【裏5】五条少年は、最大の強敵を定める
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『こっそりカミングアウトしちゃうと、僕は今、お付き合いをしている女の子がいるんだ』
そういえば…と悟はあの時の事を振り返る。
智彦は『彼女がいる』という情報をこっそり教えてくれた。
おそらく、その彼女が舞香の従姉の事だったのだろう。
「そういう事か…」と納得しながら、悟は湯呑を差し出す。
おかわりを要求され、桜庭はすぐに急須のお茶を注いでいく。
「それから、ヴァルハラ学園の方ですが…
舞香様がご学友から『部活動に参加しないか』と誘いを受けました」
「教会とギルドで忙しい舞香に、そんな暇があるかっつーの…で、どこの部活?」
「正式な部ではなく、【ブックトーク研究会】という同好会のようです」
【鳩】からの報告によると…
その同好会は、読書好きな舞香の同級生が立ち上げたようだ。
漫画や児童文学、小説などのあらゆる書物を紹介したり、感想や意見を言い合う
…読書会のようなクラブとの事。
「なお、舞香様は『時間が取れる時だけ参加したい』と返答したそうです」
「舞香は推理小説好きだから、その辺を紹介しそうだな」
「ちなみに、悟様だったら、何をおすすめします?」
「最近読んだ漫画かな…【サイ〇ドクター】とか【頭〇字デ〇ー】とか」
「どっちも読んだ事ありますけど、小学生が読むにしては大人な内容のような…
というか、どこで知ったんですか?」
「学校でよく話すようになったクラスの男子から」
「同級生!? その子、通ですね!」
舞香と言い、悟と同じクラスの生徒と言い、最近の小学生はコアな作品を好む傾向があるのか?
桜庭がうーんと理解し難い表情で唸る中、悟はことっと机に湯呑を置いた。
「桜庭、明日行くぞ」
「ええっ―――…昨日行ったばかりじゃないですか」
ヴァルハラ教団へ行くと言う若主に、桜庭は辟易した顔を浮かべる。
「当たり前だろ。明日は、舞香がギルドで依頼を探す日だ」
先日の夜会デビューにて詳細は不明だが、舞香はとある要人と会談して契約を交わした。
それから、エージェントとしての名前を頂き、明日からその名でギルドの施設へ行くようだ。
「じゃあ、準備頼む。よろしく」
「…かしこまりました」
いくら言い聞かせたとしても、悟は行動するだろう。
その事を身に染みて知っているため、桜庭は観念したように大きなため息をひとつついた。
翌日の午後、ギルドの施設の一階の外の窓付近に、悟はそっと近づく。
「まだ来てないな…」
「悟様、あまり顔を近づけないでください。目立ちますよ」
周囲に視線を巡らせながら警戒する桜庭をよそに、悟は窓から中の様子を観察する。
受付にいるスタッフの他に、エージェントと思われる人物が二人いる。
「ひとりは時々見かける女性ですね。もうひとりは…」
「なんだ、あれ…来る場所を間違ってるだろ」
その内の一人が、和服姿で浪人笠を被っている。
まるで、時代劇に登場する浪人そのものだ。
『笠サムライさん。こんにちは』
『ああ…久しいな』
「でも、あのエージェントの方、他の人達とは普通に話せていますよ」
「…なんか納得できねえ」
風変わりなエージェント…笠サムライは殊の外、周囲と打ち解けているようだ。
悟はむぅーと頬を膨らませる。
なんで、あんなあからさまにコスプレ感満載な者がエージェントになれて、自分はなれないのか。
だから、条件を満たしていないからじゃないですか…と小声でツッコみを入れる桜庭を無視して、悟はじっと中を凝視する。
『失礼いたします』
その時、悟の顔がぱぁぁ…と明るくなる。
入り口の扉を開けて入ってきたのが、待ち人だったからだ。
『舞香ちゃん、こんにちは…あら、新しい制服?』
スーツ姿のエージェントの女性からの問いかけに、舞香はにこっと笑って首を縦に振る。
『エージェントとしての名前を頂いたので、そのトレードマークとなる制服も作ってくださいました』
舞香が身に纏う衣装は、シスターが纏う制服と似通っている。
濃紺色のシスター服とは異なり、トマトのような赤色と白色のアクセントが入ったワンピースとケープを纏っている。胸元に青空を連想させる色のブローチがつけられており、ココアブラウンのブーツを履いている。
どこか、ファンタジー世界のシスターを連想させる衣装は、舞香の不思議な雰囲気とマッチしている。
『この色とデザイン、素敵ね…とっても似合ってるわ』
『ありがとうございます』
「あの服…誰が作ったんだ? 特殊な力が練り込まれてる」
「そうなんで…って、写メはやめてください! バレますよ!」
六眼で舞香が纏う衣装に特別な力が宿っている事を見抜く一方、パシャパシャと携帯の写真機能をフル活用して想い人を撮る悟。
なんて器用なんだ…と桜庭は半ば呆れつつも、目立つ行動をしないようにすかさず注意する。
『舞香ちゃん、お待たせ!』
『コラソンさん、こんにちは』
指導役のコラソンがやってきた。
彼等の会話内容を聞き逃すまいと、悟は耳を澄ませる。
『依頼は三件あるけど、どれにする?』
『そうですね…』
『お世話になります! 修理に参りました!』
その時、扉が開くや、修理業者がやってきて大きな声で話し始めた。
『修理するトイレはどちらにありますか?』
『二階の方になります』
『県外からの案件に関する資料はできた?』
『すみません、急いで印刷します』
『笠サムライさんは、依頼見ないんですか?』
『今日は別件だ。人を待っている』
さらに、ギルドのスタッフやエージェントの間でも会話がごちゃごちゃと飛び交い、肝心の舞香達の会話が聞こえてこない。
『じゃあ、これで?』
『はい、お願いいたします!』
「あー! 肝心なトコ聞けなかったじゃねえか!」
「悟様、落ち着いて…」
「あらあら、こんなところで何をしているんですか?」
鈴が鳴るような心地よい声が聞こえてきた。
悟と桜庭が同時にバッと振り返ると…
「こんにちは、小さな侵入者さんとお世話係さん」
にっこりと笑みを浮かべた濃紺色のシスター服を纏う女性…リエ・クローチェがそこにいた。
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