【6】星の輝く夜に
つかれた…もうダメ。
どれくらい走ったんだろ…?
あの日、ぼくは住んでいる森で他の子達とごはんを探してた。
仲のいい子といっしょに、おいしそうな木の実を見つけてかじろうとしたら、
他の種の友達が飛んできて大声を上げたんだ。
『人間がきたぞ!!』
人間…ぼくらとはちがう二本の足で歩く種のこと。
お兄ちゃんが言ってた。
人間には「いい」のと「悪い」のがある。
「悪い」のは、ぼくらや森にいるみんなをいじめて誘拐するって…。
あの日、森に来たのは「悪い」人間だった。
へんてこなものを使って、森にいる他の種を捕まえたり、ここでは見た事のない別の種を使役して、
友達を攻撃して捕えようとする。
ぼくは友達といっしょに逃げた。
それでも、「悪い」人間は追いかけてきた。
人間に使役された別の種が飛んできて体当たりしてきたり、技を使って僕らを追い詰めていく。
途中で友達ともはぐれてしまった。
ぼくよりも脚が速いからだいじょうぶ…だと信じたい。
なんとか森を抜けだした先は崖だった。
遥か下には、たくさんの樹が密集してるけど、落ちたら無事じゃすまされない。
ぼくは飛べないし、まだ戦ったこともない。
『へへっ、手こずらせやがって…』
どうしよう…脚がおもうように動かない。
このままじゃ、ぼくは悪い人間に捕まっていじわるされちゃう…。
だれか…たすけて!
その時、ふわりとぼくの脚が宙に浮いた。
あれ? あれれ?
もしかして、ぼく飛んでる!?
パタパタと足をばたつかせながら、上を見るとおっきな黄緑の穴があった。
突然のことで気が動転してると、悪い人間がびっくりした顔で立ち尽くしてた。
それを最後に、ぼくは穴に吸い込まれてしまった。
あったかい…とってもふわふわしてる。
悪い人間に傷つけられたところがいたくない。
…あれは夢だったのかな?
ぼくはゆっくり目を開けた。
…そしてびっくり!
人間が三びきいるもの!
「よかった…このコ意識を取り戻しましたね!」
「うん、顔色もよくなったし…これで安心かな。せつさん」
「了解、消化の良いスープを用意しよう」
…でも、あの時の悪い人間じゃない。
うまく言えないけど、あいつはすっごく『悪』っていうのが顔に出てて、笑ってた顔もすっごくいやらしそうだった。
でも、ここにいる三びきはちがった。
ぼくが起きたこと、ほんとに安心したっていう風によろこんでる。
笑う顔もほわほわしてて、こっちもくすぐったくなるくらいうれしくなっちゃった。
「ぶぃ…(あのね…)」
「うん、話は後にしよう。お腹すいてないか?」
この人、なんでぼくの言いたいこと分かったの?
おなか…すいてる。
あの時、ごはん食べられなかったから…力がでない。
「もうすぐ、せつさんがおいしいスープをもってくる。いっぱいお食べ」
ほんとに!?
ごはんがいっぱい食べれるの?
「ああ、おかわり自由だよ」
その人はほんのり笑って頭を撫でてくれた。
ぼくは思った。
――――この人、「いい」人間だって。
*** ***** ***
「イーブイ、ですか?」
「それは何と言う生物なんだ?」
「ポケットモンスター…略して『ポケモン』の一種だよ」
ゲルダとセッタの疑問に、ハルは答えた。
手には『ポケモン図鑑』というタイトルの書物が開かれている。
「二年前に店に壮年の学者の男性が迷い込んだのは覚えてる?」
「はい」
「僕の記憶が正しければ、『オーキド』という名前で、マスターの文通仲間の一人だと思うが…」
その通り、とハルは小さく頷く。
ハルが所持している図鑑は、二年前にこの店へ訪れたオーキド氏が御礼代わりに贈呈してくれたもの。
彼は忙しい身であるため、あまり来店しないが、現在でも文通(メール)を経由して交流は継続している。
「それで、この図鑑に載せられてる写真が『コレ』」
「まぁ…」
「なるほど」
図鑑の真ん中の頁に『イーブイ』に関する説明書きが記載されており、
掲載されている写真はまさに拾った茶色のケモノと姿が一致した。
ゲルダとセッタはそれを見て納得したようだ。
「そうなると、あのイーブイは野生か人に使役されていたのか…どちらだろう?」
セッタは眼鏡を指先でかけ直しつつ、もぐもぐとスープをおいしそうに食べているイーブイを見つめる。
「それはあのコに直接訊くしかないな」
「可能なんですか?」
「ああ、それなら問題ないさ」
ゲルダの問いかけに、ハルは口元に綺麗な弧を描いて、ぱちりと片目を瞑る。
「この場所に施した俺の‟魔法”は意外と万能なんでね」
・
