【5】『ハレ』のイベントは少女と軍神を魅了する


いつきは、日ノ本の最北端の村に住む少女だ。

田畑を耕して農作物を収穫する…他では珍しい銀色の髪と可愛らしい顔立ちが特徴の、一般的な農民の子どもであった。


しかし、荒れ狂う乱世の波がいつきの人生を大きく揺らした。

争いが日常茶飯事のこの時代において、一番の被害に合うのは何の力ももたない民だ。

多発する軍の争いは、近隣の村々へ被害をもたらしていく。

何の罪もない民は無残に殺され、収穫した農作物は奪われ、年頃の娘達は兵士達の慰み者にされてしまう…。


そんな状況を狙って夜盗が村を襲う事も重なっていき、時に村自体が壊滅してしまう事態へ陥る事もあった。

略奪と蹂躙が繰り返される理不尽な世に、いつきは心痛め、憤った。

そんな彼女の優しさと現状を強く変えたい思いが、ある女神を呼び寄せた。


――――稲の女神『ウカノメ』


誰よりも民の立場を理解し、平和を愛する彼女ならば、この乱世を鎮める事ができるかもしれない。

一種の願いを込めて、女神はいつきに戦う力…武器である木槌を授けた。

こうして、いつきは立ち上がった。

著名な軍が争う中、いつきは信頼できる村人とともに【いつき一揆衆】という軍閥をつくって猛進していった。

時に、村人を苦しめる夜盗や小悪人の集団を懲らしめた。

時に、魔王と名高いあの織田信長が率いる軍にも勇猛に立ち向かった。

時に、有志が多い村へ正体不明の軍勢が強襲してくるのを未然に防いだ。

終わらない戦に、心が疲弊していく事もあった。


そんな時、いつきは出会った。

純白の透き通った羽をもつ一人の女性に…。

その人こそ、のちにいつきとかの独眼竜、伊達政宗とを引き合わせ、同盟を組むのに一役買った天上界に住むエクレシアだった。

彼女は、いつきの心に良い意味で大きな影響を与えた。

早くに両親を亡くし、一人暮らしだったいつきにとって、彼女は母親に等しい存在となるのは時間がかからなかった。

いつきが住む日ノ本のみならず、世界すらも滅亡しかけたあの未曽有の大事件以降も、その人との交流は続いている。


また、あの事件で知り合った伊達政宗以外の侍の何名かとも親しい知り合いができた。

その中の一人と…久しぶりの再会を果たしたのは、異世界の屋敷だった。



*** ***** ***



「まっさか、軍神のにいちゃんに会えるなんて思いもよらなかったべ!」


店長のハルの計らいで、謙信といっしょに食事処へやってきたいつき。

まだ他の常連客はおらず、カウンターの奥で料理中のハルと他のテーブルを濡れ布巾で拭いているゲルダだけだ。

ちなみに…普段、料理を担当しているセッタは本日は休暇を取ってどこかへ出かけているらしい。


「私もです。あの戦以来ですね」

「んだ! でも軍神のにいちゃんはなんでここに?」

「その事情を語る前に…いつき殿はどういう経緯でこちらへ迷われたのですか?」


謙信の問いかけに、いつきはうーんと腕を組んで眉を潜める。


「それがすげぇながーい話になるんだ。聴いてくれるか?」

「ええ、もちろん」

ニコリと微笑む謙信。

いつきは一呼吸おくと話し出した。



*** ***** ***



そもそものきっかけは、村人の一人…吾作があるモノを発見した事だった。

秋のこの時期、いつきは村に住む者達と総出で農作物の収穫をしていた。

収穫も一段落して、女達が丹精込めて作った握り飯と汁物を味わっていた時…聞きなれた声が響き渡った。


「おーい! 誰か来てけれー!」


裏で用を足していた吾作が大声をあげた事に、村の若い衆といつきは立ち上がる。

もしや、戦で負けた落ち武者か山賊でも現れたのか?

愛用の武器、大きな木槌をうんしょっと持ち上げ、いつきは走って現場へ駆けつけた。


「吾作どーん! 無事だべ!?」

「い、いつきちゃーん!!」


吾作は井戸付近で腰を抜かしていた。

周辺には、敵らしき姿はなかったが…世にも奇妙なモノが目に入った。


「うわぁ…なんだべ、こりゃ」

「奇怪な穴が開いてるべぇ!」


他の若い衆が摩訶不思議なソレに驚きを露わにする。

井戸に近い住居の壁に切れ目ができており、そこを覗くと緑黄の不気味な色の歪が広がっていたのだ。


まさか、冥府への入り口か?

いやいや、極楽浄土への隠し道やもしれない。

さまざまな憶測が飛び交う中、いつきはその場にいる全員にこう言った。


「これが何なのかおらにも分からねえ。でも、うかつに近づかねえ方がいい。

村にいるみんなにもそう伝えてほしいべ」


この未知なる歪が何なのか…正体不明のこの現象を解明するなんて難しい事は自分にはできない。

だが、面白半分に触れたらいけない気がした。


そこで、いつきは考えた。

二日後、領地視察を兼ねて伊達軍が村へ訪問する予定となっている。

その時に、政宗と側近の片倉小十郎に相談しよう。

信頼する二人なら、いい知恵を教えてくれるかもしれない。

いつきのその判断は客観的にみれば…間違っていなかった。


しかし、彼女が二人に相談する前に思いがけない事態が起きてしまう。




1/3ページ
スキ