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「本日の目玉商品はこれです」

「おおっ…!」


嫁さんの隠された秘密が明らかになって以降、俺は彼女との距離が一気に縮まった。

嫁さんは…俺と同じ転生者だ。

生前は、日本人で医療関係の仕事に携わっていた女性だった。


いつ生まれ変わったのかは不明だが、5歳の頃に生前の記憶が蘇った。

その際は混乱したようだが、俺のように気分は悪くならなかったらしい。

俺も元は日本人だったため、色んな面で意気投合した。


只今、俺達はいつもの喋り場にいる。

火を焚いて、特製鍋を使ってある物を炊いている最中である。



「故郷の世界で、あの材料を見つけてから時間をかけて作る技術は取得しました。

だから、この世界でも作っちゃいました!」



嫁さんは得意そうにえへんと胸を張る。

うん、彼女のその功績に俺は拍手を贈りたい。



「見事だよ…ラザラス。“アレ”は半ば諦めてたんだ」


「そんな、ハルさん…諦めたらそこで試合は終了ですよ。

何事もしぶとくしがみついてたら、いつかは実が成るんです」


「そうだな、諦めたら何も変わらないな…素晴らしい名言を頂いた、感謝する」



俺は至極真面目な顔をしつつ、内側ではグッと拳を握ってハイテンションだった。



「…この黒い艶のある色。鼻を擽る懐かしい匂い。

俺はコレを待っていた…!」



透明な専用の容器に入れたその黒い液体とは

―――『醤油』である。



「さて、ハルさんがそれを懐かしがっている間に、私は食器の準備をします」



嫁さんは炊いていた大鍋の蓋を開けた。

その中身は、白くピカピカに輝く小さな粒。

懐かしき白米の匂いに…思わずゴクッと喉が鳴った。


「まずは、軽めにいきましょう」


嫁さんは軽く鍋のご飯を混ぜると、持参した茶碗によそった。

湯気がふわりと立つ米が密集した茶碗を受け取ると、俺は「いただきます」と言って、手作りのマイ箸を用いて一口食べた。



「……………うまっ!」

「そうでしょう、そうでしょう!」



懐かしい米の味に、思わず背景に野花がぽつぽつと咲いていく。

この弾力、噛めば噛むほど甘みが増す…間違いなく、ジャポニカ米に近い。

久方ぶりに味わうコメをじっくりと味わう。

…気付けば、一杯目を完食していた。


「おかわり、頼む」

「はい、では二杯目は大盛でいきますね」


嫁さんは今度は大きめの丼を取り出すと、そこにご飯を予告通り、多めに盛り付けた。


「卵は準備できてます?」

「ああ、この通り」


俺の手には本日、この領地で放し飼いしている鶏に似た鳥が生んだ新鮮な卵を指先で掴んでいる。

おおっ~と嫁さんは目を輝かせて、卵を受け取る。

ご飯の真ん中を窪ませ、そこに卵を割って入れる。

目玉商品である醤油を入れてかき混ぜる。

少々黒みが加わった黄金色のご飯…卵かけご飯を頂くのは何百年ぶりだろうか。


「では頂きます」

「…いただきます」


二人で同時に一口。


「「……………」」


それからは一言も言わずに、無言で箸を進めていった。

感想を口にするのも勿体ない位、卵かけご飯の味は俺と嫁さんの心を虜にしたのだ。



「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」


それから白米を何パターンか美味しく調理して試食した。

お陰で、夕食は取らなくて済みそうだ。


「ふぅー…こんなに楽しい食事は久しぶり」


嫁さんはお腹を擦りながら、至福の表情を浮かべている。


「誰かに前世の事は話してないのか?」

「…うん」


俺の何気ない質問に、嫁さんは小さく頷いた。

何故だと俺が聞く前に、彼女は理由を話してくれた。



「こわいから」

「…何が?」


「故郷には…親しい友達や家族のような人達がいます。

その人達に今の私じゃない『前世の私』の事をカミングアウトして…拒絶されてしまうんじゃないかって。

そう思うとこわくて…誰にも話せなくなったんです」



寂しそうに言う嫁さんに、俺の心は激しく揺れた。


「俺もだよ」

「ハルさん…も?」

「ああ、同胞に前世がある事を誰にも教えていない」


幼少期、前世の記憶が戻って倒れた時の事だ。

意識を取り戻した直後の俺は、前世と今世の記憶がごちゃ混ぜ状態になっていた。


視界に映る身近な人達に安堵の気持ちがでる一方で、見た事のない奇異な存在に思えてしまい、パニック状態に陥ったのだ。

怯えて暴れまくる俺を、ガランのじいさんとモンさんが必死に身体を抑えて大人しくさせようとした。


突然、訳の分からない言語を叫びながら豹変した俺を目にした幼馴染みや子ども達の動揺もすごかった。

エスタロッサは、錯乱状態の俺の名前を呼びながら元の状態に戻そうと必死だった。

幼かったデリエリはビビっていたし、メラスキュラも半泣き状態だった。

あの時、幼馴染の一人…メリオダスが俺を一度気絶させてくれなければ、もっと事態が混乱していただろう。

それ以降、俺は徐々に今世の事を受け入れて、冷静さを取り戻せたために、現段階まで支障はほぼなく暮らせている。



「でも、前世の事はこれからも同族には話さないつもりだ」

前世が人間族だった。

魔神族にとって、人間は女神族の次に忌避の対象である。

その事を白日に晒しても、デメリットしかないのだから」


「ずっと…秘密を抱えて生きていくんですね…」

「そうでもないよ」



俺のあっさりした言葉に、嫁さんはきょとんとする。


「"秘密を共有する仲間”がいるから」

「あっ…」


その言葉の意味をすぐに理解したのか、嫁さんはふふふっと照れくさそうに笑う。

こうして、俺は嫁さんと前世の記憶を持つという共通点のある、秘密の友達となれたのだった。

それから、定期的に食事会を開きながら、情報交換をしていく事も
増えていった。


この時…同胞が影からこちらの様子を覗いていた事を俺は気付かなかった。

それで、後に厄介な出来事が発生してしまう事も…。




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