【7.5】スーブニール(2)


「随分とさっぱりしたじゃないの」


三日後、大体の荷物を移動させて自宅で一休みしている時に、十戒の一人…モンスピートが訪れた。

幸いにも、この二日間は誰も突撃してこなかった。

モンスピートもといモンさん曰く、あの後で十戒のほとんどに各自任務命令が下されたためとの事。


(そっか…だからか)


エルとゼルドリス辺りがその日の内にやってくるか、と予想してたが、なるほど任務で来れなかったのか。

思わぬ事で順調に引っ越し作業が進んだ事は嬉しいが。


「聞きたい事あるんだが、いいかね?」


モンさんは微妙な顔で尋ねてきた。

彼もまた、三日前の俺の選択を納得していない様子だ。

立ち話もなんだから椅子に座らせて、簡単な芋菓子(サツマイモの茶巾絞り)と緑茶でもてなす。

どうも、とモンさんは芋菓子を一口齧って味わうと緑茶をずぅと飲んで喉を潤してから、再び口を開く。



「お前、何考えてるの?」

「何を、とは?」


「三日前の事だよ。

まさか前の奴らが先に選んだから、やむなく三番目をとったのか?」



もし、そうなら撤回できるよう進言しようか?

モンさんはどうやら、俺が選択肢が消去法だと思い込んで、残った三番目の任務を渋々請け負ったと思っていたらしい。



「という事は…重複しても問題なかったんだ」


「そうだよ。ていうか…それ想定にいれてなかったようだな。

ま、他の二名にも言える事だけどね…ハァ~…折角“増やした”のに」



一瞬、耳を疑った。

増やした?

つまり、最初は選択肢は三つではなかった事になる。



「その口調だと…途中から選択肢を増やしたと?」


「『二番目』をね、特別枠だ。

今回の査定から、我らが魔神王は他の者の意見も取り入れるようになってね」



モンさんが説明してくれた。

過去、査定された者達は今回のものとは比べ物にならない程厳しい環境へ追いやられていた。

しかし、昨今では鍛えれば才能を開花させられる者も少数ながら査定対象者の中にいる事を発見した。

その人材を見極めるために、魔神王は側近や近衛部隊【十戒】を交えながら、処遇のバリエーションを増やした。


「でも二番目は目立ちすぎだろ…内容的に」

「そうかねぇ…アレで結構やる気起こさせられると思うんだが」


実際、一名選んでたし…とモンスピートは髭を触りながら言う。

彼の言う事は一理ある。

【十戒】は、魔神王直属の戦闘部隊というポジションから、多くの魔神族の間で

その地位につく事は一つのステータスであり、憧憬の対象である。

その補佐につくとなれば、日陰の身から一転、出世頭の仲間入りとなったも同然。

でも――――



「このままでいいよ」

「おやまぁ…理由は?」


俺が三つ目を選んだ理由は簡単。

…仕事をする合間に『趣味』も並行して行いたかったから。

『趣味』とは、専ら前世の知識を用いた研究である。


一つ目の選択もそれなりに魅力があったが、どちらかといえば派遣先にいる方があれこれしやすいと思ったから。

それに、外界に出る場合は同族を一名同伴させなければならなくなる。

フィールドワークはできれば単独でやりたい。


二つ目は前世の記憶も起因してか、無益な殺生に忌避感があるゆえに、

対立種族との戦いに呼び出される回数が多くなるから除外した。

それに補佐役は聞こえはいいが、誰の配下になるかによって、待遇はガラリと変わる。

いわば『ロシアンルーレット』だ。


十戒の面子はその圧倒的な強さに比例する形で個性的だ。

話せば面白いタイプもいれば、年中戦いを好む体育会系もいたり、合理主義的な性格で、

役立つ者は拾い上げ、無能はすっぱり切り捨てる者もいる。


モンさんのように一定の距離感を保つタイプなら苦はない。

だが、中には余計な詮索をしてくる人物もいる…メラスキュラやゴウセルのように。


彼等の事を嫌いという訳ではないが、深く追及されるのはあまり好きじゃない。

“前世”の教訓からか、己の情報を明かすのは出来る限り避けたい。

だから、一つ目と二つ目の選択は他の二名に丁重に譲る事にした。


それに、派遣先の実態も気になる。

魔力をあまり放出しないという点は、何か特殊な原因があるのではないか…?

その点を解明できたら、その森林地帯の価値も多少は変化するだろうし、

上手くやればデメリットをメリットにチェンジできる可能性もある。


時間制限はない上に、自分の好きな事をやりながら仕事ができる。

――――俺にとったら、贅沢な任務である。




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