【11.5】モンさん、語る
「ヴァイス…!」
エスタロッサが名を呼ぶと、ヴァイスは閉じていた瞼を薄らと開いた。
再度、目を閉じて数秒してから、ゆっくりと瞼を完全に開いた。
モンスピートはホッとした。
よもやこの状態が長期に渡るのでは…とこの場にいる全員が覚悟していた中、
意識を取り戻してくれたのだから。
「おぉ…よかったわい! ヴァイス、どうじゃ? 具合の方は…」
ガランも安堵したのか、上半身を起こしたヴァイスに駆け寄る。
「……ッ…」
「ヴァイス…?」
この時、モンスピートは違和感を覚えた。
ヴァイスの顔色がすぐれない…?
最初は、病み上がりだからだと考えていたが、すぐに違うと察した。
「…あぁ……あぁ…ッ」
周囲に視線を巡らせたヴァイスは、全身をカタカタと震わせる。
何かに怯えている…?
モンスピートがその疑問を口に出そうとした時だった。
「あっ……うわぁアアア―――ッ!!」
部屋全体に、ヴァイスの叫び声が響き渡る
キィイインと金属音を鳴らしたような音が耳を震わせ、
同時にヴァイスの体からジワジワと魔力が溢れ出していく。
(なんだ…この魔力は…!?)
ヴァイスの中にある見慣れた魔力と…それとは別に全く異なるものが混在していた。
しかも、その量が半端なく…とめどなく湧き出てくる。
『○○○×●…******M□◇◆■◇!!??!』
ヴァイスは頭を両手で抑えながら、意味不明な言語を発しだした。
それに伴い、彼を取り巻く魔力の量もどんどん増えていき、部屋へ拡散しようとしている。
「いかん!」
ガランがその異常に気付いたのか、素早くヴァイスを取り押さえた。
「やだぁあああ!! やめろォオオオ!!」
「ヴァイス…落ち着くんだ!」
モンスピートも、ガランを手伝う形で暴れるヴァイスを羽交い絞めにしながら、必死に宥める。
「ヴァイス、ヴァイス…! どうしたんだ…ヴァイス!?」
豹変した幼馴染に、エスタロッサは必死に呼びかける。
「けつからいって…サル…」
いきなり豹変したヴァイスに、デリエリが怯えた様子でそう表現した。
訳の分からない言語を叫んでいる姿が、サルがキーキーと喚いているように見えたのだろう。
「…ヴァイス……こわい…ッ」
ヴァイスが苦しんでいる姿に耐えられなくなったのか、メラスキュラはとうとう泣き出してしまった。
…場が混沌と化していき、どうすればいいか判断に迷ってしまう。
「どけっ」
不意に命令口調で言われて、拘束していたヴァイスを手放したその刹那…
―――トンッ
メリオダスが暴れるヴァイスに手刀を入れた。
それにより、ヴァイスが気絶した事で…事態は収束した。
「ふぅ、助かったよ」
安心の気持ちが勝ったためか、モンスピートが漏らした言葉に、メリオダスが目を鋭くして睨み付けてきた。
不謹慎だぞ、と暗に非難されている気がして「…失礼」と小さく謝る。
「俺は魔神王様に報告をしにいく」
ヴァイスを頼むぞ、とエスタロッサに小声で言うと、メリオダスは足早に退室した。
報告とは、任務の事か…またはヴァイスの事か?
(どっちにしても…この事は魔神王様には告げた方がいいかもしれないね)
思案時の癖から髭を撫でながら、モンスピートは冷静にそう考えていた。
ヴァイスの身に何が起きたのか…?
ヴァイスとは異なるあの魔力は一体、何なのか?
(…頼むから、次起きた時は、いつものように笑ってくれ)
疑問が浮上するものの、モンスピートが何より願ったのは…
目覚めたヴァイスが元に戻っている事だった。
【モンさん、語る】
「みんな、ごめん」
願いが通じたのか、二度目に目覚めたヴァイスは申し訳なさそうにモンスピート達に謝った。
…いつものヴァイスがそこにいた。
エスタロッサとメラスキュラは歓喜のあまり、ヴァイスをギュッと抱きしめ、
デリエリは「サルじゃない」と安心した様に彼の傍に近寄る。
あの現象は何だったのか…と本人に聞きたかったが、
まだ病み上がりなのでもう少し時間をおいてからにしよう。
なにはともあれ、一件落着だ…と一人納得していた。
(あの時、ちょっとでも、ヴァイスに話しかければよかったかね…)
回想するモンスピートの胸に、じんわりと後悔の念が生まれる。
(そうすれば、あいつの『変化』を知る事ができたかもしれないのに…)
あの出来事が引き金で、ヴァイスは“変わってしまった”
その些細な変化が、時の経過とともに大きな効果を生み出してしまい…
後の世にも影響を及ぼす事になる。
【つづく】
・
