【裏1】五条家の子息は、転生少女を手に入れたい
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「なんでだよぉ…」
実家に帰宅するや、悟は机に突っ伏してしまう。
舞香と話ができた事は嬉しい反面、誘いをあっさり断られてしまった事が悲しかった。
(舞香は、稽古が好きなのかな…)
確か、今日の稽古は日本舞踊だったはず…と悟は頭の中の引き出しから、記憶を手繰り寄せる。
舞香の踊るところが見てみたい…という願望が芽生えるが、同時に舞香の拒否の言葉がリフレインして再び机に顔を埋めてしまう。
(何が悪かったんだ…舞香は何が気に入らなかったんだ…?)
自問自答する事、数時間。
女中が夕餉の時間を告げに来て、憂鬱な気分を振り払うように居間へ向かった。
「藤基家が本宮家と見合いをするそうだ」
父が言った衝撃な話題に、悟は持っていた箸を落としてしまった。
「藤基家は、男子が二人いましたね」
「家を継ぐのは次男の方で、本宮家の長男と懇意にしているとの話だ」
「そうなると、長女の舞香さんをどちらかと…」
聞こえてくる両親の会話に、悟は大いに動揺する。
(うそだろ…)
ギュッと拳を作り、悟は唇を噛み締める。
藤基家は中立派をまとめる一大勢力だ。
一年前の茶会で、藤基家の兄弟とも顔合わせした事を思い出す。
(あの二人のどっちかと……くそっ!)
あまりにも早すぎる展開に、悟は混乱しそうになったが、必死に頭を働かせる。
(…落ち着け、落ち着け…まだ婚約した訳じゃない)
自分に言い聞かせるように、悟は策を考える。
どうにか、見合いを妨害できないだろうか…。
「悟」
唐突に父から名を呼ばれ、思考の波から現へ戻った。
「…なに?」
「この間、行きたいと言ってたパティシエの店、予約しておこうか」
「あー…うん、ありがとう」
「予約日は、お前が決めていい。よく考えるんだぞ」
父のその発言に、悟は「ん?」と違和感を覚えた。
二日後、本宮家と藤基家のお見合いの日時と場所が記された調査書を読んでいた際にハッとした。
(…このホテル、パティシエの店がある場所じゃねえか)
これは偶然…ではない。
悟は察した。
父は間接的にだが、こちらの事を応援してくれている。
(よく考えろ、か)
口角が徐々に吊り上がっていく。
こうなれば、見合いをぶち壊してしまおう。
(親父、有難く利用させてもらうよ)
内心、父に感謝しながら、悟は準備を進めていった。
見合い当日、悟は二家が集まるレストランに潜入していた。
事前に予約も入れておいて、軽くオードブルを摘まみながら待っていると…
(きたっ!)
水色のノースリーブのワンピースに上からベージュのカーディガンを着ている少女は、間違いなく舞香だった。
オシャレ着姿も可愛らしいと見惚れていたが、彼女の隣にいる男子に視線が移った。
黒髪の穏やかな風貌の男子…藤基智彦。
悟よりも五歳年上で、外見は人畜無害な人物のように思える。
しかし、悟は警戒している。
一年前の茶会の際に、智彦の中に得体のしれない術式がある事を見抜いていた。
弟の闘也も別の強力な術式を持ち合わせていたが、智彦の場合はさらに異質だ。
まるで、この世界にはないような特殊なもの…そんな感じがした。
(くそっ…近づきすぎだろ)
舞香と楽しそうに話す智彦を見て、悟は苛立ちを隠せない。
どうにか、舞香だけを引き離す手段はないか…と考えている最中、彼女がトイレに行った。
この好機を逃さないと、悟は別の扉から出て、トイレから一定の距離がある付近で待機する。
五分後、ハンカチで手を拭きながら歩いている舞香にすかさず声をかけた。
「こんにちは、本宮舞香」
まさか此処で悟と遭遇するとは思っていなかったのか、舞香は目を瞬かせつつも挨拶を返してくれた。
話して分かった事だが、舞香は今日の外出の事を「親しい家の人達との仲良しお食事会」という認識でしか捉えていない…つまり、見合いとは思っていないのだ。
これはチャンスだと、悟は積極的に押していく事にした。
「上の階、美味いパティシエの店、予約してるんだ。
その…甘い物好きだろ? 一緒に食べないか?」
舞香は「???」と困惑している様子だ。
「家族がいるから…」
「使いのヤツに連絡させておく。だから…」
もう一押しだ、と悟がさらに話しかけようとしたその時…
「(あれは…)伏せろ!」
咄嗟に舞香を抱きしめて、悟はスライドするように右斜めに移動する。
先程、二人がいた位置の床が大槌を落としたかのように陥没した。
「こんな時に…邪魔するんじゃねえ」
六眼に映し出される醜悪な魔物…人の負の感情で生み出された呪霊。
迫るような低い声で威嚇し、悟は地を蹴った。
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