【11.5】モンさん、語る
100年位経過した頃、部隊に若い世代が混じるようになった。
ヴァイスも、十戒の補佐をする形で出陣するようになり、戦場を駆け巡る姿を目にするになった。
敵との小競り合いがない時は、幼馴染の兄弟…メリオダス、エスタロッサといっしょに遊んでいる光景をよく見かけた。
「ぼぉーとしてると身体が鈍るぞ」
「あ、メル」
「ヒマなら、俺の稽古の相手しろよ」
この時期のヴァイスは大人しい性格だった所為か、戦以外の時は1人でのんびり過ごす事が多かった。
そのため、幼馴染の2人の内、どちらかまたは両方がヴァイスの背を押して外へ遊びに行くのがお決まりだった。
「ヴァイス、遊ぼう」
「いいよ」
特に、エスタロッサはヴァイスを積極的に連れ出していた。
彼が同年代の子の中で、メリオダス以外で心を許していたのはヴァイスだけだ。
モンスピートの目から見ても、その事実は分かり易く表に出ていた。
おそらくこの時から、エスタロッサは自分のお気に入りのカテゴリーに、ヴァイスを入れていたのだろう。
「ふんふーん~♪」
「けつからいって、おんぶ」
「わたしも~」
ヴァイスは他の世代からも慕われた。
モンスピートが任務でいない時に、幼いデリエリやメラスキュラ等、年下の子ども達の世話をしてくれた。
「…ヴァイスといると、おちつく」
メリオダスがポツリと呟いたその言葉に、内心同調した。
ヴァイスは、荒ぶる者の心を落ち着かせる才能があった。
いや…この場合は「力」といった方が適切かもしれない。
魔神族の中では、異彩を放っていたにも関わらず、それを目立たせる事なく
周囲にごく自然に本人の特徴の一部だと思わせていたところがヴァイスの美点であり、
ある意味恐ろしいところであった。
モンスピートはつくづく思う。
あの当時、ヴァイスの力に目をつけて、悪用しようとする者が同族にいなかった事が幸いだった…と。
もし、そんな輩が1人でもいたらもっと早い段階で部族の団結が失われてしまい、
敵対部族に付け入る隙を与えていたはずだ。
たかが、その程度の力で…と思うだろうが、ヴァイスの本当の力はそれだけではなかった。
その鱗片をモンスピートは目撃したのだ…【あの出来事】で。
きっかけは、魔神族の領土である森林での散策。
敵対部族の討伐が続いていたため、息抜きと食材探しを兼ねたピクニックのようなものだった。
適当な果実が落ちていないか、ヴァイスはエスタロッサと2人で探していた時に
…ハプニングが起きたのだ。
「…モンスピート」
「デリエリ、どうした?」
「あれ」
デリエリが指さす方向に目を向けると、慌てた様子でこちらへ駆けてくるガランが両の目に映った。
「緊急事態じゃ!」
「何が…ッ!?」
ガランは、ぐったりと意識を失ったヴァイスを抱きかかえていた。
後から走ってきたエスタロッサが狼狽した様子で、事の次第を語った。
…ヴァイスは、見た事のない植物の蔓を手で掴んで数分経たない内に倒れてしまったとの事。
領土内とはいえ、原因不明の症状で意識を喪失した子どもを森のど真ん中で休ませる訳にはいかない。
ガランはエスタロッサを伴う形で、先に領地に戻る事にした。
「ヴァイス、だいじょうぶなの?」
メラスキュラが不安な面持ちで尋ねてきた。
まだ幼女であるのに、普段は大人びた物の見方をする彼女が、年齢相応の子どものように困惑している。
「けつからいって…かえる」
「ヴァイスの事が気になって、食糧を取る気になれない。
早く帰ってヴァイスのもとへ行きたいのか?」
「ん!」「…わたしもおなじ」
モンスピートの翻訳に、デリエリはコクリと頷き、メラスキュラは小声で同意する。
2人とも…それだけ、ヴァイスの事が心配なのだろう。
「…分かった。じゃあ急ごうかね」
デリエリとメラスキュラを両方の腕で抱きかかえると、モンスピートは漆黒の翼を広げて領地へ向かった。
到着するや、そこには任務から帰還したばかりのメリオダスもいた。
寝室で、未だに目を覚まさないヴァイスを見る彼の顔は悲しさと悔しさが織り交ざった感情を表に出していた。
いつものメリオダスからはありえない程、顔が感情で彩られていた事に驚きつつ、モンスピートはガランに状況を訊いた。
「…で、どうなんだ?」
「うんともすんとも言わん…治療に当たってくれた者も、原因が掴めんとの事だ」
眉を顰めるガランは力のない声で答えた。
エスタロッサは悲痛な表情で、ヴァイスの手を両手で握りしめてその場から離れようとしない。
元は、彼が植物の蔓を放り投げてしまった事が発端だったためか、責任を感じているようだ。
「う…ん…」
部屋によどむ重苦しい空気を切り裂いたのは…ヴァイスの声だった。
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