【11】エステル、異世界の貸本屋でお泊まりする(3)


「…で、俺達はあんたの所に来た問題客の所為で、巻き込まれたって事か」


「申し訳ありません。

こちらとしてもお客様を必ず元の世界に帰るまでの最大限の保障はいたします」


「ありがとうございます」

「ところで…もう一つ聞きたい事があるんだがな」



ハルと話していたユーリは、向かいの席に座るエステルを横目で見る。

胸がドキッとした。

いざ、話す出番がきたのはいいものの、エステルはどう話を切り出せばいいのか

…頭がパニックになってしまう。



「エステル…お前、なんでこの事言わなかったんだ?」

「…えと、その…ですね」


暗黙のルールが気掛かりで、だなんて…ハルがいる前で口にするなんてできない。

エステルは数分の間、口を開閉を繰り返していき…


「タイミングが合わずに言いそびれました」


なんとか無難な回答を言えた。


「本当はもっと早く言うべきでした…すみません」


謝るエステルに、ユーリはふぅ…と溜息を漏らす。


「おかげで、長い事調べる羽目になっちまっただろうが…」

「えっ?」


ユーリが後頭部を掻きながら言った言葉に、エステルはきょとんとする。


「実は…僕達は、極秘でエステリーゼ様の調査をしていました」

「ええっ…!?」


さらに、フレンからの衝撃的な告白に、エステルは驚きの声をあげてしまう。



「エステリーゼ様が、一時的に行方不明になった事故の件もあり、

陛下から内密に護衛をつけるよう頼まれたんです」


「最初は、デコとボコがその役目を負ってたんだが…」



デコとボコとは、エステルもよく知る帝国騎士団『ルブラン小隊』に所属する下級騎士の二人だ。

長身の痩せた体格で、剣を操るデコもとい『アデコール』、小柄で肥満体系の槍を操るボコ、もとい『ボッコス』。

この二人のコンビは、ユーリとは腐れ縁であり、彼等は何かと問題を起こすユーリを追い掛け回している。


しかし、エステルは小首を傾げる。

アデコールとボッコスが、ここ最近エステルの周りを巡回しているように思えなかったからだ。



「警備の度に、会えなかったんだとさ」

「はい?」


「二人、やる気満々で警護するために、その都度エステルの部屋や

ハルルの家に行ってたんだが、お前がいなくてな…」


「…え、それじゃあ…!」



おそらく、アデコールとボッコスは…エステルが貸本屋へ行っている

時間帯に彼女を訪れていたのだ。我ながら、なんという回避率だろう…。



「二人の証言から、これはおかしいと判断しました。

そして、城に勤める使用人達にも確認をとった結果…城にいる間でも、エステリーゼ様が一定時間、

姿を見せなくなる事が明らかになりました」


「だから、こいつが【凛々の明星(ブレイブ・ヴェスペリア)】に依頼をしてきたんだ

…『エステルの隠密行動を探れ』ってな」



ユーリは親指で、フレンを指さしながら言う。



「しかし、エステリーゼ様の事です。

ユーリを含める【凛々の明星】が登城している事を知れば、驚いて気を遣われてしまう可能性が高い」


「…ったく、だからって変装する必要があるかっての」

「変装…ですか?」



エステルの目が大きく見開く。

この半年の間に、ユーリや他の仲間達が別人に姿を変えて城内にいたというのだ。


…全く気付かなかった。

すなわち、旅を共にしたエステルの目ですら欺くほど、彼等の変装が完璧だったという事だ。


「あの…ユーリはどういう変装だったんです?」

「茶色のウィッグをつけて、眼鏡をかけた文官の姿でしたよ」


フレンが笑って告げると、半目のユーリが「言うなって」と軽く肘をつく。

旅の時は、不可抗力で下級兵に成りすましたり、彼専用の黒がベースの騎士の衣装を身に着ける事があった。

そのため、エステルの中では『ユーリが変装する=騎士』というイメージが定着していた。

…その固定概念を利用して、彼は真逆の在り得ない職種の人物になりきっていたのだ。


「すごい…見てみたいです」


エステルは素直にそう感じた。

仲間の変身姿を想像して、胸をワクワクさせる彼女の心情が顔から伝わったのか、ユーリは思わず脱力しかける。



「あのなぁー…」


「僕も、最初見た時は吃驚しましたよ。

本当に別人みたいで…でも、話してみるとやっぱりユーリでした」



にこやかに教えるフレン。

エステルはその姿を頭の中で想像してみる。


「…! もしかして…」


エステルの脳裏に、ある人物の姿が蘇る。

つい最近、城内を移動している時に見かける事が多くなった、茶色の長い髪を後ろ手に紐でくくった眼鏡をかけた若い男性。

城に入ったばかりの新人かと思っていたが…

まさか、あの男性がユーリだったのか。



「慣れない格好して、こっちは大変だったんだぞ」

「その割に、食堂や他の施設を存分に利用していたじゃないか」

「…さーて、そうだったかな」



フレンの指摘に、ユーリは視線を横に逸らしてとぼける。

案外、彼なりに楽しんでいたのでは…とエステルは笑いかけてしまう。




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