティは万全なので概ね平和に過ごせていますよ」
話の内容は、日常的な話題から仕事に関する事が主だ。
二人の話に耳を傾けていると、目の前のテーブルに紅茶とケーキを乗せた器が置かれる。
同じく部屋に待機していたクラシカルなメイド服を纏う使用人の女性が「どうぞ」と運んでくれたものだ。
お言葉に甘える形で、舞香は紅茶を一口飲む。
穀物の甘い香りと、スッキリした味わい。
これは…フォートナム&メイソンの【アイリッシュブレックファスト】だ。
ミルクを入れて飲むと、深いコクを感じられる。
甘味が少ないので、ケーキといっしょに味わうとちょうどいい。
「ケーキの味はいかが?」
不意に声をかけられ、舞香は口に含んでいたケーキを慌ててごくっと飲み込む。
「…とても美味しいです。この紅茶と合いますね」
「でしょv そのケーキは私の贔屓にしている店の商品なの」
にっこりと笑みを浮かべるアンジェリーナ。
ケーキはお世辞ではなく、本当に美味しい。
「さてと…ここからは本題の話に入りましょうか」
アンジェリーナが真面目な顔でそう切り出した事で、和やかな空気が緊張感のあるものへ変化した。
「簡単に説明すると…私はこの世界の住民ではないわ」
「異世界の方ですか」
「ええ、こうみえても実業家なの」
アンジェリーナ・ダレスは実業家だ。
生まれ育ったのは、この世界では二世紀前の時間軸である英国。
当時、彼女は珍しい女性医師であり、大きな医療機関で働きながら生活していた。
ある時、馬車の事故に合ってしまい、生死の淵を彷徨った。
その際に狭間の世界で遭遇したのが…
「ヴァルハラ教団のシスター・マリエルよ」
「シスターとですか!?」
「シスター・マリエル…リエは、私と息子の恩人でもあるの。
彼女と出会わなかったら…私は全てを失って自暴自棄になっていたかもしれない」
当時の事を語るアンジェリーナは、柔らかい笑みを浮かべている。
(マダムは…リエさんに助けられたのね)
アンジェリーナはさらに話を続けていく。
…生死の狭間で、リエと形式契約を交わした事。
…生き返ってからは、リエの仕事の手伝いをするため、探偵の助手となった事。
…助手として、依頼をこなす中で様々な事件に遭遇した事。
「…で、その事件の黒幕はインドカリーの品評会で英国御用達のロイヤルワラントを獲得しようと企んでいたの」
「その黒幕の方は、ロイヤルワラントを手に入れたんですか?」
「いいえ、上手くいかなかったわ」
「ほわい…いえ、何故ですか?」
「黒幕は自身の会社の人脈を使い、最高の材料を揃えた。
美味しいカリーを作り上げる【神の腕】を持つとされるインド人をシェフに迎えた。
それでも…運を味方にする事はできなかったのよ」
アンジェリーナ曰く、黒幕は最初は別の候補と同着優勝しそうだったとの事。
しかし、主催者である女王陛下がある事を指摘した事により、勝利を逃してしまったのだ。
「ところで、どなたが優勝したんですか?」
「カリーパンを作ったとある名門伯爵家の執事よ」
「ええっ~!」
意外な人物が勝者だったと言う結末に、舞香は思わず驚きの声をあげてしまう。
はっと両手で口元を塞ぐが、アンジェリーナは「いいのよ」と一笑する。
「こうやって、内々な話をするのは久しぶりね」
「私が、先代を通して招かれた時以来じゃないですか」
アンジェリーナと優月の会話に、舞香はドキッとした。
「懐かしいわね。貴女もこうして…次代を紹介しに来る年齢になったのね」
「感慨深いわぁー」と言うアンジェリーナの言葉を聞き、舞香はやはり…と確信した。
徐に視線を隣にいる優月へ移すと、彼女は口元に綺麗な弧を浮かべた。
「舞香ちゃん、どうしたの?」
「叔母さん…この夜会に出席する目的は他にもあったんですね」
先程、アンジェリーナが英語で話しかけてきた時からある種の予感はしていた。
『You are the future witch candidate, aren't you?
(貴女が“次のウィッチ”なのでしょう?)』
あの言葉はそれは即ち、舞香が【ウィッチ】の後継者に指名されたという意味だ。
「叔母さんは…何故、私を?」
思わず、聞かずにはいられなかった。
困惑の色を顔に露わにする姪からの問いかけ。
優月はその心情に寄り添うようにこう告げた。
「その理由も含めて、今から説明するわ」
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